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キャラクター分解録⑥:「初恋、ざらり」の有紗の”必要とされたい気持ち”について

はじめに

伝えたいことを他人に伝える手段は様々ある。
それぞれに一長一短があるが、物語という手段はかなり強力だと思う。

まず、物語を通して伝えるメッセージは、自分事として受け取ってもらいやすい。自分事して獲得したメッセージは、右から左には流れず、その場に残り続ける。
自分事として獲得しやすいのは、優れた物語の中では、登場人物と感情的に同化してしまうからだ。そうすると、物語は「誰かの物語」から「わたしの物語」へと変化していく。登場人物が体験する感情に自分の感情が共鳴する。これがまず物語という手段が優れていると感じる理由。

また、物語は「緩和」を生み出すことができるという点でも優れている。一方的なメッセージングは、時に受け取り側に緊張を強いる場合がある。物語では、それらを「緩和」させることができる。「緩和」とはユーモアのあるシーンの描写等である。それがあるから、メッセージを受信し続けることができるように思う。

そう改めて感じさせてくれたのは、ざくざくろさんの「初恋、ざらり」です。

※下記インタビューの中で、作者のざくざくろさんは「社会に何か訴えたいとかは全くない」と述べており、noteの記事に記載している内容は完全に私の主観に基づいたものです。


他者から「必要」とされることの中毒性

※物語の内容からだいぶ飛躍していきます。。。。。。。

この物語を通して、私が感じたキーワードは「必要」です。
主人公の有紗は障害を抱えており、それゆえ、劣等感が強く、自分が他者から社会から必要とされているか否かに敏感なキャラクターとして設計されているように思えました。

自分が誰からも、社会からも「必要」とされていないと考えてしまうと、辛くなる。逆に「必要」にされると嬉しい。誰しもに備わるこの感情を利用して、他人を自分の目的達成のための道具にするクズが作中に登場します。現実社会でも一定数存在しているはずです。

では、そもそも、これらの感情はどこから来るのでしょうか。
必要とされていないことが辛いー。
これは、別の言葉で表現すると「孤独」という状態に近いかと思います。
なぜ人間は孤独を苦痛に感じるのかということについては、太古の昔より、人間が社会的動物(=生存のために他者との関わりを必須とする)であったため、孤独を苦痛と感じるようにゲノム的に設計されているという論もあります。孤になることが即死を意味するので、死を避けるために孤の状況を嫌うように発達したということです。

孤独に耐える勇気の源泉

これらは事実かもしれませんが、あくまで誰しもに備わっているという話であって、孤独への耐性には個人差があると思っています。

個人差が生じる要因は様々あると思います。ただし、その要因はもはや個人の資質のみだと結論づけるのはあまりに乱暴であり、大前提として孤独は社会的な問題というのが私個人の見解です。しかし、敢えて孤独に耐えうる個人の資質について考えてみた結果、孤独に耐えるために必要な力は「未来を信じる力」なのではと思いました。

「いつか必ず、自分を必要としてくれる人に巡り合える」
「この苦しみを経験したことで、いつか誰かを励ませるようになる」
このように未来を信じられるか、今直面している状況へ意味を与えられるかどうか。

南アフリカの元大統領・マンデラ氏は、人種隔離政策に反対したことで、44歳の時に逮捕され、そこから実に27年もの間を獄中で過ごすことになる。「一時間が一年のようだった」と振り返る牢獄に27年間も囚われながらも、決してその信念を失うことのなかった、不屈の人権闘志・マンデラ氏の自伝には、孤独と闘う様子が詳細に記されているので、紹介させていただきます。


孤独は社会の問題

描いているうちに話がどんどん飛躍してしまいましたが、孤独は社会全体で見つめ対応していくべき問題だと思っています。その問題の大きさについては、国土交通省が資料に整理していたので載せておきます。少し古いですが、孤独が個人、及び社会にもたらす負の影響についてかなりまとまっていて分かりやすかったです。
https://www.mlit.go.jp/common/001281620.pdf

また、別のnote記事も添付させていただきます。


まとめ

キャラクター分解録と書きながら、かなり飛躍した記事になってしまい申し訳ありません。。
「初恋、ざらり」は、必要とされていると感じたり、必要とされていないと感じたりする有紗の心の浮き沈みがかなりリアルに描かれており、一緒になって喜び悲しんだりできる物語です。

私は有紗とは立場が異なるので、本当の意味で有紗の気持ちを理解できたわけではないのですが、それでもきっとこの物語に出会えたことで、他者へのまなざしを少しかもしれませんが、変えることができたと感じています。

ぜひ、皆さんも読んでみて下さい。

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