個人商店
気がつけば、フリーランスの作家を四十数年やっている。
たいした才能もなく大ヒット作もないのに、ごまかしごまかしよく続いて来たもんだなぁ、と自分でも思う。
こんな私でも、時に脚本コンテストの審査員をやったりもする。そこでの入賞者や、あるいは新人作家たちにいつも言うことことがあるのだ。
とはいえ私は、彼らになにか教えを垂れるほどエライわけではない。ただ少しばかり先輩というだけだ。細々と続けてきた自分の体験から感じていることを伝えるしかない。
なので、
「フリーランスはみんな個人商店」
ということをよく言うのだ。
商店街にある一軒のお店を想像してほしい。大手のチェーン店もあれば、個人商店もある。老舗もあれば、新しい店もある。
業種は、飲食店にしてみよう。食堂・レストラン・居酒屋・割烹・ラーメン屋・蕎麦屋・寿司屋・焼肉屋・うなぎ屋・とんかつ屋・ハンバーガーショップ・喫茶店・甘味屋・カフェ・バー……ああ、キリがない。
商店街の規模によって数は違うが、たいていその手のお店がいくつかある。それぞれ、どうやって生き残っているのか?
「ウチは、材料にこだわっている。それが売り。そのぶん値段が高くなるが、わかっているお客さんだけ来てくれればいい」
という店もあるだろうし、
「ウチは、正直言って味はそこそこ。だけど安くて庶民的なところが売り」
という店もあるだろう。
「ウチは、内装がオシャレでムードたっぷり。デートに最適なのが売り」
という店もあるだろう。
「ウチは、大手のチェーンだから宣伝は本部がやってくれる。抜群の知名度と安心感が売り」
という店もあるだろう。
それぞれの店が、他店にはない「売り」を持っているのだ。
料理の味やサービスがそこそこの及第点に達していれば、
「駅に一番近い」「店主の人柄がいい」「窓からの景色がいい」「Wi-Fiがある」「バイトの女の子が可愛い」「この商店街で***が食べられるのはウチだけ」…などの「売り」で生き残っている場合もあるだろう。
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