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「女帝 小池百合子」を読んで

 「ソーシャルディスタンス!」
報道陣に囲まれて、ピシッと手を振ってそう言う彼女を、なんだか「友近のコントみたい」と思ったら、もう友近にしか見えなくなっていた。それからというもの、記者会見も、「蜜です」というゲームも、友近のコントに見えてきた。そんな時、TwitterのTLでやたらとみんな絶賛する本と感想が流れてきた。それが「女帝 小池百合子」である。私がフォローしている好きなライターさんや、クリエイターさん、著名人がこぞって紹介していた。「これはホラーだ」と。(能町さんはめっちゃ楽しんでいるけどw)

  私は秒で、Kindle版をポチっていた。

  確かに面白く、ぐいぐい読まされてしまう。現に一晩で読み終えた。おかげで次の日は寝不足だった。読み物としては、非常に面白かった。紹介したtweetにもあるように桐野夏生や真梨幸子の小説を読んでいるようだった。だから、小説の中のサスペンス的な展開の中、嘘で成り上がっていった主人公が、現実に都知事になっている、というところが人々にホラーを感じさせるのだと思う。

 この本は、カイロに小池都知事が留学していた時代にルームシェアしていた人の告発がメインとなっている。他にも裏を取るべく色々な人に話は聞いているのだが、どうも「小池百合子=嘘つき=悪」ありき、なルポタージュに思えた。なので、私は特に小池百合子支持者でも無いが、この本をもってして「小池都知事ってこんなに嘘つきなんだって!東京都民は選挙の時気をつけたほうがいいよ!こんな嘘つく人に都政を任せていいわけないよ!」とは言う気にはなれなかった。それはなぜなのか、詳しく書いていきたい。

第三者視点のように書いているが、偏りを感じる

 私が1番気になったのはここである。どうも、嘘つきありき、のような気がするのだ。「小池は女性だが、女性の敵である」という結論ありきだったのではないか。悪意すら感じる書き方をしているところもあった。以下、本文からどうしても気になった箇所を引用させてもらう。炎上したことが記憶にある方もいるであろう石原元都知事の言葉である。

 「大年増の厚化粧がいるんだよ。これが困ったもんでね。俺の息子も苦労しているんだ。とにかくね。増田さんにやってもらわなくちゃ。厚化粧の女になんかまかせるわけにはいかない。」会場の男たちが一斉に大声で笑った。それは醜悪な光景だった。
 石原を好意的に見るならば、彼が本来言いたかったことは、これに続く言葉だったのだろう。石原は続けていった。「あの人はね、嘘つきですよ」。
〜途中省略〜 大年増、厚化粧という表現には、うわべを嘘で塗り固めている、という比喩も込められていたのだろう。

いやいやいやいや!!!んなわけあるか!10000歩譲って厚化粧はまだしも、大年増にそんな意味ないだろう。私はこの一文を読んで、この本に書いてあること全てを鵜呑みにしてはいけないと改めて強く思った。他にもここの部分の記述の中には

 女を見下し、男であることを誇りながら、なんと、ひ弱なことか。男性優位の社会に恨みを持つ女性たちは、彼らを許さなかった。
 石原の発言は前半部分が切り取られて報道されるや、すさまじい批判を浴びた。

などと書かれており、特に「男性優位の社会に恨みを持つ女性たちは」の部分は大多数のあなたたち女性ではなくてこういうタイプの女性だけが怒ったんですよ、と言わんばかりの悪意のある記述である。こちらが興ざめするほどに。ひ弱なことか、なんて誰も言ってない発言まで付け加えて。この後、この石原発言に対して集まった報道陣の前で小池百合子は右ほほにあざがあることを告白し、これを切り札に当選した、と続く。さらにこの騒動で女性を味方につけたとする記述にも

 容色が衰えて男に嘲られる中高年女性たちは自分を小池に投影し、緑に身を染めて街頭演説に駆け付けると小池の名を絶叫した。

 かつては小池百合子自身が「ミニスカートとハイヒールでたたかう」や「オバタリアンと一緒にされたくない」などと、嘲る側にいたのに”オバサン”を味方につけるために鞍替えしたという主旨なのだが、あまりに、これは支持者たちに失礼では無いのか。私はこの筆者こそが、女性へのルッキズムに囚われているのではないかとすら感じた。

悪いのは小池百合子だけなのか?政治の男社会は悪ではないのか?

  そもそも、「ミニスカートで女の武器を使ってのし上がる」ようなことも、「その時々の権力者になびく」も、男社会で上に行くには仕方がなかったことなのではないか、と思える。まともに真っ正面から戦ったとしたら、はたして都知事になっていただろうか。かつてのその”オバタリアン”と揶揄された女性政治家みたいになっていたのではないだろうか。
 和久さんだってこう言ってる。「青島、正しいことをしたければ、偉くなれ。」と。みなさんお気づきだろうが、踊る大捜査線の和久さんのことである。小池百合子が正しいことをしたいかどうかは置いておいて、偉くならなければ、何も変えられない。その手段だったとしたら、後述する「カイロ大卒業ということにした(かもしれない)」ことも、あまり責められないのではないか。事実、「カイロ大卒」ということに飛びついたメディアや人選があったわけで。とにかく、彼女は「その時代の空気を読み、マーケティングする能力、そして心に残るように言葉にする能力にずば抜けて秀でている」ということは言えると思う。現に今回のコロナ対策において「分かりやすく、キャッチーで、自分の言葉で伝えようとしている記者会見」は、総理の原稿を読んでいるであろう途中で論点が分からなくなるような会見とは比べようも無かった。

完璧な政治家なんておそらくいない、プライオリティーで考えるしかない

 そもそも、カイロ大を首席で4年で卒業、というのが嘘なのか本当なのか、小池さんの話すことが二転三転していてどれが本当かわからない、それは事実なのかもしれない。でも個人的にはそんなことは瑣末なことではないかと思うのだ。「嘘をつく」ことが良いと言っているわけではないことは大前提として、そもそも「卒業したかどうか」よりも「何を学んだのか」「それをどう政治に活かすのか」「どういう政治をしてくれるのか」の方が大切なのではないだろうか。小池百合子が「カイロ大を卒業した」政治家だから、応援するわけではないだろう。実際、カイロ大が彼女の卒業を証明した。卒業の月が違う等言われているが、四半世紀も前のそのことをもってして都知事として不適切、という烙印を押すのはどうなのか、と思う。そもそも嘘をついていない政治家などいるのだろうか。それで言ったらカイロ大卒どうこうより、桜を見る会や森友問題の方がおおごとだろうし、欠点のない政治家などいないだろう。だから我々有権者は自分が政治家を選ぶプライオリティーはなんなのか、今一度考えなければいけないと思う。まわりが叩いている人を一緒になって叩いて、まわりが賞賛している人に票を入れる、ということをしている以上、選挙はメディアやSNSに踊らされる人気投票に成り下がってしまう。

 と、ここまで書いてきて、なんだが、私は別に小池百合子氏を別に全面支持擁護しているわけではない。前回の選挙時の公約「7つのゼロ」は、え?そこなの?都民じゃないから分からんけど都民の皆さんが求めてるのってそこなの?って思ったし、築地移転問題のグダグダや、この本にもある小池氏の実績とされている「クールビズ」もなんだかなぁと思う。ただ、彼女の今回の公約の「ペーパーレス、ハンコレス、キャッシュレス、タッチレス」は上手いなぁと思うし、名誉男性であれ、どんな人であれ「女性が上に立つ」ことで、まだまだ手強い男性優位社会に少しは良い影響があるのではないか、とも思う。ただ政策で言ったら、私は断然、宇都宮けんじさん支持なのだが、政策を実現するには政治的手腕(小池氏の得意なマーケティング力含む)も必要だろうし、そこが大丈夫かな…とちょっと不安。

…って埼玉県民なので都知事選の投票権なかったわ!!


 でも、隣県の話だし、コロナの時は一蓮托生のような間柄であったし、何よりアクの強い人たちが立候補しているようだし、生暖かく興味深く都知事選はちょっと離れたところから見守ろうという所存である。そうそう皆さんもお忘れかもしれないが、そういえば読書感想文なんだった。というわけで、この本は選挙の参考に読む類のものではないが、読み物としてはとても面白かった、というのがこの本に対する私の結論である。
おしまい。

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