見出し画像

俺は、タクシーで行く(タクシー運転手 約束は海を越えて感想)

初っぱなからなんか間違ってる気はしますが、町山さんの

にあるとおり、確かに怒りのデス・ロードやんってなりまして(完全にネタバレしていますのでご注意あれ)、もうあれだな、私がOASIS行くときは、「俺はタクシーで行く」って言いながら、緑のタクシーで最後の大戦に駆けつける。

それぐらい、この「タクシー」というのは、我々が(或いは主人公たちが)命を共にしながら全てをかけるに相応しいアイテムなんですよ。

ということで、ソン・ガンホのこの素敵な笑顔と、予告編の、いかにもトラブルコメディな感じ、しかし、実は…というのが非常に気になって見に行きました。

ぜひ見に行ってください。割と長い映画でしたが、このタクシー怒りのデスロード場面も含めて、それなりに展開は凹凸あって飽きないです。

最初はこの主人公マンソプ、娘を育てる駄目なシングルファーザーで、私なみのどうしようもない英語で、ドイツからきたピーターという記者と必死にコミュニケーション取ろうとしたり愚痴ったりする様、映画館では、ひたすら笑いが聞こえていました。

ところが、あるところから、全く笑いがなくなり、ひたすら泣き声、すすり泣く声、鼻をすする音が支配するという、笑いから地獄までまさに一直線。これが主人公の置かれている状況と一致するので、とても没入感が凄い。

光州事件について予習が必要なのか、というとそうでもないです。マンソプ自体、最初は光州事件について何も知らないし、政治については割と我関せず。これが完全に今の観客と同じ状態。そこから、彼は地獄のような光景に放り込まれ、なんとか一人娘の為に帰還する。それでも尚、タクシーのハンドルをぐっと切り、あの場へ戻るところは、私は号泣でした…。

彼らを助ける、光州地元人の大学生ジェシク(一番右)、同じく人がよくて優しいタクシー運転手ファン(一番左)。前半のマンソプが、割と打算でずるいところがある中、彼らは本当にただの善意で二人を助けようとする、その中から絆が深まっていきます。

この写真がとてもよくて、チラシのソン・ガンホの全開笑顔も、このパンフレットの4人の笑顔も、本当に映画を見た前と後では、全く印象が変わります。今はただただ、涙が出てきそうになります…。

「ザ・シークレットマン」「ペンタゴン・ペーパーズ」も、共に政権の圧力に負けず、真実を公表しようとする人々の物語です。

この「タクシー運転手」も、記者であるピーターから見れば、真実を何としてでも明らかにするというテーマがあります。(ピーターもご多分に漏れず、最初は特ダネが欲しい→使命感という流れにいます)

しかし、マンソプは、特に「報道の自由は報道で守る」とか「忠義となんとかなんとか」(忘れましたw)みたいな、たとえ表面的であったとしても、使命感みたいなものはない。

彼にただあるのは、娘を守りたいというただ一点です。

そういう意味では非常に我々一般人に近く、だからこそ、彼があの混乱を目の当たりにした上で、しかし、「タクシー運転手だからこそ、客の行きたいところに行かなければならない」という決意の、命がけさと、人間としての尊厳に我々は涙せざる得ないのです。

トーマス・クレッチマンは、相変わらず素敵でした…。駄目だ、こういう顔に弱い(リーアム・ニーソンみ)。マンソプとはほとんどコミュニケーションがとれていないのに、彼が韓国語で自分の思いを吐露する場面、なんと優しい顔で聞いているのだろうと思いました…。言葉に頼らないコミュニケーションといえば、彼の戦場のピアニストもそうで、まさにそんな映画を思い出していました。

あと、問題のデスロードな場面ですがw

さすがにあそこまでいくと、真実そのままではないのだろうと思うわけですが、それでもそんなこと関係ないんですよね。

「我々は、タクシーで行く」

その想いにどこにも嘘はないのです。

(ところでどうでもいいけど、「海は越えて」ないよな…)

#映画 #タクシー運転手

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?