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雨明けの空はひとすじの口を引く青トマト            さやのもゆ

きのうは一日中雨が降り続き、帰宅したころにようやく、小止みになった。

リビングのテーブルに腰掛けた母との会話は、いつも夜になる。

話題は、その日に周りで起こったことや、私が直売で野菜を見つけてきたか否かーとか、そんなところだ。

母は、庭のプランター畑で小松菜やインゲン、トマトなどを育てている。
なかでも、一番の好物であるトマトについては、日毎その生長をつぶさに見守っているのだが・・。

母は、キッチン台に置かれた2個のトマトを手に取りながら、

「前の日は何ともなかったのに、大雨のせいで皮がやぶれちゃった。」

見れば、ツルリと薄赤く色づいた表面に、白い横スジが入っている。

前の日に収穫しておけば良かったー。

母は後悔しつつ、トマトを置いた。
「でも、もうすこし置いとけば、食べ頃になるけどね」とか言いながら。

一夜明けた、晴れ間の下(もと)で。

庭のトマトの木は、葉っぱの影に青いトマトの実をつけていた。
別の枝には黄色い花も咲いていたが、近いうちに枯れていくだろう。
そして、ヘタの奥から小さく実を結ぶ。
ある日、母に気づかれるまでコッソリと、大きくなっていくのだ。

みずみずしさをギュッと詰め込んだ、それでいてー傷つきやすい表情を張りつめて。

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