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人生で初めてライブDVDを買ってしまった話

人生で初めて、ライブDVDなるものを購入してしまった。

買ったDVDは「NANA-IRO ELECTRIC TOUR2019」というツアーを収録したものだ。
私が大好きなバンド、ELLEGARDENが15年ぶりに参加した対バンツアーで、他にストレイテナー、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが出演している。

このDVDの発売を知った時、エルレとアジカンとストレイテナーなんて、私の青春豪華三点盛りセットではないか!!と大興奮したものの、今まで音楽は音源が聴ければ満足だと思っていた私にとって、ライブDVDなんてものは縁が遠いものだった。「あんなにいつもエルレ大好きだって言ってたじゃん」と付き合っている彼に言われ、決心して今回DVDを買うに至ったのだ。

アマゾンで予約したのが7月半ば、そして手元に届いたのが8月上旬だ。
実は、そこから一週間くらいは、なんだか再生する勇気がなくてそのまま本棚に飾ってあった。

2007年、14歳だった時、あれほど好きだったエルレ。そしてエルレのボーカルの細美武士さんのことがめちゃめちゃ好きだった。MTVやスペースシャワーTVで、エルレが出る番組はすべて見た。細美さんが出ているラジオもいつも聴いていた。
なのに好きになって一年もたたないうちに、エルレは活動休止を発表してしまった。
「絶対ELLEGARDENとして戻ってくるから」そう言い残して、ラジオ番組も終わってしまった。

細美さんだって、My favorite songって曲で歌ってたじゃん。
My favorite radio show is never ending!って。
もうエルレが私の世界から消えてしまったんだと気づいた時、涙が止まらなかった。

そして2年前にエルレ活動再開のニュースを知って、信じられない思いで驚いた。しかしエルレが好きだった中学生の頃の私と今現在の自分の間にはあまりにも隔たりがあり、それを素直に受け入れられなかった私は結局ライブに申し込むことはなかった。せっかくエルレが活動を再開したのに、やはりエルレは14歳の時のものとして思い出にしておきたかったのだと思う。

14歳のあの時期、私は死ぬほどロックが好きだった。学校が退屈だった私には、ロックだけが唯一の救いだった。しかし、エルレの活動休止と共に、あの日々で感じていた暗くてエモーショナルな情動を、心のどこかにしまいこんでいた。

そしてそれを、すっかり大人になってしまった今、改めて14歳の時のまま触れることなく「冷凍保存」されている、あの頃の気持ちに直面するのが怖かった。
好きなことも嫌いなことも、楽しいことも苦しいこともすべてが、14歳の私の世界ではまだ未分化なものばかりだった。何一つとして納得することも折り合いをつけることもできず、それでも捨てきれない期待と、どこまでも沈んでいく救いのない虚しい絶望との狭間で、毎日逃げ続けてきた。

それでもやっぱり、学校に行けば制服のスカートの長さと男子の視線ばかりを気にしているくらいには平凡な、どこにでもいる田舎の中学生だった。

ナイーブで不器用で、何をしてもカッコ悪かったあの頃の生の感情なんて、思い出したくない。
だから今になってエルレのライブDVDを見る勇気がなんだか出なかった。

そして昨夜ついに、彼と一緒にそのライブDVDを見ることになった。
私は深夜1時半まで仕事関係の資料作成をしていたため、それを終えて見始めたのが深夜二時だ。

DVDを再生すると、さっそくELLEGARDENのメンバーがステージに出てきた。
気持ちの整理がつかないまま、自分のなかで止まっていた時計が動き出した。狂ったように音楽にハマり出し、音楽が自分のすべてだった14歳の時の魂が、27歳になった私の肉体に戻ってくる。

ライブのセットリスト一曲目はFire Cracker。
私が最初に買ったエルレのアルバムであり、活動休止前の最後のアルバムでもあるELEVEN FIRE CRACKERSというアルバムの二曲目だ。
あのアルバム全体に漂う、どこまでも暗くてそしてどこまでもエモーショナルで衝動的な空気。あの頃聞いていた時の想いが、一瞬で2020年の今に戻ってくる。

アジカンもストレイテナーも好きだけど、やっぱりエルレのステージは特別だった。出会えたことも、また彼らがELLEGARDENとして戻ってきてくれたことも、すべてが幻のようだ。彼らの奏でる音楽、ステージ、パフォーマンス、そのすべてが儚くて美しい。こんな言葉で語り尽くせない激情を、そして一体感を、このライブに参加している人はどんな気持ちで感じているんだろう。

翌朝、久しぶりにエルレや細美さんの最近の活動について調べてみた。

彼の公式ブログで、こんな文章を見つけてしまった。
「俺、細美武士46歳、ようやく結婚することができました。」

NANA-IRO ELECTRIC TOUR2019で発表したという。

私の秘められた初恋は、どうやら13年の時を経て散ってしまったようだ。

大人になってから、「忘れられない恋なんてない」といつも自分に言い聞かせてきた。死ぬほど好きだった人と別れる日が来ても、次も必ず、そんな前の人を忘れさせてくれる人に出会うと信じてきたし、実際そうだった。

だけど細美さんのことが好きだった気持ちは14歳の時のまま変わっていなかった。ナイーブで夢見がちだった私は、彼の歌声やしゃべり方や、一挙手一投足のそのすべてに救われていた。こんな男の人と、暗くて深いところでつながりたいと、そんな恋を少女ながらに夢見ていた。

今更思い出したくなかった、14歳の時のあの純粋すぎる熱い想い。
そして大人になると、傷つかないように立ち回るのが上手くなった。

だけど時々むくりと顔を出すそいつは、なんだかむずむずして気持ち悪いんだけど、やっぱり嫌いになれない大事なものであり続けるんだ。
大人になっても、心のどこかで14歳の私はまだ生きているんだと思う。

誰もがきっと持っている、少年少女だった時代。カッコ悪くて最高だったあの頃に、一瞬で私の心を戻してくれる。そんな力がELLEGARDENのライブにはあるのだと思った。

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