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31.新しいワークフロー

2015 年に一度技師から助手に戻った映画『信長協奏曲』では、新しいワークフローで仕上げを進めてもらいました。

本編集をダビングの後にしてほしいと提案したのです。
『信長協奏曲』で新しいワークフローにして欲しいと思った理由は、その前の2作品に遡ります。
編集助手を務めた『ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ』『ライアーゲーム -再生-』という映画は、編集が細かく、一本目の『~ザ・ファイナルステージ』は編集点が2800 箇所ありました(普通の映画だと800 ~ 1200 カットくらい)。

監督はピクチャーロックの後、本編集で編集を変更しました。
ピクチャーロック誕生後、本編でそんな変更を行ったことがなかったので、各部署を巻き込んだ大直しとなりました。

本編集で直した箇所が多すぎたので、修正後の画のデータをもらって、編集室に戻り、画合わせで変更箇所を探していきました。
それをもとに変更リストを作成し、音チームにデータを出し直す、その作業がダビングが始まっても続きました。
『~ザ・ファイナルステージ』の監督は音楽と編集のタイミングにとてもこだわる人なので、ダビングに入ってから音楽に合わせて画を変更したくなるのはもっともだったのです。

ダビングで編集直しが出た箇所は、その日の夜中の12 時過ぎに本編集の部屋で直しをしました。
直したデータが次の日の昼頃にダビングルームに入っていきます。ピクチャーロックが崩壊したのです。

次の『ライアーゲーム - 再生-』の時も同じようなことが行われました。
2本続けてピクチャーロックの崩壊を経験した時、何も学習していない自分にびっくりし、次があれば絶対にこうならないようにしようと心に決めました。

その監督の3本目の作品となる『信長協奏曲』のとき、ワークフローの提案をしたのです。
本編集をダビングの後にして欲しい、と。

これはフィルム編集をしていたときのフローにとても近い状態です。音楽が編集後に作られる日本の映画制作において、音楽に合わせて再編集をする仕組みは、フィルムのときには可能でしたが、テープ撮影、データ撮影に移行して難しくなっていました。
しかし、マシンのスペックも上がった現在のシステムならば可能だと思ったのです。
フィルム編集のときのように、ダビング中に編集直しができ、画と音の編集が決まった時点でネガ編集(本編集)に移行する。
その状態へ戻れる時期がきたのです。

通常の仕上げのワークフローは前記した通り、ピクチャーロック後に画の変更はできない仕組みです。

そこを最初から変えないと、どうしようもないと思ったので、画を固めてしまう本編という作業を、ダビングの後に持っていこうと思いました。
その際、グレーディングが問題になりました。
現在のワークフローでは、ダビングの時は色が整った状態で作業をします。最初は、現場であててもらうLUT(Look Up Table)でなんとかならないかと思ったのですが、撮影部さんと相談したところ、一度グレーディングをしておいて、ダビングで画の直しがあった部分だけその後グレーディングをし直すのが一番良さそうだ、ということになりました。
本編集とカラーグレーディングは、ダビングの前後合わせて2回行いました。

1回目の本編とカラーグレーディングは、ダビング用のデータを作成するための作業になります。
編集直しのチャンスはダビング中に作ってあるので、本編集での編集直しはなくしました(エフェクトなどの微調整はあります)。

1回目の本編とカラグレを経たダビング用のQT を、編集部にももらっておきます。
ダビングを行う場所に編集室を借りて、ダビング中に監督が直したくなった場合は、編集室へ移動して直しの作業をしました。
ダビングは中断せずに、作業を進めてもらいます。編集直しが終わったら、編集機からダビング用QT を書き出し、ダビングをしている部屋へ変更リストとともに持って行きます。
ダビングが終わった後、直した部分のデータを出し、その部分のみ本編集をやり直しました。

監督も音楽に合わせて画の変更ができるので、作品のクオリティも上がったように思いました。
今までできなかったことも、デジタル技術とマシンスペックの向上で変
えていけると実感できた作品でした。
このフローは、他の作品でも多少の違いはあれどやっているところもあるそうです。
これからは、こういうやり方もありじゃないかと思っています。

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