見出し画像

さやか星小学校のデジタル

さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎

 コロナ禍以降、「一人一台学習用端末」という名の下、教育にデジタルが急ピッチで取り入れられてきました。しかし、学校の実践の多くは、「ICTを使うこと」が目的になってしまい、学力を高めるどころか、児童同士のトラブルを誘発するツールになってしまっている例も多く聞きます。私自身、公立学校の教員として、そうした場面を多く見てきました。
 デジタルを導入する際には、「やらかし期」というものがあって、子供の失敗を許容して進めていかないと、デジタルは普及しないと主張する方達もいました。しかし、ネットを使ったいじめやSNSによる被害のように、断じて許容することなどできない失敗もあるのです。
 さやか星小学校では、児童全員がiPadを使っています。アシスティブアクセスをかけて使うことを原則とし、大人の目の届かないところでの使用を徹底的にブロックしています。家では宿題以外での使用を制限し、学校に来ればたくさん使える。これも実は、さやか星小学校が取り組んでいる、「不登校防止プログラム」の一部だったりします。この点は、いずれご紹介します。
 保護者の皆様のご協力のおかげで、子供達はデジタルの危険には晒されずに、教育効果を最大限享受できています。今回は、さやか星小学校で、日々どのような形でiPadを使っているかをご紹介します。

作文の下書き

 全ての児童のiPadには、Goodnotesという、PDFや写真にペンシルで書き込みができるアプリケーションが入っています。このアプリケーションを使うと、様々なマスの大きさのノートを全てiPadに入れ、必要に応じて使い分けることができます。低学年で特に顕著ですが、字形の整った字を書くのが苦手なお子さん、ひらがながなかなか覚えられないお子さん、筆圧のコントロールが難しいお子さんが多くいます。こうしたお子さんたちは、書き間違えた字を消しゴムで消すことを多く要求されます。しかし、力の加減が難しいので、綺麗に消せなかったり、ノートが破けてしまったりして、さらに書くのが嫌になる。こんな悪循環がたくさん起きています。iPadで字を書けば、間違えても簡単に消せますし、書く部分をアップにして書けば、手が不器用なお子さんでもマスの中に字を収めて書くことができます。作文を書く際には、誤字脱字があったり、文法が間違っていたりしたら、どうしても書き直さなければなりません。ここで嫌になってしまうお子さんが出ないように、下書きはiPadで書き、清書は鉛筆で丁寧に書く。こうした使い分けをすることで、字を書くことに苦手意識をもつことなく、作文や観察カードを書く学習に取り組むことができています。

足し算や引き算のフラッシュカード・プリント学習

 合計が10までの足し算と、被減数が10までの引き算は、数の分解と合成の基礎になりますので、とにかく流暢性を高めておくことが、今後の算数の学習において重要です。そのためには、たくさん反復練習が必要になりますが、これもiPadを使ってフラッシュカードにすると、楽しく取り組むことができます。

全ての問題が5秒以内に解けるようにします。誤答や、時間がかかった問題を抽出し、重点的に練習をします。全ての問題に機械的に取り組まなくても良くすることで、飽和を防ぎます。
自分でフラッシュカードを選べるようにすると、さらに楽しく行えます。

 1年生に算数のプリントを何枚も配るのはとても難しいことです。そのため、早く終わったお子さんは、他のお子さんが終わるまで待たなければならず、そこで不適切な行動が起きてしまうということも少なくありません。しかし、iPadならば、一瞬で何枚でもプリントを入れることができます。それこそ30枚のプリントを入れれば、解くのが早いお子さんは止まることなく学習が続けられるし、じっくり取り組むお子さんに、担任が丁寧に教えてあげる時間を生み出すことができます。

生活科の観察カード

 アサガオの観察は、1年生の生活科の学習の定番です。種の観察から始まり、双葉、本葉、長く伸びる蔓を観察し、最後に蕾、花にたどり着きます。この間、変化を捉えるために何回か観察カードを書くのですが、観察しながらカードを書くという行動がまず至難です。さらに、国語で文を書くことを習ったばかりの子どもたちが、アサガオの観察から分かったことを記述するのですから、これも至難です。さらに、アサガオの特徴を捉えた絵まで描かなければならない。これまた至難ですから、少なくとも3つの至難な学習に同時に取り組まなければならないのが観察カードの学習です。時間内に観察カードを書き終わらないお子さんも多くいます。したがって、観察カードの学習がとても苦手になってしまうお子さんも少なくありません。そこで、iPadに観察カードを入れ、文章は簡単に書き直せるようにし、絵が苦手なお子さんは、写真を貼ることで絵の代わりにできるようにしました。もちろん、絵を描きたいお子さんは絵を描くこともできます。大切なのは、子ども一人ひとりに応じた学習の形を用意しておくことだと思います。

拡大すれば、字を大きく書くことができるのがデジタルの強みです。それぞれの書字の力の実態に合わせて取り組むことができます。

 もちろん、うまくいくことばかりではありませんが、今日よりも明日。明日よりも明後日が子供達にとってより良い学びになるように、日々改善をしていきたいと思います。