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劇評

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主に石川県金沢市での、演劇・ダンスの観劇記録です。
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2017年6月の記事一覧

(劇評)存在しなかった本、ありえなかった事実

Coffeeジョキャニーニャ『カディクスの偽書』の劇評です。
2017年6月17日(土)15:00 金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房

 『カディクスの偽書』という書名、「グラハム・S・アーヴァイン」という原作者名、「山縣廿楽」という訳者名を、公演前に検索した。それらは見つかった。ただし、coffeeジョキャニーニャの公演情報としてのみである。つまりは、『カディクスの偽書』という本は存在しない。だ

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(劇評)全ての欲は生きるためにあるのだけれど

イキウメ『天の敵』の劇評です。
2017年6月11日(日)13:00 ABCホール

 食べなければ生きていけない。それを疑ってみる人がいる。毎日三食もいらないのではないか?たくさんの種類を食べなくてもいいのではないか?それだけ食べれば済む、完全食というものがあるのではないか?いや、食べなくてもエネルギーは補給できるのではないか?

 『天の敵』は、食欲を離れ、しかし健康であること、若くあること、

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(劇評)ちくちく、たくたく、流れる時間とともに

iaku『粛々と運針』の劇評です。
2017年6月10日(土)19:00 インディペンデントシアター1st

 運針とは、針を進める動きであるが、作・演出の横山拓也はそこに、時計の秒針の動きを重ね合わせている。
 針や時が運ばれるように、今そこにある問題も、いつか適切な場所へ運ばれていくのだろうか。

 舞台は、対面になった階段状の座席の谷間にある。そこには様々な高さの椅子が全部で10脚。客席両側

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(劇評)私に侵入する私

無名劇団『無名稿 侵入者』の劇評です。
2017年6月10日(土)14:00 AI・HALL

 『無名稿 侵入者』は、梅崎春生の『侵入者』を原作とし、中條岳青が脚本を手がけている。演出は島原夏海による。
 『無名稿』シリーズは、大正から昭和初期に書かれた日本の近代文学を再構築して上演するものである。原作が持っていた主題と、現代社会の問題との関連を見いだし、重ね合わせたこの作品は、今、上演される意

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