幕末三姉妹5

ラジオドラマ脚本・第五話。
(すみません、脚本が苦手な方はスルーしてください!)
どんどんUPして、早く最後までいきます。
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマ。
安政の大獄が始まります。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第五話「ハバツとハバツ、ガチンコ対決」(1856~58年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
立花慎之介

本寿院
篤姫

井伊直弼
徳川慶福(家茂)

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

立花・凛姫 篤姫!?

  日和見藩の藩邸からこっそり抜け出し、江戸の町を歩いていた凛姫。そこで偶然出会ったのが、なんと篤姫だった!

立花 あ、あ、あつひめ様と言えば、今度、将軍・家定様にお輿入れの?
篤姫 はい。そうです。
立花 は、ははーーーっ!

   その場に出くわした、日和見藩藩士・立花慎之介は平伏する。

凛姫 その篤姫様が、どうしてこんな場所に? それに町娘の姿をして?
篤姫 去年の大地震で、私はいま渋谷にある薩摩藩の下屋敷に移っています。本日は所要があって三田の上屋敷に来ました。
凛姫 ああ。三田はすぐ近くですね。
篤姫 それで、ふと、思ったのです。
凛姫 ふと?
立花 何をお思いになったのですか?
篤姫 大奥に入ってしまえば、もう二度と江戸の町を歩くこともない。その前に、一人で歩いてみようと。…腰元の着物を無理やり借りてね。
凛姫 あら、私と同じだ!
篤姫 あ、やっぱり、凛姫のその着物も?
凛姫 ええ。私たち、似てますねえ。
二人 (笑う)
凛姫 そうかあ、お輿入れか。それ、いい方法ですよね! 次期将軍は慶福様だ慶喜様だと二つに分かれて大騒ぎしてるのは、将軍・家定様にお世継ぎがいらっしゃらないからでしょ。篤姫様との間に可愛い~赤ちゃんを授かれば、万事解決ね! お幸せに❤
篤姫 …え、ええ。
凛姫 ん? どうしたんです?
立花 あのう、篤姫様?
篤姫 はい?

M  FI~BG

立花 噂によると、将軍は元々ご病弱とか?
篤姫 ええ。そううかがっています。
立花 これまで正室をお二人迎えてらっしゃいますが、どちらにもお子様が生まれなかった。
篤姫 …はい。
立花 生まれないのも道理。実は元来、ご婦人にご興味がな…
篤姫 そこまで! それ以上の言葉は許しませんよ。
立花 ははーっ!
凛姫 ねえ、それってどういうことなの? 

  徳川将軍の…というか、すべての殿様に課せられた最大の役目とは、「子どもを作ること」…なんですね。子孫を残して一家を存続させるために生きている、と言ってもいい。だから、正式な奥さんの他に側室を何人も抱えたりするのが、許された。
この頃、将軍・家定は三十過ぎ。男盛りです。しかし江戸城でやっていることといったら…、金箔のほどこされた七輪で豆を煎ったり、さつま芋やカボチャを煮たり、饅頭やカステラを作ったりしていた。お菓子は作っても、子作りにはとんと興味がない。
当時の奥医師・伊東宗益(そうえき)は、手紙にこう書いている。
「女人に対してご関心が薄いので、お子様の御出生があるべきはずがありませぬ」
…つまり、そういうことのできない体だったんじゃないかと…

篤姫 お黙り! ナレーションも、それ以上の言葉は許しませんよ。

  ははーっ! ……怒られちゃった。

篤姫 私だって実は…、子宝を授かるとは思っていません。私の役目は、将軍に、十四代目は慶喜様を…と勧めること。そして、水戸嫌いの大奥で、慶喜様への味方を増やすこと。
立花 なるほど。それはいい手だ! これで派閥争いが治まるかもしれない。さすが、島津斉彬様は思慮深い。
凛姫 じゃあ…お輿入れは、そのため?
篤姫 表立っては言いませんが、そうです。
凛姫 そういう結婚でいいんですか?
篤姫 いいも悪いも、島津という家柄に生まれたからには…。
凛姫 そういう結婚で、お二人は幸せなんですか?
篤姫 幸せ? …幸せ…ねえ。考えたこともなかった。
凛姫 以前、慎之介に教えてもらいました。西洋では、家柄とか血筋に関係なく、好いた者同士が夫婦(めおと)になるって。そうなんでしょ?
立花 え、ええ。
凛姫 混乱を鎮めるためとはいえ、女は、望んでもいない結婚をしなければいけないんでしょうか?
立花 凛姫様! 将軍家のご婚儀になんということを…
篤姫 凛姫、…聞いて。
凛姫 はい。
篤姫 たしかに望んではいませんでしたが、私は家定様を嫌ってもいません。
凛姫 え?
篤姫 結婚することで家定様の心が安らぎ、派閥の無用な争いが鎮まるならば…そこに幸せを見出すこともできるでしょ?
凛姫 そういうものなんですか? ……私には、よくわかんないなぁ。

M   ~FO

篤姫 でも…、あなたの言うことも、もっともね。たしかにこういう結婚は、もう時代遅れなのかもしれない。世の中はどんどん変わっていく。凛姫、あなたの時は、好きな人と一緒になりなさい。
凛姫 わ、私!? いえ、私はまだまだ先の話ですから。
篤姫 あら、わかんないわよぉ。花が美しい時期は短いんだから。
(ONで)今から「婚活」しといた方がいいんじゃない?
凛姫 「コンカツ」?
篤姫 あなたとは、またどこかで会いそうな気がするわ。じゃあね、私はもう少し江戸の町を楽しんでみる。さようなら~(OFFへ)
凛姫 さようなら~……って、行っちゃった。
ねえ、慎之介、「コンカツ」ってなに? メリケンの言葉?
立花 さ、さあ? 適塾でも習わなかったですが…。

M  コーダ

  凛姫は、日和見藩藩邸に帰って、さっそく…

日和見 なに、本当か?
凛姫  はい。父上、たしかです。
じい  で、では、今度お輿入れする篤姫様は、そういう役目を持っていると?
凛姫  ええ。
じい  なるほど。現在、大奥はそろって、老中の堀田正睦(まさよし)様や、溜間(たまりのま)の井伊直弼様たちが推す「次期将軍・徳川慶福」派。しかし、慶福様は…

慶福(エコー) 「余が慶福(よしとみ)じゃ!」

じい  ですからなあ。
日和見 そりゃ、子どもの方が扱いやすいに決まっておる。
じい  一橋慶喜派が巻き返すには、現将軍自らが「次は慶喜」と宣言し、なおかつ大奥が賛成しなくてはなりません。その両方を兼ねた策が、篤姫様お輿入れ、というわけなんですな。
日和見 ということは、じい、これは慶喜派の勝利…かな?
じい  ですな。
日和見 おーし、決まった。「常に勝ち馬に乗る」というのが先祖伝来の教え。わが藩の藩論は「慶喜派」でいく!
じい  御意。

   これぞまさに、筒井順慶に従って以来、脈々と流れる「日和見の血筋」!

M   (日和見)~BG

日和見 いやあ、凛姫、よい情報を持ってきてくれたな。
凛姫  はい。
日和見 ところで、凛姫が着ているその着物。
凛姫  は?
日和見 なんだか、みすぼらしいのう。
じい  そういえば…これは、よく腰元のお奈津が着ているものではございませんか?
凛姫  …あ。そ、そうです。これは、お奈津に…、借りたんです。
日和見 なぜそんなことを?
凛姫  あの…。えーと…、これは「こすちゅーむ・ぷれい」なんです。
じい  「こすちゅーむ・ぷれい」?
凛姫  「誰かになったつもりで楽しむ」という西洋の遊びで、略して「こすぷれ」と言います。
日和見 こす?
じい  ぷれ?
凛姫  …ええ。西洋では、こういう腰元姿のおなごたちが迎える「腰元喫茶」なるものも繁盛しているとか。
日和見 腰元喫茶?

(イメージ)
三姉妹(エコー) 「お帰りなさいませ、殿様!」
弓姫(エコー) 「はい。この混ぜご飯、熱いので、ふーふーしましょうね」
三姉妹(エコー) 「ふー、ふー❤」

日和見 …じい、よいのう。
じい  は、はい~。殿様。うぐぐぐぐ(←喜んでる)

  この男たちの妄想が現実化するまで、百五十年かかる。

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