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「太陽の末裔」働く女性像とマッチョ男性の理想を練り込んだ熱狂のラブストーリー

予想していたよりもがっちりしたドラマで面白かった。
前回の記事で言及した授業の3週目で、「韓国男性のイメージにSpornosexualという新しい理想を持ち込んだ」として挙げられていた「太陽の末裔 Love Under The Sun」。気になって見はじめたら止まらなかったです。Spornosexualの意味は、鍛え上げられた筋肉をもつ健康でしっかりした男性みたいなイメージです。

途中まで気がつかなかったけど、梨泰院クラスにも彼女の私生活にも出てたアン・ボヒョンが出ていた。

そして「Descendants of the Sun」が英語のタイトル。日本語タイトルについてる英文どこからきたの・・・?

ものすごく真っ当な恋愛ドラマだったのだけど現代韓国の抱える課題やトピックがふんだんに散りばめられていてものすごい突っ込みながら見てたのでそれをメモしておきたいと思います。

韓国では視聴率40%超え

2016年公開のドラマで、大ヒットを記録してロケ地巡礼観光などで一大数字を叩き出したらしいです。日本でも何回か放送されていて、熱心なファンも多い。

すでに見ている韓ドラファンの方も多いと思うのですが、ざっとまとめると、
話は特殊部隊に務めるユ・シジン(ソン・ジュンギ)と私立病院で優秀な外科医として活躍するカン・モヨン(ソン・ヘギョ)のラブストーリーを中心に進みます。ユ・シジンの相棒で過去を抱える叩き上げ兵士のソ・デヨン(チン・グ)とお父さんが軍の幹部で衛生兵として優秀なのに常に色眼鏡で見られて活躍しきれないユン・ミンジュ(キム・ジウォン)の恋愛も最後まで緊張感を持たせ、24話進みます。

ユ・シジンは基本的に国連の平和維持活動や特殊作戦に韓国軍から派遣される軍の中でも指折りのなんでもできちゃうイケメン役。

24話ダレないラブストーリーライン

韓国ドラマって前半で主役の恋愛が成就して、後半は脇役の恋愛や、家族像が描かれることが多いと思うんですが、このドラマはそこが全くない。中盤で架空の中央アジアの国に主役諸々派遣されて基本的にはそのクローズドな中でストーリーが進みます。

子供時代の再現シーンがぜんぜんなかった。ユ・シジンとソ・デヨンとユン・ミンジュの過去の出会いシーンは再現があるんですが、過去のトラウマとか孤児とかそういう話はない。

何もかもは捨てられない

主役男性は軍人としての役割があるので、主人公と出会ってからも緊急呼び出しでデートはドタキャンするし、突然いなくなって3ヶ月とか戻ってこないし何をしていたかも教えてくれない。主人公は外科医で執刀しているので患者が居たら働かなきゃいけないし、全力で手術していて日常はおざなりに。二人は自分の社会的使命感と恋愛のハザマで苦しむのだけど・・・みたいな話です。1個1個の話がスケールがでかくて、いちいち、きになる。最初のデートをすっぽかすのにヘリが迎えにきて行っちゃうとか、いやないだろ!?ハリウッド映画かよ!?幹部でも無い国軍兵士だよ!?と思うのですが、それがドラマだ。

女性が責任ある仕事に就くことについてのさらっとした言及

職業軍人の女性、妊婦の看護師女性、車椅子の医師の友人、女を武器にのし上げる医師の同僚、投資家として事業を仕切る義母・・・など病院を中心に働く女性がふんだんに出てきます。一人ひとりのバックグラウンドは全然言及されなくて、それも最後までダレずにストーリーを全うした理由なのかなと思います。対して男性の職業やキャラクタのバリエーションは少ないです。

「Spornosexual」はどこだったのか?

このドラマ、後から人物相関図を眺めると一目瞭然ですがメインストーリーの2人の男性(と途中で出てくるNGO国際医師団に所属するダニエル)に集中して「かっこいい男性」像が描かれています。身長が高くて、筋肉のメンテナンスは怠らず、マネージメント業務もできる。日常生活で抜けてるところはあるけれどそれを補って余りあるプロの技術と責任感を持って仕事に邁進している。惚れた女性には一途。

これは、女性が惚れる男性像として近年よくあるけど、現実で引き受ける男性からしたらたまったものではないですね。駐屯地で毎朝半裸でランニングする男性たちとそれをうっとりと眺める女性陣という構図が何回も描かれますが、その上半身はバッキバキの筋肉です。

梨泰院クラスでもパク・セロイは毎日走って筋肉バキバキだったし、愛の不時着はそもそもデキる軍人の彼話でした。高身長がイケメンの必須事項となっているような現在の韓国社会へは、大きな影響を及ぼしていそうです。確かにSpornosexualかな。そしてこれが美容整形が当たり前になっているような女性に対するボディイメージへの要求の男性への波及だったら確かに恐ろしい。

途上国進出、国際貢献、人道援助、軍隊

このお話の軸となっているのは軍隊からの国連平和維持活動への参加、企業の途上国医療提供です。軍隊は社会奉仕と軍事制圧と両方描かれる。主人公は私立の大病院から私領域で国連に寄贈される医療施設の導入要員の側面も担っています。途中で大事件の元になるのは韓国企業の太陽光ソーラー発電所の建設(しかもドイツ企業と競って勝ったという設定)。

ふんだんに海外進出する韓国企業・文化の概略が描かれている。

国際貢献活動というのは人道支援だけで終われればいいのですが、そこに終わることはほぼありません。警備や武力衝突の解決までを1国の組織で収められるというのは、先進国としての役割の1つです。こんなに難しい課題を描いているのに、韓国すごいぜ的になっていない。恋愛と政治と国際情勢、それらを個人の人生の役割のドラマに落とし込むところがすっきりしています。「救命病棟24時」を見て医療の道を志す人が続出するのと似た感覚。

中央アジアでは過去にロシアによる朝鮮系民族の強制移住の歴史があったりして、複雑にして密接な関係があるのですが、そんなことも盛り込まれていて濃厚なお話でした。

後日談:主演俳優が現実で結婚離婚・国威高揚活動をする

主演のソン・ジュンギとソン・ヘギョは実生活でも恋愛成就し、結婚して2年弱で離婚しています。結婚するところまででいえばとてもロマンティックなお話だったんでしょうね、リアルタイムでは。

それから主演女優のソン・ヘギョはこのドラマの大ヒットの後、世界中の韓国の史跡や有名博物館に韓国語のパンフレットを送ったり、国威系運動に積極的に関わったりしています。日本にも何箇所か贈ってらっしゃる模様です。良いとか悪いとか無いですが、このあたりに関わる政治性は結構強いドラマだったと思うので、世界中(特にアジア圏)でヒットしているというのはちょっと意外でした。しっかりしたラブコメであれば、国のシステムが違っても人は熱狂できるということかもしれません。

はー。キーとなるトピックが多くて確かに面白かった。現在のところ日本での配信はU-NEXTのみです。

男性のボディイメージの変化へのインパクトとして講義で出てきたのは「花より男子(韓国ドラマ版)」とこの「太陽の末裔」だった。

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