今までに読んで面白かった小説5選

小夜夏ロニ子が今まで読んだ中で印象に残っている、面白かった小説を5冊紹介します。


夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦


「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる主人公の男子大学生。京都の町を舞台に偶然を装って乙女の前に出現し続けるが・・・。黒髪の乙女が闊歩する不思議な京都の世界は、とにかくキュートでポップなアイコンでいっぱい。主人公と一緒に黒髪の乙女を追いかけるうちに、彼女と京都の魅力に引き込まれ、恋をする。小難しいようで情けないユーモアに溢れた主人公の語り口に、癖になること間違いなし。


少女七竈と七人の可愛そうな大人/桜庭一樹


「わたし、川村七竈十七歳は、たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」。若かりし頃の母は7人の大人との男遊びの末、わたしを生んだ。あらゆる人間関係において、母と娘の間柄はやっぱり特別だ。女の一生に付きまとう、「母を許せるか」という問い。「わたしの母はいんらん」とひらがなで書いてみせることで、十代の少女の性への潔癖さ、世の男に抱く憤りと嫌悪、母の奔放を肉のこととして受け止めたくない幼さを見事に表現してみせる。恐ろしい、桜庭一樹、青春の戸惑いと不安とつかの間の永遠をかくも美しく切り取って魅せる、これは変わっていく少女と変われない大人の女の、許しと向き合う物語。


砂の女/安部公房


砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。脱出しようとする男、そこにいるすべてを諦めて男を引き留める一人の女。人間が狂っていく様をあまりにもリアルに描いた密室サスペンス。異様なシチュエーションだが、環境に適応してしまった普通の女が居ることでいやに現実味があり、はたまた夜思考がどこかに遊ぶ時の比喩に満ち満ちた文章は限りなく幻想的であり、不意に現実に戻ると砂との生活の生々しい描写となるため、対比によって砂穴での時間はより現実味が増す。グイグイ引き込まれる。夜にひとりで読むのがおすすめ。


方舟/夕木春央


山奥の地下建築に閉じ込められた男女たち。水没し始めた建物から脱出する方法はただ一つ、一人が命を犠牲にすること。よりによってそんな状況下で、殺人が起こった。タイムリミットまで1週間。生贄には、その犯人がなるべきだ――犯人以外の全員が、そう思った。密室殺人ミステリーとして謎解きに気を取られていると、最後にそれこそが犯人の思うツボだったとわかる。読者すら手玉に取る犯人に、あなたは100%騙される。誰かを見殺しにする選択は、誰を選んでも正しくない。最後にすべてがひっくり変える物語、読んだ人は決して結末を他言しないでください。


死にたがりの君に贈る物語/綾崎隼


若者にカリスマ的人気を誇る小説家、ミマサカリオリの突然の訃報。幻の続編の結末を探るべく、小説の舞台を再現しようと山奥の廃校に集まった7人の男女。そこに現れた、存在しないはずの“続きの原稿”。「この7人の中に、ミマサカリオリがいるんだよ」。一人、また一人と減っていく参加者と、明らかになるミマサカリオリの死の真相。死にたがりの誰かに言えること、それは「生きて、私も生きるから」だけだ。小説家にとって生きることは書くことで、書くことで誰かを救い、救われる。傷つきもがく十代と、いつか十代だった大人たちが、それでも生きるか決める物語。


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