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キャラクター分解録⑤:宮部久蔵という男

百田尚樹氏のデビュー作である「永遠の0」の主たる登場人物・宮部久蔵。
この人は物語の序盤では「臆病者」というレッテルを貼られて登場しますが、物語が進むに連れて彼ほど「勇敢」な人はいないとその認識が変化していきます。
物語は、宮部を知る人が章ごとに登場し、彼らがそれぞれの思い出を語る。その中で、宮部の真実が徐々に徐々に明かされていくという構成ですが、最後まで読むと、いや途中の段階で宮部のことを好きになってしまっています。その理由について整理していきたいと思います。

※ネタバレを含みます

宮部の魅せ方①:圧倒的な「憧れ型」の主人公

物語の主役たる人物像は大きく「憧れ型」と「共感型」に2分できるという話を聞いたこともありますが、宮部は圧倒的に前者だと思います。凄腕のパイロットでありながら、それをおくびにも出さず、いたって謙虚で思い遣りのある性格。それでいてその腕は、妻子への強烈な愛情と、陰の努力で培ったもの。さらには、囲碁を打たせても強く、頭脳も明晰とある。。正直言って完璧すぎるキャラクターだと思いますが、”彼のようにありたい” ”彼のような友を持ちたい”といった思いがページをめくらせるのかもしれません。

宮部の魅せ方②:周囲との対比

物語の中では、宮部の考え方や言動は(他の登場人物からすると)異質なものとして描かれていますが、ここもまた宮部を好きになってしまう要素かと思います。彼は、同調圧力に決して屈せず、空気に身を任せず、自らの信念に基づいて行動しています。皆が国のために死ぬことが正義と信じている中、生きて帰ることを決意する。階級社会の軍隊において、上司が身分を傘に威張りくさっていても、自分は身分関係なしに誰人にも誠実に接する。誰も上司に口ごたえができない状況でも、意見する。などなど、作者が当時の”当たり前”を丁寧に描写しているからこそ、宮部の言動がより光輝ているように思えます。

まとめ(この本をお勧めする理由)

つらつらと書きましたが、なんだかんだ一番心にぐっと来たのはラストのシーンでした。
宮部が妻との別れ際に「必ず生きて帰ってくる。たとえ、腕が無くなっても、足が無くなっても、戻ってくる。」と伝えたシーンから伝わる彼の愛と覚悟。
にも関わらずに、最後の最後で生き残りのクジを部下に渡し、自らは特攻で命を落としたこと。
そして最後、愛する妻の死に際に枕元にその姿を現したこと。

読者の私はもう、悔しくて悔しくて、でもあの世でようやく妻と巡り合える
事に対する喜びと、でもやっぱり悔しいよな、、、と感情がぐちゃぐちゃになりました。

最期になりますが、総じてこの本は、戦争で命を落としていった方たちの無念が詰まった一冊です。その無念さは、戦争に敗れたことではなく、戦争に巻き込まれたことに対するものだと私は解釈しています。一度読まれた方も、まだ読まれたことがない方も、ぜひ手に取っていただきたいです。





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