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銀杏と桜 ショートショート

「この木に桜回線引かない?」
庭に咲く銀杏の木は黄色く色づいていて、秋の淡い空によく合っていた。

妻が言っているのは、最近話題の桜回線のことだ。なんでも回線契約をして、コードを木に差し込むと、年中その木に桜が咲くようになるらしい。

「桜回線はいらないんじゃない?」
「えー、せっかく中古の家買うのに」
妻は勿体無いと言わんばかりの顔をする。
確かに年中桜の木になったら綺麗だろうが、同棲先から引っ越すのにも、家のメンテナンスにも、お金がかかる。
桜回線を引けるほどの余裕はないだろう。

「まぁ、当分はお預けかな」
頬を膨らませた不機嫌な妻はそのまま私の体に顔を埋めた。

20年前この家へ内見に来た時のことである。


娘は来年、大学生になる。これからは、妻とこの家に二人暮らしだ。
「桜回線引くか?」ふと思い出したので聞いてみると、妻は少し悩ましそうな顔をした後、
「まぁ、銀杏も悪くないんじゃない?」
といい照れくさそうに笑った。

400字 お題 桜回線

あとがき

年中お花見するのも楽しそうで良いなぁ。

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