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忘れられないこと

毎日家と仕事場の往復。
変わり映えのない毎日。

最近、父の体調不良をきっかけに、実家の掃除を始めた。物が多く、高齢になった両親にはどうにもならないだろうと思い、片付けたかった。
何か汚さにため息が出る。

自分の学生時代の物も案外残っていた。
本も縛って捨てよう。
あれこれ残しておいてしまうのやめてもらわないとな、なんていろんなことを思いながら。。。

自分の物もところどころ出てくる。
友達と行った旅行のお土産、飛行機のチケットなんかも出てきた。
懐かしい。
あまり見ていても片付かない。
今日はとにかく捨てにきた。そんな決意でゴミ袋に入れていく。

そんな時、見覚えのある手紙が出てきた。

もう捨てたと思っていたもの。
時々思い出すことのあった手紙。心の中にしまった手紙。
まさか出てくるなんて…

20年くらい前、就職して5年くらいたったころ。
だいぶ仕事に慣れてきたけれど、次々やることが増えて必死だった。
職場で仕事の相談にのってもらうことがあった10歳年上の人がいた。
真面目に仕事をこなし、時々抜けたところを見せる彼に、いつのまにか惹かれていた。
既婚者だった。そんなことも分かっていた。
私が勝手に好きなだけだった。見てるだけで、時々話せるだけで心が鳴った。


別に何も求めてなかった。

そのうち気持ちがつながった。
飲み会の帰りに2人になることがあり、話ながら帰っているときだった。
心臓が飛び出そうな気持ちでいた私。

その時もらった手紙。
気持ちがつながっていることを知った。


良いことではなかったから、進めなかった。
好きだと思うことと、前にすすむことは違うと思ってその思いを伝えた。
たくさん伝えた。

人と人が気持ちで繋がることの儚さを知った。
想い合うことでしかつながっていない、目に見えない、何の補償もない関係。
それでも思い思われることがこんなに幸せだということ、強くなれるきっかけになること。
そんなことがこの世にあるのだと知った。

幸せでいてほしいから、すすめなかった。
幸せでいてと願われたから、あの人もすすまなかった。


また違う形で出会っていたら、何か始まったのかもしれない。
これまでの人生で、時々思い出すことがあった。それを繰り返し、20年程たったのだ。

歳を重ねた今、また会えたら。
ありがとうが言えるだろうか。それとも…

そんな記憶を思い出させる手紙を見つけてしまった。
私はそっとポケットにしまった。

#創作大賞2023 #恋愛小説部門

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