「幕末三姉妹」1(テキスト版)
こちらは「幕末三姉妹」の脚本を、横書きベタ打ちにしてみたテキスト版です。内容は先にUPしたPDF版と同じです。が、だいぶ印象が違う。
とくにスマホで見ると、数行に渡るセリフの表示が脚本として読みにくい……と感じるのは、縦書き脚本を見慣れてきたからなのでしょうか?
*
NHK大河ドラマ、朝ドラには「オテンバな女主人公の幼少期は木登りシーンからはじまる」という定番があります。この脚本も、それへのオマージュではじまっています。
「木の上」と「それを仰ぎ見ている廊下」との距離感を、ラジオドラマらしくONとOFFで現しています。しかもそれが何度か入れ替わっている。間にNをはさんで違和感がないようにはしていますが、いま読み返すと「ちょっと凝りすぎたかなあ」と思ったり…。
私は、のちに出した『ハリウッド・リメイク桃太郎』という本で、《イソップ寓話「アリとキリギリス」をNHK朝ドラがリメイクした「コツコツ杏ちゃん」の脚本》というのを書いて、そこでも同じく主人公の女の子に木登りをさせています。アハハ。
コメディテイストの時代劇ドラマですが、古典的な(古き良き)少女漫画、あるいはジュニア小説のテイストも意識しています。
「ラジオドラマ脚本の読み方」を参考にして、読んでみてください。
PDF版とこのテキスト版、どっちが読みやすいでしょうか?
***
痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
幕末三姉妹
第一話「ペリー来航、外圧ぐいぐい」(1853年)
【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
立花慎之介
徳川家慶
老中
現場中継リポーター
N(ナレーション)
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TM CI~BG
N 「タイトル」
TM ~FO
SE 合戦(戦国時代)~BG~FO
N あの「関が原の戦い」で勝利した徳川家康が初代将軍となり、慶長八年、江戸に幕府を開いた。
二代将軍が秀忠
三代・家光
四代・家綱 (※このへんから音声早回しに)
五代・犬公方・綱吉
六代・家宣
七代・家継
八代・暴れん坊・吉宗
九代・家重
十代・家治
十一代・大御所・家斉(※普通の速さに戻って)
そして十二代将軍が、徳川家慶。嘉永六年の、この時、61歳。
SE 太鼓ドン!
N 江戸城で…
M ブリッジ(江戸城のテーマ)~BG
家慶 あ~~~……。
老中 上様、城の石垣の改修を行いとうございます。
家慶 そうせい。
老中 一方、大奥からは、もっと御殿女中を増やしてくれと。
家慶 そうせい。
老中 石垣の改修を先にすべきか?
家慶 そうせい。
老中 でも、大奥か?
家慶 そうせい。
老中 とはいえやはり、石垣か?
家慶 あ~…、そうせい。そうせい!
N 自分では何も決められず、「そうせい様」と呼ばれていた。平和な時 代が250年も続きゃ、将軍もこうなるんですねえ。
そんな江戸城の南。芝・高輪台の一画に、とある藩の江戸屋敷があった。
M ブリッジ(日和見藩のテーマ)
N 庭に、見事な枝振りの松の木が植えられている。その枝の高い場所に…
SE 木の枝、ガサガサ
凛姫 いしょ…、よいしょっと…、うわ~、見晴らしがいい!
じい(OFF)ひ、姫! 凛姫さま! そんなところに登って!
凛姫 じい。ここからだと、遠くがよく見える!
N 女だてらに木登りをしているお姫様がいた。その名は、凛姫。
M (凛姫のテーマ)~BG
凛姫 あの海はどこなの?
じい(OFF)え、えーと、そっちは品川あたりかと。
凛姫 ふ~ん。その先、もっと向こうは?
じい(OFF)その先は、川崎です…。姫たるものが、そんな木登りなど。
凛姫 その先は?
じい(OFF)その先は神奈川の沖…。危ないので、早く降りてください!
凛姫 その、ずーっと先は?
じい(OFF)へ? ずーっと先は…相模の国・三浦半島の横須賀、浦賀あたりかと。
凛姫 ふう~ん、浦賀か。
N お姫様がはるかに見やる、遠く浦賀のあたり。そこに、この時訪れたのが…
SE 大砲ドッカーン!
N あいさつ代わりの空砲をぶっ放す、四隻の大きな黒船。これが、ペリー提督率いるアメリカの艦隊。
そりゃもう、浦賀の人々は大騒ぎ。現代ならば、ワイドショーからレポーターたちがドッと繰り出し、現地レポートを行っているところでしょう。
M 情報番組風、アタック曲
N 現場の飯田さん、そっちはどんな様子ですか?
SE 人ガヤ~BG
飯田アナ 私はいま、江戸湾の入り口・三浦半島の浦賀に来ています。沖合いに、真っ黒な船が四隻。煙突から、もうもうと煙をたてているのが見えます。先ほど、町の声を聞いてみたところ…
町の声1「ビックリしましたよ、そりゃ。数えてみりゃ一、二、三…四つも!」
町の声2「ここらじゃ何回か黒船を見るけど、今度のはずいぶん大きい」
町の声3「あんまり見物客が多いんで、ゆうべ大急ぎで作ったんです、これ。食べませんか? 黒船まんじゅう」
飯田アナ ということでした。現在、海岸は見物客でいっぱい。なかには、小船を出して、酒・肴でドンチャン騒ぎをしながら、黒船見物と洒落こんでいる人もいます。
…以上、浦賀の黒船来航の現場から、飯田がお伝えしました。
M 情報番組風、締めアタック曲
N そんなこととはつゆ知らず、こちら高輪台の藩邸では…
星姫 じい、さっきから何を騒いでるの?
じい おお、これは星姫様。ご覧下さい、あの松の枝の先!
星姫 え?
凛姫(OFF)星姫お姉さま! ここ、とっても見晴らしがいいわよお!星姫 あらぁ、凛姫。あの子、オテンバだから。
じい オ、オテンバなんて生易しいものじゃありません。
凛姫(OFF)ねえ、星姫お姉さまも、登って来ない?
星姫 私?
じい 星姫様っ!
星姫 大丈夫よ。私は、あんなに子どもじゃないし。
弓姫 あたし、行く!
じい え? ゆ、弓姫様! いつの間に?
凛姫(OFF)おいで、弓姫。面白いわよ!
弓姫 うん!
じい あ、ちょっとお待ちください! 弓姫様!
N この藩には、星姫・凛姫・弓姫と、三人のお姫様がいまして、その末娘が、いま松の木をよじ登りはじめた。
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