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『ジェイムズ・リー・バイヤーズ 刹那の美』を読んで

ジェイムズ・リー・バイヤーズ(James Lee Byars, 1932-1997)と聞いてもピンとこない人のほうが殆どだろう。私はハラルド・ゼーマンの資料を読むなかで名前を知ってはいた。バイヤーズはゼーマンの展示に繰り返し取り上げられている。「ドクメンタ5」や「ツァイトロス」をはじめ、1980年にベネツィアビエンナーレでアペルト部門ができたときにも紹介された。しかしながら、パフォーマンスを行う、ミニマルな作品の謎めいたアーティストというぼんやりしたイメージしか持っていなかった。いつか詳しく勉強したいなーくらいに思っていたので、2020年に日本語で書籍が出版されていたことを知りこの度拝読した。

この本では、バイヤーズが日本に滞在していた1958年から1967年の軌跡を中心に描かれている。作家としての初期の純粋な作品の動機や、強引で自己中心的、だけれども憎めないという性格などバイヤーズの作品を読み解くうえでの本質的な部分がよくわかる内容となっている。残念ながら本書だけで作家の全貌はわからないのだが、それは別の資料にあたる必要があり、回顧展のカタログなどを今後あたってみようと思う。

本書では例えば京都で触れた文化として、紙との出会いが描かれている。神社で木にくくりつけられたおみくじや、和紙、日本のラッピングのこだわりなど。神社で見られる厄払いの人型は、以下の画像のサンマルコ寺院前のパフォーマンスに直接影響を与えている。これが巨大な人型であると知って膝を打つという感じだった。紙をつかったパフォーマンス(というかゲリラ的なハプニングと呼んだ方が良いのかもしれない)は他にも多くある。また、パフォーマンスのゆっくりとした動きは能や雅楽からの影響も受けていて、京都時代には平安神宮の薪能や室町の金剛能楽堂にも通っていたらしい。バイヤーズは作品に金を多用し、金箔の部屋が有名だが、金箔の作り方や貼り方も京都で学んだとのこと。日本で英語を教えながら、文化を学びアメリカと日本を往復していた彼に「スパイ説」があったというのも(そんなに往復できるほどお金なくない?という理由もあり)謎めいたその存在を表すエピソードのひとつだ。

余談だがゼーマンの展覧会集にはバイヤーズとのfaxのやりとりが載っている。バイヤーズの無理難題や謎の要求にハッキリNOを突きつけているやりとりで、かなりおもしろい。「カタログにピンクのページはない」「君は多くいる作家のひとり」「とにかく展示台のサイズ教えろ」など…

1975ベネチアビエンナーレ(BIENNALE DEL TEATRO)でのパフォーマンス(ハプニング) The Holy Ghost(Harald Szeemann, szeemann – with by through because towards despite: Catalogue of all Exhibitions 1957–2005,  (Edition Voldemeer Zuerich, ), 2007, p403-404)

ゼーマンの苛立ち?あるいはバイヤーズのディマンディングな姿勢は『刹那の美』にもたびたび描かれていて、もしかして日本人に対してのみ要求過多なのかな?とか京都の人たちがつけこまれているの?とかハラハラしながら読んでいたのだが、MoMAのキュレーターにもハラルド・ゼーマンにも同じように要求していたのかと思うと、それでも憎めない人の好さは嘘ではなくある種の真実だったんだろう。ちなみにバイヤーズお得意の星をあしらった独特の文字もこの作家のある種のイタさが表れている。

バイヤーズからゼーマンへの手紙「Harry you know there should be a black perfume」1981年5月31日消印(出典はHarald Szeemann, "Harald Szeemann :Selected Writings", Getty Publications, 2018 )

ゼーマンはやはり一人芝居が出発点にある人物だしオブジェから脱却していた当時のアートの潮流のなかで、バイヤーズのような異質なパフォーマーを愛して共感していたんだろう。ドクメンタ5の会期中には「The First International Perfume Exhibition」と「Zeitglockenturm(時の鐘楼)」というパフォーマンスを行なっていて、ゼーマンは「金色のメガホンでささやく彼は、非現実的な存在でで、生を妨げることはないかもしれないが、何か特別なものを見せてくれ、具象化された詩的な美しさを見せてくれる」とバイヤーズのパフォーマンスについて評価している。

バイヤーズの他の作品や、球体のコレクションなどは図録を美術館にチェックしに行ったら(あるいは入手したら)また書いてみたい。

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