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私は私から逃げたい

去年の台風でご近所の家の屋根が飛んだ。
その家にどんな人が住んでいるのか知らなかったけれど、聞いた話ではおばあちゃんが一人で住んでいるみたいだった。

途方に暮れたように屋根のない家を見ているおばあちゃんに声をかけた人が、息子さんは遠くに住んでいて、すぐには助けに来てもらえないとか、雨に降られて駄目になってしまった家財道具もどうしたらいいのかわからないとかそんな話を聞いたそうだ。

毎朝見かけるその家にはいつまで経っても屋根がないままで、ビニールシートさえかけられることもなかった。

息子さんまだ来てないんだな、いつ来てくれるんだろう、おばあちゃんはどう暮らしているんだろう、ちゃんと生活できる部屋はあるんだろうか。

気になっていたけど、聞くことができる人は誰もいなくて、そのうちそんなことが気にならなくなってしまうくらい、いつまで経っても屋根ができる気配のないその家に慣れてしまった。

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誰にでも読んでほしいわけではないけれど、誰かに読んでほしい。そんなちょっとした日々のことです。

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