私の優しさを私は知らない。

コンビニのレジ横には、何か災害があった時に支援金や義援金用の募金箱が設置される。気づいたら入れるようになるまでには恥ずかしさが邪魔していたけど、ここ数年では気づいたら躊躇もなく、恥ずかしさもなく入れられるようになっていた。

でも友達といる時にも自然とやっていたら「優しい！」と言われて、それ以来なんだか募金する度にもやもやするようになってしまった。

募金する行為って優しいのか。優しいとされる行為とはちょっと逸脱しないか。
自分でいうのも嫌だけど、募金という行為を称賛するのに「優しい」という言葉はなんか安っぽいというか軽くないかなどと考えてしまう。
自分が募金したことをもっと格調高い崇高な言葉で褒め称えてほしいわけでは決して、決してないのだけど、なんか行為と言葉が全然合っていない気がするのだ。

私だったら誰かが募金しているのを見て、それを肯定したい称賛したいとなった時に、なんて言うかなぁどういう言葉がしっくりくるのかなぁともやもやしてしまう。

でもそう考えると、募金という行為は肯定されるべきものでも称賛されるべきものでもないのかもしれない。

だんだんそんな気がしてきた。
「優しい」という言葉に違和感があったんじゃなくて、それを褒められるということに違和感があったんだきっと。

今日読んだ本。

優しい人になりたいな、と思うけれど、本当にそうなれているかどうかはわからない。厳格さも崇高さも、ぼくは持ち合わせていない。ぼくは、打算的で理屈っぽく、かつ適当さに憧れを持つ人間なのである。そんなぼくでも、優しい人になりたいとたまには思う。

『平熱のまま、この世界に熱狂したい』

子供の頃からよく言われる褒め言葉の上位を占めていたのは「優しい」だった。
募金の時もそうだったけど、それ以外の時でもその褒め言葉にしっくり来たことはなくて、それを言われると不意打ちを食らったかのようにキョトンとしてしまうというか、「これは優しさなのか？」と腑に落ちないばかりでなんだか納得がいかなかった。

長年のしっくりこなさがすっきりしたのは、友達に言われた「優しいし頭がいい」という褒め言葉だった。
「優しい」の他にも「頭がいい」と褒められたことはあるけど、その２つを組み合わせたものを言われたのは初めてだったので、それまで気付かなかった。

私は優しいんじゃない、頭がいいのだ。
頭の回転が早いから相手が必要としてるもの、必要としてる言葉、相手が置かれてる状況をすぐに察することができて、その場に適した対応ができるだけなのだと気づいた。
ものすごくすっきりした。

もちろん機械的にデータ分析してそれに基づいて対応をしてるわけではなく、多少なりとも心は動いているし、誰かに優しいと言われてもいいような行為をしてるのかもしれない。だけど自己分析的には、「私は優しい」と思うより、「私は頭がいい」と思う方がしっくりくる。
しっくりくるし、実際私が誰かに「優しい」と言われるようなことをした時にはたぶん、心より頭の方が先に動いてる。

それに、私の優しさは仕返しのようでもある。
今まで自分が優しくされなかった時の仕返しのようなもの。

自分が困ってた時にして欲しかったけど周りにしてもらえなかったこと。心が弱っていた時に誰かに言って欲しかった言葉。

それを誰かにしたり言ったりすることで、何もしてくれなかった言ってくれなかった人より優位に立てた気分になって悦に浸ってるのかもしれない。
それもそれでただのデータの積み重ねだし、打算的で頭が先に動いてる。

優しい人になりたい。頭より先に心が動く人になりたい。

だけど、自分のことを自分で優しいと思うことは可能なんだろうか。

何か問題が起きた時にすかさず解決策を提示できた時は自分のこと頭いいなぁと思うし、メイクが上手くいったときはかわいいなぁと思うし、ここでこれ言ったらウケるぞと思って笑いを取った時は自分面白いなぁと思うけど、自分優しいなぁと思うことはあるのだろうか。

今までそう思ったことがないわけじゃないけど、そのどれもが全部ただ頭がよかっただけのような気もする。

自分で思うのではなくても、誰かに「優しい」と言われて違和感なく、それをすんなり受け入れることなんてできるんだろうか。

たぶん、私は私のことを優しいと思うことはない。自分のことを優しいと思った瞬間にそれは変異して傲慢とか思い上がりになってしまう。
誰かに優しいと言われても、私はたぶんその言葉をそのまま受け取ることはできないと思う。いつまで経ってもしっくりこないと思う。

自分で自分のことを優しいと思った瞬間にその優しさは優しさではない何かになって消えてしまって、誰かに優しいと言われた瞬間にそれは優しさではなくなってしまう。
そんな気がする。

そうだとしたら、私は私の優しさを永遠に知ることはできない。
それでも優しい人になりたいなと思う。
誰かが私の何かを優しさとして受け取ってくれたら嬉しい。
行動でも言葉でも、誰かの心に温かいものが生まれる何かを差し出せたらいいなと思う。