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【創作大賞感想(1)】日々鯨之さん作「ある朝の目覚め」を読んで

今日から少しずつ、創作大賞2024応募作品の応援投稿を始めていきたいと思います。不定期になるとは思いますが、お楽しみいただければ幸いです。

第1回目は、日々鯨之さん「ある朝の目覚め」の感想を書かせていただきます。恋愛小説部門応募作品です。

化粧はわたしの「戦闘服」。わたしを強くしてくれる。

内気で感受性の強い自分に「武装」してIT企業の技術営業職として働くあや子は、お気に入りのノートと万年筆で日々の出来事や自分の考え・思いを書き出して整理する習慣を仕事や生活に活かしている。

出勤前のおひとり様時間を楽しむカフェでのある女性バリスタとの交流が、あや子の日々と内面とに、最初は小さな、徐々に大きな波紋を起こしていく。

ある日、1杯の特別なコーヒーとそこに込められた様々な思いにより、あや子の人生に決定的な変化が訪れる。

性の多様性を1つのテーマに、真の自分らしさや心の自由を求めて生きるヒロイン達の等身大の物語。

引用:日々鯨之さん「ある朝の目覚め」第一章「あらすじ」


最初に日々さんの「ある朝の目覚め」に出会ったのは、noteを再開して間もない春先のこと。偶然に出会い、日々さんの描く繊細で透明な世界観に惹き込まれました。

そこから日々さん、そしてパートナーのdoggyさんとは友人として親しくさせていただくようになりました。日々さんとdoggyさんは、創作ユニット「@doggyandwhale」として、創作を通じて世界の様々な問題に働きかけておいでです。

本作「ある朝の目覚め」も、おふたりの共作です。物語を日々さんが綴り、その編集をdoggyさんがされるという形で、第七章まで作られていきました。ヒロインたちのエピソードには、doggyさんの実体験も盛り込まれているそうです。

「ある朝の目覚め」では、主人公のあや子が送る毎日の暮らしの描写を丹念に積み重ねながら、あや子にとって特別な存在となっていくバリスタ・まなとの心の交流が、非常に繊細で誠実な筆致で描かれていきます。

あや子の毎朝のモーニングルーティンの中に組まれた、出勤前のスターボックス・カフェでの穏やかな時間。あや子はそこで一日の予定を概観し、コーヒーを飲んでひと息ついて、顔馴染みのバリスタの線画を描いて、出勤していきます。

いつ頃からか、彼女の線画を描くのが習慣になっていることに気付いたあや子。彼女は、これまでに書き溜めたノートを読み返していきます。


わたしは、いつ頃からあのバリスタの線画を描くようになったのだろうか。わたしは更に過去のノートを見返していく。わたしは沢山のバリスタの線画を見返す。わたしは思っていた以上にあのバリスタを描いていた。わたしは理由を深く認識せずに彼女の線画を描き続けていたようだ。あのバリスタの何がわたしを惹き付けるのだろうか。

引用:日々鯨之さん「ある朝の目覚め」第一章より


無自覚だった自分の思いを自覚した瞬間。あや子の中にちいさな変化の炎が灯ります。

そしてあや子は、書き溜めてきたノートを読み返すことを通じて、過去の自分との対話を深めていきます。その過程において、無意識のうちにしまいこんでいた事柄があらためて浮かび上がり、あや子はその時に感じた感情を掘り下げていきます。

「ある朝の目覚め」では、一章ごとにあや子の送る一日が描かれています。そう、この小説はあや子が過ごした一週間の出来事なのです。それぞれの章の冒頭では、あや子の見る夢が描かれますが、その夢はあや子の身体のサイクルと連動しているようです。

休日を挟んで、自分の気持ちと向き合ったあや子は、どこか新鮮な気持ちでいつものスターボックス・カフェのバリスタ・まなと向き合います。そして、彼女たちの心の距離は徐々に縮まっていきます───。

繊細な心の交流を深めるあや子とまな。彼女たちにとって大事な転機となったのは、あや子の身体のサイクルも終わりに近づいた頃でした。

この第六章は、日々さんのパートナー・doggyさんの実体験も基になっているとのこと。お二方にとって大事な思いの詰まった第六章、物語を読み進めた先でお読みいただければ幸いです。


物語が深まるたびに、あや子もまなも自分の内側でどんどん親しい友人となっていくのを感じました。あや子は内向的だけど、自分を奮い立たせて外の世界と向き合うタイプ。自分を守り、防御するために化粧などの装いで武装する彼女の美意識はとても鋭敏で繊細です。一方のまなは、心がオープンで芯の強い女性。まなが二人をそれぞれ動物に喩えるところでは、思わず笑みが浮かびました。

そしてコーヒーが飲みながら、ひとりで書き物をしたくなる小説です。私もいま、この記事を書きながらコーヒーを飲んでいます。物語に出てくる、特別なブレンドを私も飲んでみたくなりました。


「ある朝の目覚め」では、日々鯨之さんとパートナーのdoggyさんの共作であるイメージ映像も作られています。



バッハの音楽にのせて、主人公のモノローグが流れるイメージ映像第一作。さまざまな映像の流れていく第二作。どちらもとても魅力的です。余談ですが、イメージ映像第二作に出てくるカフェが昔行った思い出のカフェと似ていて嬉しくなりました。


現代の日本を生きる女性たちの等身大の恋愛が細やかに描かれた「ある朝の目覚め」。ぜひ、お読みくださいね。








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