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抗不安薬


何かを考えていると不安になる。何も考えなくても不安になる。テレビから無秩序に流れてくる声や映像に、自分の体を預けていれば何も考えなくて済むかと思ったけれど、それも限界がくる。

朝晩2錠ずつ処方されている抗不安薬を、どうしてもの時には合間に1錠だけなら足してもいいと医師には言われている。時々朝晩2錠飲まなくてもいい日があって、そういうものが少し予備として残るから、それをその時飲む1錠に充てる。

抗不安薬は、気分を和らげはするが、根本的な解決にはならない。ぼくの処方されているものは比較的穏やかな効き目のもので、依存性は低いと説明されているが、やはりいつまでも頼るのもどうかと、それはそれで心配ではある。

この薬を飲むことは根本的な解決にはならないけれど、それで気持ちが和らいでいる間に対処を考えることはできる、転ばないための、あるいは転びそうな時の、転んでしまった時に立ち上がるための、杖のように使えばいいと思う、とカウンセラーの心理士さんが言っていた。

先週、復職後のフォロープログラムでそのクリニックに行った時に、彼女とは別のスタッフが、すれ違いざまに、あ、ブルーさん!試験受かりましたよ!と教えてくれた。9月からプログラムの始まる前などにテキストを開いて難しそうな顔をしていたし、試験の後も、実際はそんなことはないのだが、もしも私の姿がクリニックから消えていたら受からなかったんだなと思ってくださいね、と冗談混じりに言っていて、新卒で入った彼女はその資格をとることが、一発合格ではないにしろ、求められていたのだろう。

結果についてはセンシティブな事柄だし、こちらから尋ねてもいいものか多少迷っていたから、向こうから知らせてくれてよかった。おめでとう、よかったね、と本当に思う。ありがとうございます、と笑顔。感謝されることなんてしたっけ、と彼女が向こうに歩いて行ってから思う。笑顔をもらうと笑顔になれる。

大学院を出たばかりの彼女の、若くて正直な態度にいつもぼくは感心させられる。

杖に頼りながらそんなことを思い出した。

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