I'm from Saitama.
I'm from Saitama.
これは、私が、昔出会った大学生になりたての18歳のある男の子がよく言っていた自己紹介のフレーズである。
とてもシンプルで、簡単な一文なのだが、私は彼の自己紹介を聞くたびに、この子は必ず英語が伸びると感じたのだった。
英語学習ルームでの出会い
私は大学院生の時、大学内で英語学習ルームの管理アルバイトをしていた。英語学習ルームには、日々色々な学生が訪れる。
・TOEICの勉強のアドバイスが欲しい学生
・英会話をして楽しみたい学生
・洋画を見たい学生
私は、そんな英語学習ルームのスタッフとして働きながら、英会話サークルの運営もしていた。毎週2回、お題を決めて学生の英会話ディスカッションのファシリテーションをする。私はこの英会話サークルがとても楽しかった。
しかし、なかなか自分の言いたいことが言えず、もどかしさを感じる学生もいれば、自信がなくて、一切話したがらない学生もいる。そして、モチベーションの維持ができず、どんどん参加者の数が減っていくことがよくあった。
あの頃の私は、どうすれば学生のモチベーションを維持し、英語学習ルームに来る人が増えるのかと、常に考えていたような気がする。
Saitama Boyとの出会い
ある日、いつものように英会話サークル主催のため、英語学習ルームにいくと、見慣れない顔の男の子がやってきた。
彼は友人と2人でやってきたのだ。
その日の英会話サークルには、彼らの他に新しい顔ぶれがたくさん揃っていたので、私は自己紹介からサークルを始めることにしたのだった。
初めての環境で緊張している学生を前に、私は一人一人の話を聞いていく。緊張感が漂った空気がなかなかとれずに、彼の番となった。
そしたら彼は
Hi! I am Masa. I'm from Saitama! Saitama has nothing!!
と堂々と自己紹介をしたのだ。そして、緊張感が漂っていた部屋の空気が和らいで、参加者に笑みがこぼれたのだ。
私はこの瞬間、彼の英語力は必ず伸びる!と確信したのを覚えている。
Saitama Boyの特徴
Saitama Boyは、その後、何度も英語学習ルームに訪れた。初めての人と出会うたびに、お得意の自己紹介をする。
Hi! I am Masa. I'm from Saitama. Saitama has nothing!
これは見てて、気持ちがいい。
大学に入学してすぐの頃の彼の英語力は、本当に拙いレベルであった。しかし、彼は相手が外国人であろうと、英語が流暢な日本人の先輩であろうと、誰にもおじけず、この自己紹介をするのだ。
そして、彼の自己紹介はいつも周囲を笑わせてくれた。そんなに簡単な英語でいいのか?と、周りの学生が度肝を抜かれている様子が見れたのだった。
それだけ、彼は肝が据わっているというか、すごい度胸の持ち主であった。
なんとも、彼の話を聞く限りでは、彼は中学校二年生の夏休みに、一人で北海道へ行き、青春18切符で北海道旅行をしたことがあるらしい。彼は、独立心と好奇心の塊なんだな〜と思ったこともあった。
Saitama Boyの行方は?
私が大学院生の間、彼は毎日のように英語学習ルームに通ってきた。きっと、英語を頑張りたいという気持ち以上に、彼は勉強の休憩を目的として、遊びに来ていただけの様子だった。きっと、英語学習ルームでの時間は、彼にとって、ただ楽しかっただけかもしれない。
その間、私はいつも彼に自己紹介をしてもらっては、よく楽しませてもらっていた。きっと、彼に自信をもらった学生はたくさんいたことだろう。
私が大学院を去るや否や、彼は英語学習ルームのスタッフとして働き始めた。色々な噂は私のところまで飛んできたが、18歳の頃から比べると、スタッフになれるくらいまで英語力を伸ばせた彼のことは、誇らしく思った。
そして、彼は社会人となった。
英語を使う仕事を得たらしい。そう思うと、先輩として心の底から込み上げてくる嬉しさがある。
初めて彼と出会った時に、彼がしてくれた自己紹介。
Hi. I am Masa. I'm from Saitama. Saitama has nothing.
この自己紹介を聞いた日からもう何年経つのだろうか。英語力って伸びるんだな〜と彼の英語の成長を見届けながら、つくづくと感じる。
数ヶ月前、彼が社会人となり、久々に電話をした。そして、彼は私にこう言った。
Sayaさん・・・。
僕が大学一年生の時、Sayaさんは、僕の自己紹介を笑って、すごく馬鹿にしていたじゃないですか〜。もう、そのせいで、今、僕は英語で自己紹介する時、I'm from Saitama.が恥ずかしくて言えなくなっちゃったんですよ〜!!
と、笑いながら言っていた。
それは、本当にごめんと心の中で思いつつ、彼が立派に英語を使って仕事をしているということを聞くと、先輩として誇らしさを感じるものである。
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