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後悔を学ぶ

さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎


「泣かないで」?「泣いていいよ」?

俳優の舘ひろしさんは、「あぶない刑事」でハードボイルドなキャラクターを確立し、「渋くて格好良い男」の代名詞となっています。しかし、その地位にあぐらをかくことなく、50を過ぎてから高校生女子と人格が入れ替わる役にチャレンジするなど、チャレンジ精神とフロンティア精神、遊び心に溢れる素晴らしい役者だと私は思っています。
舘ひろしさんは、歌手としても多くの曲を発表していますが、「泣かないで」と、「CRY OUT〜泣いていいよ」という、全く逆の行動の弁別刺激となる歌を歌っています。私はこの事実を知った時、「どっちやねん」と関西人でもないのに関西弁で突っ込んでしまったのをよく覚えています。では、子育てにおいて、「泣かないで」と「泣いていいよ」のどちらが正しいのでしょう。

息子の「泣く」行動を分析する

ここで、愚息の行動を紹介します。私には2歳8か月の息子がいるのですが、ある時期から「泣く」という行動が目に見えて増えました。「ぎゃー!」と叫びながら泣いたり、「え〜ん」と可愛らしく泣いたりと、泣き方は様々ですが、とにかく高頻度で泣くのです。この行動をABC分析してみると、下の図のような随伴生によって、泣く行動が強化されていることが分かりました。

息子が泣くのは、自分が暇で構って欲しかったり、おやつが食べたかったりする時でした。息子の泣き声や泣いている姿は、妻や祖父母、年の離れた二人の姉にとっては嫌子であるため、これを消失させるためにお菓子を与えたり、「泣かないで〜」と猫撫で声であやしていることが分かりました。図を見て分かる通り、強烈な強化の随伴性しかありませんので、このまま放っておいたら、息子が「泣く」という行動で家族を支配することは明白でした。そこで、私は下の図の随伴性を家族に伝えて設定しました。

まず、息子が泣いてもお菓子は与えません。むしろ、本来もらえるはずだったお菓子も、もらえなくします。次に、家族の「泣かないで」とあやす行動です。息子の「泣く」という行動は、体調不良を訴える機能ではないことが明白でした。自分の欲を実現するための機能しかありませんでしたので、「泣いていいよ。ただし、別の部屋で泣いてね。」と、「家族と一緒にいることができる」という好子を消失させました。つまり、泣けば泣くほど損をする環境にしたのです。
もちろん、おもちゃを片付けたらお菓子がもらえる、「この本を読んで」とお願いをしたら本を読んでもらえる、大人が相手をすることができない時間は一人でお絵描きをする(一人で取り組めた時間に応じてお菓子がもらえる、抱っこしてもらえる)といった、代わりの適切行動を強化する手続きも同時進行で行います。データを取っていなかったのが残念なのですが、「自分の意を通すために泣く」という行動は激減しました。この行動に関しては、「泣かないで」ではなく、「泣いていいよ」でした。

やるならどうぞマインド

これは、奥田健次理事長が「世界に一つだけの子育ての教科書」の中で書いている、「やるならどうぞマインド」を私なりに実践したケースです。このマインドは、数多くある理事長の教えの中でも、極めて重要だと私は感じています。叱ったり、罰を与えたりして行動を減らすのではなく、「やってもいいよ。その代わり、とっても損をする結果になるけどね。」というスタンスです。「損をする」「後悔をする」という学習をすることで、嫌子を使うことなく不適切な行動を減らすことができます。さやか星小学校の職員研修で、理事長は常々、「子供に、正しい後悔を学ばせてあげてください。」とおっしゃいます。後悔をすることによって、不適切な行動が減り、適切な行動によって好子を得るようになっていく。すると、素直でみんなから愛される人間になっていくという循環です。さやか星小学校では、この循環が生まれるように、教員は子供達と向き合います。

こうした望ましい循環を実現するためには、保護者の皆様のご理解とご協力が不可欠です。まず、「後悔をする」ということを、子供の成長のために重要な「学び」と認識してもらわなければなりません。例えば、学校で「これから◯◯という学習をします。」と先生が伝えた際に、「え〜、やりたくな〜い。」とAさんが言ったとします。この場合、「やりたくない」と言ったAさんは活動に参加できなくなります。活動から分かったことを使って学習をすることはできますが、その活動自体には参加できなくすることで、「やりたくない」と言う行動が、次の機会に生起しないようにするのです。そして、「やりたくない」と軽々しく言ってしまったことを、激しく後悔する経験をすることができるのです。
しかし、実際に活動に参加できない時間があるのを、「かわいそう」と思ってしまう保護者の方が多いのも事実です。しかし、「やりたくない」と言った行動の責任をとることを学ばせてあげなければならないし、これから先もずっと「やだ」「やりたくない」と言い続ける人間になる方が、よっぽど「かわいそう」だと我々は考えます。

泣くことで、お菓子をもらったり遊んでもらったりする時の息子の笑顔からは、なんだか卑しさが滲み出ていました。しかし、適切行動をすることで褒められたり、お菓子をもらえたりした時の笑顔は、達成感と満足感に満ちていて、とても可愛らしく、食べてしまいたい(実際、ほっぺたを噛み噛みして妻に怒られたことが多々ある)くらいです。そんな笑顔を、子供達からたくさん引き出したいと思っています。

今年度最後の学校説明会 8/25(日)

今年度最後の学校説明会が、8月25日(日)15:00-16:30で行われます。
今回は、さやか星小学校現地参加のみで、オンライン配信はありません。
下記のFormからお申し込みください。

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