5W1Hで質問できるようにする。
さやか星小学校 教務主任・第1学年担任 島岡次郎
ある日、給食の準備をしていると、A男君がこんな質問を真剣な眼差しで私にぶつけてきました。
A男君 「先生、食べられますか?」
当然ですが、この質問では答えようがありません。彼が聞きたいことが、「何を」なのか、「いつ」なのか、「どこで」なのか、何を聞きたいのかが、この質問では分からないからです。それでも、これまでは大人が前後の文脈から推測をして、「今日の給食で出てくる『キムタクごはん』のこと?そりゃあ、先生は大人だから、キムチくらいの辛さなら食べられるよ。」などと答えていたのでしょう。そうすると、聞きたいことをはっきりさせて質問しなくても、自分の望む答えが返ってくるわけですから、適切な質問というのは形成されないし強化もされません。むしろ、冒頭のような曖昧な質問が強化されてしまいます。
さて、自分が分からないことを相手に質問をするスキルというのは、社会で生活を送っていく上で必須です。そして、自分が知りたいことを確実に答えてもらうためには、5W1Hで質問ができるようにならなければなりません。この力の必要性は、1年生から6年生まで全ての国語科の教科書で、質問を標的行動とした単元が計画されていることからも分かります。惜しむらくは、その殆どが「分かりやすい発表」を標的行動とした単元とセットになっていることです。質問をする必要がないほど分かりやすい発表をされてしまうと、当然ですが質問行動は生起しなくなります。質問をする余地があったとしても、質問することが簡単に見つけられないと、参加が難しくなるお子さんが出てくるでしょう。だからこそ、最初は5W1Hのどれでも質問できるようにスモールステップを計画する必要があります。それこそ、「僕は、食べました。」くらいシンプルにすれば、「何を?」「誰と?」「どこで?」「いつ?」「どのくらい?」など、どんな質問でも誤答ではなくなり、安心して質問ができるようになります。
低学年では、朝の会で「好きな◯◯」というテーマで毎日一言スピーチをしています。そのスピーチに対して、5W1Hで質問をする活動を夏休み明けから始めました。ここで、ある日のスピーチと質問をご紹介しましょう。
B男君
「好きな食べ物は、リンゴです。どうしてかというと、長野県の有名な食べ物だからです。」
C子さん
「好きな食べ物は、ラーメンです。どうしてかというと、美味しいからです。」
D男君
「食べてみたい食べ物は、ピーマンの肉詰めです。どうしてかというと、一度も食べたことがないからです。」
E子さん
「好きな食べ物は、カレーです。いつか中辛のカレーを食べて、口から火を吹いてみたいです。」
このように、理由もかなり複雑に、面白いことが言えるようになってきました。もちろん、「美味しかったです。」のように、シンプルな理由でも良いことにしているので、スピーチが嫌になるお子さんは一人もおらず、とても楽しく取り組むことができています。さあ、このスピーチに対して子どもたちはどんな質問をしたのでしょうか。
B男君に対する質問
F男君 「B男君、リンゴは誰と食べるの?」
B男君 「家族と食べるよ。」
F男君 「ありがとう。」
C子さんに対する質問
G子さん「C子さん、どんなラーメンが好きなの?」
C子さん「メンマがいっぱい入っているラーメンだよ。」
G子さん「ありがとう。」
D男君に対する質問
H子さん「ピーマンの肉詰めは、どのくらい食べたいのですか?」
D男君 「う〜ん、35%くらいかな。」
島岡 「え?35%だと、あんまり食べたくないことになっちゃうけど、大丈夫?」
D男君 「あ、そうか!じゃあ、120%!」
「じゃあ」って何よ。こんなふうに、つい口を出してしまうこともあるのですが、子どもたちは「誰と」「いつ」「どこで」「どんな」「どのくらい」といった、5W1Hを使って質問をすることができるようになってきました。
もちろん、どんな質問をすれば良いかが分かるようにプロンプトカードが常に掲示してあります。また、質問をすると「質問ミッションカード」にポイントが貯まっていき、目標回数をクリアするとそれぞれのお子さんに応じたバックアップ好子を獲得することができるようになっています。
質問をしたり、それに答えたりする行動は、国語科の単元で1回学習したくらいでは、絶対に習得できません。そのため、毎日のように楽しく練習する場面を確保していくようにしています。さあ、明日は子どもたちからどんな質問が飛び出すでしょう。今からとても楽しみです。