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Chim↑Pomと私

今、森美術館で回顧展を開催しているChim↑Pom。ついでに私もいちファンとしての関わりを、過去ブログから抜粋して振り返ってみました。もう10年以上になるのか…とちょっと感慨深い。そして、これからも彼らの活動を追っていきたい!

【書籍】芸術実行犯Chim↑Pom (2012年7月)

全身コレ卵色のこの小さな本に、何という衝撃がつまっていることでしょう!!

アーティスト集団「Chim↑Pom」の名前を知ったのは、震災直後の2011年5月、渋谷駅に展示されている岡本太郎の巨大壁画「明日の神話」に今回の福島の原発事故をイメージさせる小さな絵が付け足されている!という事件(?)があったとき。
広島の原爆ドームの上空に「ピカッ」と文字が浮かんでいるのも、その写真を新聞で見た記憶があります。

私は「アートはこうあらねばらなない」という考えは一切ないので、けっこう何でも面白がることができると思っているのですが、彼らのアートには何というか、少し気持ちを「ザワザワ」させられるような、そんな思いを抱きました。

しかし、それこそ彼らのアートの在り方であったことがこの本を読むとよくわかります。
会田誠さんに触発された6人の若者が、アートで何か面白いことをやりたい!と始めた「Chim↑Pom」。これまでの彼らの衝撃的な作品が生まれたエピソードが書かれていて、彼らの真摯に社会に向き合い、その表現をさぐっていく様子には、なんだかワクワク、興奮を覚えます。

大都会でしぶとく生き抜くネズミを捕獲してピカチュウの剥製にした「スーパーラット」。
実際にカンボジアの地雷撤去の現場で作成された「サンキューセレブプロジェクト アイムボカン」、それに関連してアートバブルの状況を皮肉って開催されたオークションでは、地雷で爆破されたブランドバッグやエリイ(メンバーのひとり)の等身大石膏像を逆オークションにかけ、当時最も高かったアート作品126億円からスタートし、そのお金で義足何足買えるかを表示しながら、どんどん値段を下げていく。買える義足の数もどんど減り会場は気まずい空気が流れ…。
平和の当事者として探求した彼らなりの表現「広島の空をピカッとさせる」。これは大騒動を巻き起こし、結局広島での展覧会は中止。

そして3.11以降は、冒頭の「LEVEL7 feat.「明日の神話」」。そして圧巻は「REAL TIMES」、福島第一原発の事故から1ヵ月の4/11に、原発から700mの距離にある東京電力敷地内の展望台に登り、「到達困難」な場所での慣習にならい旗を立てるまでを収めた映像作品。その時の様子は読んでいてドキドキしますし、何でそこまで…!みたいに思ってしまう。
震災後に「アートは無力か?」と問われた時、彼らは未来に向けて、あるいは世界に向けて、その解答を示したのです。

というわけで、すっかりこのアーティスト集団に魅せられている私なのですが、でも「Chim↑Pom」こんなにわかりやすくファンを増やしていいのか?という気もするのよね。もっともっと「ザワザワ」した気持ちにさせる彼らでいてほしい…って気もするのです。

【展覧会】Chim↑Pom展「広島!!!!!」@旧日本銀行広島支店 (2013年12月)

今、そのラディカルさが大注目のアーティスト集団、Chim↑Pomがついに広島で展覧会をやるってことで、これはゼッタイ行かなければ!と思った。
「なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか」、彼らが時間と人間関係を積み重ねて実現させた証であろうから。

実はもうひとつ理由があって、私は広島で生まれているんだけど、たまたま親の転勤で住んでいただけなので、記憶もないし、その後きょうまで広島を訪ねたことがなかった。ふつうに観光とかで行くのもありだったろうけど、「核といま」をテーマにした展覧会を見に「帰る」ってことがなんだか自分にとって必然な気がしたのだ。

降り立った広島は良い天気。原爆ドームは、青空のもとで見たかったのでホッとした。初めて自分の目で見る原爆ドームは、思ったより小ぶりだった。今、自分が想像する「核爆弾」の威力を思うと、爆心地近くでこんなに残っているなんて…、というのがまず驚きだった。もうすぐ70年にもなろうとしているけど、間近で見るとやはり生々しい。建物の小ぶりさと対照的に、前を流れる川の大きさがすごい圧倒的で、いろいろ見聞きしてきたことから、当時のこの川の様子を思うと、とても歴史上の出来事ではすまされない気がしてくる…。

展覧会は旧日本銀行広島支店という、被爆しながらも倒壊を免れた建造物で行われている。銀行としての仕様を残しながら、今は文化活動などにも使われているとのことだ。この建物のレイアウトとか、地下の金庫室なんかをうまく使いながら、決して建物の歴史的意義みたいなものに押し潰されることなく、展示と場所とのマッチアップ感が素晴らしかった!

会場に入ってまずビックリするのは、無数の千羽鶴が積み上げられた巨大なピラミッドのような山!でもこれはほんの一部。全国、全世界から広島に届けられる折り鶴は、人間の平和への希求の固まりでありながら、その匿名性ゆえ非行動の象徴でもある、という…。これ、中も全部なのかな?と思っていたら、後方から中に入れるようになっていて、入ると天井・床・壁ともアクリルで透明になっていて、全面、千羽鶴だらけだった…。そこにいると、いつかこのアクリルが重みに耐えかねて、千羽鶴に埋もれてしまうんじゃないか、と不安になるほど。

そして、Chim↑Pomなりの千羽鶴が、「リアル千羽鶴」。1000羽を目指しているそうだが、今は8羽だけ。でも、リアルだから迫力は満点。対比の光景が凄まじかった。

そして地階では、ぜひ見たかった彼らのいろいろな作品を一堂に見ることができた。スーパーラットは、思ったより小さく痩せていた。もっと巨大で凶悪なネズミだと思っていたけど、ピカチュウだった。岡本太郎とのコラボ作品?である「LEVEL7.feat.明日の神話」の現物も拝めた。

映像作品では、「気合い100連発」や「REAL TIMES」、そして何といっても「ヒロシマの空をピカッとさせる」!飛行機雲が描く「ピカッ」の文字は、描いてていくそばから消えていくのだが、そのヘタウマな字体も相俟って、ものすごい脱力感に充ち充ちている。地上では幼稚園児たちが歩いていて、ある意味こんなにのどかで平和的な風景が、「ピカッ」という文字であったがために巻き起こした「騒動」を思うと、やはりそこには複雑なことがいっぱいあるのだと、ひしひしと感じた。

ちょうど行った日にアメリカ出身の詩人であるアーサー・ビナードさんと、Chim↑Pomメンバーの卯城さんらとの対談が行われていて、とってもおもしろかった。けっこう、「ここだけな話」があって、ホント、自分の人から与えられて当たり前に思っていた視点を揺さぶられた気がする…。ものごとのウラオモテ、ひっくりかえる価値観。卯城さんの真摯な姿勢はホントいいです。エリイさんへのリスペクトもこのグループのポイントだな~と思ったり。ぜひ、アメリカでの展覧会を期待したい!

いや~、わざわざ広島まで足を運んだかい、ありました!広島でしか見れない展覧会だったと思う。自分の目で見れたことを幸せに思うし、行動した自分を少し誇らしく思う。

【展覧会】Don't Follow The Wind (2015年11月)

東日本大震災から4年を迎えた今年の3月11日、Twitterである展覧会が始まったことを知った。WEBサイトにアクセスしてみると、真っ白い画面に音声だけが流れる。

「Don't Follow the Windは、東京電力福島第一原子力発電所付近の帰還困難区域内で開催されている展覧会です…」

放射線量が高く、今なお立ち入ることのできない地域で開催されている国内外のアーティスト12組による国際展。この展覧会は、これから後、帰還困難区域の封鎖が解除されて初めて見に行くことができる。それは、3年後なのか、10年後なのか、もっと先なのか…。

発案者はChim↑Pomだと聞いて「さすが!!!!!」と思った。これこそ、まさにアートができること。震災から4年がたって、今そこにある現実を、まるごとそのまま提示する方法として、こんな秀逸なアイデアがあるだろうか。

この展覧会のことを知ってから、タイトルの意味をずっと考えていた。「風になびくな」なのか「風化させるな」なのか…。Twitterでいただいた情報によると、福島第一原発の事故後、住民の多くが北へ逃げようとしたなかで、長年の経験から冷静に風向きをみきわめた釣り人が東京方面に逃げた事実から、展覧会名にとられたいうことだが、いろいろな意味が込められているようだ。

最初はいったい何が展示されているのか、誰が展示しているのか、さっぱりわからなかったこの展覧会のサテライト展示「ノン・ビジター・センター」が、9月にワタリウム美術館で始まった。そのニュースを聞いて初めて、これが実在の展覧会であることを実感し始めたのだ。好評につき予定の会期より延長されたため見に行くことができた。

展示されているのは、それぞれのアーティストの作品のまさに「断片」。少し詳細な説明がある作品もあったが、その全容は依然つかめないままだ。それより、会場全体を使って、この展覧会の特殊性がとても強調されていた。

「拒絶」「隔絶」がキーワードか。3階のEVが開いた瞬間の衝撃。3階の小さなスペースにほとんどの作品が展示されているのだが、ここには立ち入ることができない。鑑賞者は特設の不安定な階段を上ってガラスの外から作品を眺めるしかないのだ。よく見えない、映像の音も聞こえない…。「近寄れない」ことを実感させる展示方法。

ところが、3階の奥に事務所があるらしく、私が見ているあいだに2回ほどスタッフがそのスペースをスタスタと横切っていかれた。「隔絶」が漂う空間にあって、これが逆に救いのようで、なんだかホッとした。

展覧会のことをもっと知りたくて、公式カタログを購入。

これは、めっちゃ読み応えあり。というか、このカタログ自体も展覧会の一部なのではないかと感じる。冒頭の椹木野衣さん(椹木さんもグランギニョル未来というアーティスト集団の一人としてこの展覧会に参加)のテキストがとっても興味深い。「美術・美術作品・美術の力」と「放射能・放射性物質・放射線」の接点について。ランドアートを提唱したスミッソンがいうところの「サイト=現場=よそ」の作品を「ノン・サイト=美術館=ここ」に翻案することについて。そして西洋とはちがって、自然災害にまみれている日本列島内の「ノン・サイト」の不確かさについて…。

他にもChim↑Pomの卯城さんはじめ実行委員会のメンバーによる座談会なども大変興味深かった。やはりアイデアだけでは乗り越えられない壁がいくつもあって、資金的な問題だとか、たくさんの困難を克服して実現にこぎつけたことがよくわかる。さまざまな人とのつながりが生まれたおかげだと、彼らは言う。福島の地域の人はもとより、このプロジェクトに賛同する人、それは日本の国の枠を超えて。

大変申し訳ないことだが、関西にいると福島は遠い。いろいろなニュースを見聞きすることで、その状況は知っているつもりではあるけれど、この展覧会の存在を知り、実際にいつ見られるのかわからない作品のことを想像することで、ぼんやりしていた視点がフォーカスされるような感覚がある。震災後、4年がたってもなお、足を踏み入れることのできない地域がこの日本に存在することを、改めて思い起こす。そんなことって、あっていいのだろうか…?

いつかこの展覧会がオープンする日のことを想像する。それは、カタログの座談会で語られていたように、もしかしたらひっそりと始まり、見に行くには防護服が必要ってこともあるかもしれない。それでも、想像し、そして願う。帰って来た地域の方々が、笑顔で展覧会を訪れる日が来ることを。

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