2割の人

いつだったか、若手から、
「青銅さんはこれまで、本を何冊も出したり、いろんな番組を書いたりしている。どうやったらそうできるんですか?」
という質問をされたことがある。
(私はスイスイホイホイと楽チンに仕事を続けてるように見えるのか?)
と思った。
いや、もちろんそんなことはないのだよ。

私の仕事は、大きく分けると「作家業(本や雑誌の小説、エッセイなど)」と「放送作家業(ドラマ脚本と番組構成台本など)」になる。
作家としては、これまでに本を四十数冊出している。とくにここ7~8年は年に二冊のペースだ。早めにことわっておくが、ベストセラーはない。威張ることではないけど。

放送作家としては、四十数年やってきた。これも早めにことわっておくが、売れっ子ではない。周囲を見渡すと、平気でレギュラー十数本を抱える放送作家もいる。売れっ子とはそういう人のことだ。
恥ずかしながら、私の過去最大のレギュラー本数は7~8本。それでも手一杯でヒイヒイいっていた。これまた、威張ることではないけど。

作家としては、たいして本が売れない。放送作家としては、大量の番組掛け持ちができない。私は万事そこそこのダメ作家なんだと思う。
この言い方は「いや、そんなことないですよ」という否定の褒め言葉をカツアゲしてるみたいで嫌なのだが、ここは文字通りに受け取ってもらっていい。

あっ! 冒頭の質問は、
(あなたはそこそこのダメ作家なのに、どうして仕事が続いているのか?)
という意味だったのか!?
なるほど、それなら答えやすい。

***
本についての話をするのがわかりやすいだろう。
作家デビュー当初からつきあいがある元徳間書店の編集者で、現在はプロデューサーの関智さんは、
「ベストセラー作家ならどんどん本を出せる。本が売れない人は、普通はだんだん出せなくなるものです。藤井さんみたいに、売れないのに出し続ける人は珍しい」
とハッキリ言う。「売れないのに」の部分は耳が痛いが、事実なのでしかたがない。

勘違いしてもらいたくないのだが、私は「売れなくてもいいから、こだわったマニアックな本を出そう」と思ったことなど、一度もない。

そりゃ過去に、
全国のご当地パイを集めたり(ゆるパイ図鑑)、
邪馬台国のHPを作ったり(歴史Web)、
戦国武将にコントをやらせたり(笑ふ戦国史)、
桃太郎をハリウッドでリメイクしたり(ハリウッド・リメイク・桃太郎)、
…といった本を出しているが、どれも一般的にヒットすることを狙って作っている。
なのに友人には「マニアックな本だ」と言われたり、あるいは「奇書」と呼ばれることもあったりして、私は心外なのだ。
だって、こういうのは一部の人だけじゃなく、日本国民ならみんな面白いと思うはずでしょ? え、違うの?

本を出すからには、売れて欲しい。自分にとってもそうだが、編集者はもちろん、装幀、校閲、宣伝、営業…など関わってくれた人たち、出版社に対しても本屋さんに対しても、紹介してくれたメディアに対しても、全方位でそう思っている。当然じゃないか。

前述の関さんは以前、
「藤井さんはオタク気質が薄いもんなあ」
と言った。
私が『死人にシナチク』や『愛と青春のサンバイマン』というアニメネタ、SFネタの笑いの本を出して、そこそこ評判になっていた時にだ。しかも関さんは『SFアドベンチャー』誌で「サンバイマン」の担当者だったのにだ。
さすが、スルドイ!

関さんの言葉を丁寧に言うと、アニメやSF、オタクに興味があり好意的ではあるが、自分はマニアやオタクではないと自覚している、ということ。
その通りだ。だって、その世界にどっぷり浸かってしまうと外からの視点がなくなる。笑いに必要なのは、外からの視点だもの。
わずかながら私に長所があるとすれば、そういう所だろう。
もちろん、それが弱点であることも自覚しているけど。

だから私は毎回、「この本は(一部のマニアではなく)多くの方が興味を持つに違いない。今度こそベストセラーだ!」と思って本を出している。
これはジョークではありませんよ。私は本心から、毎回そう思って本を出しているのだ。『死人にシナチク』も『愛と青春のサンバイマン』も『ゆるパイ図鑑』も『ハリウッド・リメイク・桃太郎』も『東洋一の本』も…。

ただ、なぜか世間との折り合いが悪く、結果が伴っていない…。
なのになぜ仕事が続いているのか? 自分でうすうす気がついていることがある。

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