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【1989年100日旅】55日目。ロヴァニエミ→イナリ

1989年5月30日は旅の55日目。朝、寝台列車は北極圏の町ロヴェニエミに到着。たぶん今はサンタクロースエクスプレスと呼ばれている寝台列車を利用したのだと思う。

ロヴァニエミから経つバスを待つ間、軽食を調達しようとしたけれど、駅近くのやたらおしゃれなお店にはミントキャンディと真っ黒なタイヤ型のリコリスのお菓子くらいしかなかった。仕方なしにそれを買う。リコリスの癖のある味のみならず、タイヤという食欲を失う形状に家族は辟易していたけれど、私は割と好きだった。今もリコリスが入った南仏のお酒・パスティスが好き。

バスは針葉樹の森を延々とひた走る。白に近い曇り空、きっぱりと立つ樹々。ときおりトナカイらしきものは見えるものの人家は疎ら。お店がなさそうなのに、バスの利用者がみな、清潔で上質そうなセーターを着ていると思った。道もつるりと整備されいて、標識もバスもきれいだった。ソ連と違う、と思った。

ある青年が、バスを降りる際に財布の中身をぶちまけた。慌てて私たちは拾い集めるのを手伝ったが、青年は「それは、きみの?」ととぼけて受け取らない。「ノーノーノー」と押し付けた。父が、困っている人が小銭を拾えるように、あえて拾わないのかもしれないと呟いた。私たちがお金に困っているように見えたのかもしれないな。

バスはサーミ人の住む北緯69度の町、イナリへ。滞在はユースホステル。管理人の娘と息子は、ちょうど私と妹と同い年ぐらいで、私たちのことをニコニコと見ていた。同宿の人は、グリンピースに所属しているスウェーデン人カップルと、フィンランド人の木こりだった。木こり! たぶん親が子供にわかるように伝えてくれたのだろうけれど、物語の登場人物みたいだとうれしくなった。

こんな感じの55日目。旅は残り45日。

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