名前を憶える

『一芸を究めない』という本は評判がよかった。過去に私がやってきたいろいろな仕事について書いています。
が、ページの関係で、残念ながら本に入らなかった原稿がけっこうあるのです。いくつか、ここにUPしていきます。
まずは、これ。タイトル通り「名前」の話ですが、実は「トーク」の話でもあるのです。

名前を憶える
 
私の放送作家デビューは80年代アイドル全盛時と重なったので、多くの女性アイドル達と仕事をした。ラジオのレギュラーでは、松田聖子、松本伊代、冨田靖子、柏原芳恵、原田知世、川島なお美、松本典子、井森美幸(アイドルだったのです!)、河合その子、斉藤由貴…などといった方々だ。何年も続いた番組もあれば、半年の番組もある(それが一つの単位だった)。特番やゲストを含めると、もっとたくさんの方と仕事をした。
当時はアイドルとラジオの蜜月期だったのだ。私だけではない。その頃の若手作家はみんなアイドル番組を担当している。
ちなみに、現在は「アイドル」そのものが職種のように認識されているが、当時は違う。若い歌手や俳優がデビューしたての、アイドル的人気の時期をアイドルと呼んだ。

注目のアイドルは、デビューとほぼ同時に自分のラジオ番組を始める。最初はもちろん、喋りは下手だ。当然だ。たいていは16~18歳くらいの女の子。ファンだけでなく不特定多数の大人が聞いている場で、上手に喋れるわけがない(自分が高校生だった時のことを思い出せば納得するだろう)。
しかし、3ヵ月も番組をやっているとだんだん喋りがうまくなる。機転が利くとか、面白いことを言うとかそういうことではない。自分の気持ちをちゃんと語れるようになる、ということ。なんだそんなこと…と思うかもしれないが、実はこれが意外にできないのだ。 

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