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(劇評)わくわくする気持ちが

 会場に入ると、女子の心をときめかせる空間があった。5つの小さな店舗が並ぶ。花(NOTE)、パン、お菓子(金沢小町)、服、布製品(山﨑菜穂子)、アクセサリー、紙製品(つぶ100%)、ドレス(lecture de minuit)。それらが素敵にディスプレイされて、それぞれに魅力を放っている。そこは「いまるまる商店街」。椅子に荷物を置いて、お店を見て周る。塩パンとハーブティーを早速買い求め、食べながら開演を待つ。

 公演中も、商店街を歩いて周れる。お買い物をしてもいいし、写真撮影も可能。トイレもご自由に。音楽にのってもいいし、なんなら踊ってもいい。それらの旨が、パンフレットに記されていた。椅子にきっちりと座ってしっかり観るよりも、気楽に、自由に観てほしい意図が見える。椅子があると座ってしまい、見逃すまいとじっくり構えてしまうのが多くの観客なのだけれど……。しかし、楽しんでほしいという気持ちは客席にも伝わり、適度にリラックスした雰囲気の中、いまるまる商店街での出来事を観ることができた。

 お買い物は、楽しい。わくわくする。どきどきもする。素敵な品物との出会いが、その日一日を鮮やかに彩ってくれる。そして、ちょっと悲しいことがあったときも、お買い物は元気をくれる。そんな、お買い物する時の心境がダンスで表現されていた。思わず走り出してしまったり。お気に入りと共にポーズを決めてみたり。憧れのドレスにゆっくりと手を伸ばしてみたり。伸びやかで清々しく、時に心の内面をそっと見せてくれる、愛らしいダンスが商店街を舞台に展開された。

 その動き達は、決して難解ではない。体の内側から湧いてくる感情を、素直に表出してみせた、そんな動きだ。いまるまるの二人(松田百世、なかむらくるみ)は、ダンスをもっと身近なものにしようとしている。それは踊る彼女達にだけでなく、観る私達にとっても。心が動くように、体も動くのだということを、そして心のままに体を動かしてみることは、誰にでもできるということを、観客に笑顔で語りかけてくれていた。

 素敵なものは、素敵なものを引き寄せる。わくわくは、次のわくわくを連れてくる。どきどきした心で見る景色は、新しいどきどきを呼ぶ。心を躍らせるほどの朗らかな空気は、どんどん周囲に広がっていく。商店街ご自慢の品物達を手に、時には身に付け踊る二人と、その様子を優しく見守る店主達の姿から、そんなことを思った。


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