■新型コロナの抗原検査について貴重な論文を読んでの解説

 ★結論→安価で迅速に診断できる抗原検査を日本国は積極活用すべし!!
2021/01/07(木)、久住英二先生(HPVワクチンのことで喧嘩する前までは友人)よりの情報がありました。
https://twitter.com/KusumiEiji/status/1347066569730347009
"コロナの迅速診断キットは、ウイルス量の多い(Ct≦30)人では、感度はPCRと同等だとする報告
https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa1890/6052342
米国では500円チョイで売ってるし、自分で検査もできる
日本では原価で4500円とかするし、医師しか検査できない
医者が発熱患者を診察したがらないので、市販したらどう?"
 なんと、本日、勤務先病院の感染対策委員長(もちろん、感染症専門医)と抗原検査について話していたのでした。私はこう提案した↓↓
"LAMP/PCRは Gold Standard ですが、時間も費用もかかります。抗原検査はウイルス量が多いなら陽性となると言われてます。それら遺伝子検査は 5 copy (ウイルスがたった五個)でも検出できるわけですが、検体に数千個含まれているくらいじゃないと感染力はほとんどないだろうし、そのくらい多いなら抗原検査で検出できるのではないでしょうか。なので、費用も手間もかかる遺伝子検査ではなく、抗原検査でスクリーニングしてはどうでしょう。もちろん、抗原検査で陰性の場合は医師の総合判断でPCR検査をすることは当然"
私の提案に対して、彼はこのように言いました。"PCRの Ct と抗原検査の関連について論文がありません。確かに、ウイルス量が少ないと抗原検査では陰性になるだろうと考えられるけども、抗原検査で陽性になる場合は感染力がありることは正しいとしても、陰性なら感染力がほとんどないというエビデンスはないです。なので、抗原検査を基本とすることはダメ"
 論文が無いなら、そうなのだなと納得。ところが、なんとその日のうちに久住先生の twitterを見て、当該論文を読みました。そして、この長文を記しております。
--------------- 久住先生が公知した論文------------------
Field performance and public health response using the BinaxNOW TM Rapid SARS-CoV-2 antigen detection assay during community-based testing
Genay Pilarowski, Carina Marquez, Luis Rubio, James Peng, Jackie Martinez, Douglas Black, Gabriel Chamie, Diane Jones, Jon Jacobo, Valerie Tulier-Laiwa ... Clinical Infectious Diseases, ciaa1890, Published: 26 December 2020 Article history → https://doi.org/10.1093/cid/ciaa1890
Abstract: "Among 3,302 persons tested for SARS-CoV-2 by BinaxNOW TM and RT-PCR in a community setting, rapid assay sensitivity was 100%/98.5%/89% using RT-PCR Ct thresholds of 30, 35 and none. The specificity was 99.9%. Performance was high across ages and those with and without symptoms. Rapid resulting permitted immediate public health action."

▼序文の要点
・地域における新型コロナウイルス伝播の鎖を断つため必要なことは、迅速な感染者道同定と隔離である
・感染者が大量のウイルスを保有していても、多くて4割は無症状らしい
・標準的検査(PCR)にはたくさんのバリア(検査拡大の限界:場所、保険システム等)がある
・高い精度の迅速抗原検査は地域における感染者の多くを同定できる
・検査はPCRと比較して、抗原検査はウイルスを"高水準"(high level)に保有している"感染者の同定と隔離を可能とするであろう
・我々は"高水準"のウイルスを保有している感染者において、Abbott社のBinaxNOWという迅速抗原検査がどの程度の感度が評価した
▼方法
・症状のある無しに関わらず、3302人の前鼻腔(左右)から検体を採取して、抗原検査及びPCR検査を実施
・抗原検査の結果を一時間以内に被検者に連絡。陽性者には二時間以内に再度連絡して、それから説明してホテルに隔離(自宅隔離を望んだ者はそのように)
・PCRのCt(閾値)が30又は35以下と"高水準"にウイルスが存在する陽性者に関して、抗原検査の感度と特異度を計算した
・報告までの時間を登録時点から結果報告までの間とした
・隔離までの時間は症状発現あるいは検査時点から隔離までの時間とした
▼結果
・3302人に対して一時間で約100人を検査
・237人(7.2)はPCR陽性で、そのうち211人(6.4%)は抗原検査も陽性
・13才未満では19.4%(19/99)がPCR陽性、13~18才では14.5%(16/110)が陽性
・95人のPCR陽性者の40.1%(95人)は無症状
・PCR陽性者の中で検査の一週間より前から症状があったのは3%(7人)
・Ct < 30 又は Ct < 35: 抗原検査の感度は100%
・102人の無症状あるいは症状出現が検査の7日より前の対象において、Ct < 30 の基準では抗原検査は100%の感度
・抗原検査の特異度は99.9%
・抗原検査で陽性者への電子的手段での連絡は62分(その一時間以内に電話)
・有症状の抗原検査陽性者が隔離するまでの時間は3日であった
▼考察/議論(discussion)
・新型コロナの流行を抑制するためには、早く、障壁が低く、高精度の検査が必要。それが無いと検査がされなかったり、検査の実施が遅れすぎる
・米国政府は1億500万の迅速抗原検査カード BinaxNOWを購入したが、同検査の制度についての情報が周知されてないために、使用はこれまでのところ限定されている
・我々のデータは地域の子供と成人に対して迅速に実施できること、そして、症状のある無しにかかわずに"高水準"のウイルスを保有している人々を迅速に同定することを示した。この迅速抗原検査により速やかに対応できることを示した
・この抗原検査の主たる利益は結果判明から一時間で検査対象者に連絡できる迅速さである
・"高水準"のウイルスを保有している感染力を有する人々を迅速に同定することで、公衆衛生的手段を速やかに開始できる
・我々はこの迅速抗原検査で陽性となった人々を速やかにホテルないし自宅で隔離することができた。
・更にまた、陽性者との接触者を追うことがPCR検査陽性の場合よりも24~48時間早く開始できた。
・この技術は感染が拡大している地域において、迅速かつ大量のスクリーニングを可能とする
・この検査はPCR検査よりも安価であり、PCR検査のための機器を必要としない
・(かなりの意訳)PCR検査が必要な人が特定され、現実に検査され、その結果が判明するまでには4日かかる。迅速抗原検査は必要な人に速やかに検査を実施できて、結果も直ちに判明する。抗原検査は"感染前後の4日間の感染力が高い時期"に感染者を同定して隔離できる。これに対してPCR検査は"感染前後の4日間の感染力が高い時期"の早期における同定と隔離を困難とする。
・この抗原検査の特異度が99.9%ではあるが、Gold standard はPCR検査だ。我々のデータが示唆することは、新型コロナの有病率が5%の蔓延地域においては、抗原検査の偽陽性率は2%かそれ未満、有病率が2%ならば偽陽性が5.1%ほど。

■私のコメント
▼その研究で使用された迅速抗原検査キットについて
-【アメリカ】アボット、新型コロナ検査キットBinaxNOWが緊急使用許可取得。530円で所要時間15分 2020/9/2 https://sustainablejapan.jp/2020/09/02/abbott-binaxnow/53416
"米製薬大手アボットは8月26日、新型コロナウイルス検査キット「BinaxNOW」が、米連邦医薬品局(FDA)より緊急使用許可(EUA)を取得したと発表した。同検査は5米ドル(約530円)で利用可能。クレジットカード程度の大きさで持ち運びもしやすく、検査結果も15分で判明する"
"同社と米国の主要研究機関がFDAに提出した臨床試験データでは、新型コロナウイルス発症7日以内の被験者がBinaxNOWで検査した場合、偽陰性を排除し、真陽性である確度を意味する感度が97.1%以上だった。偽陽性を除外し、抗体が特定の抗原にしか反応しないことを指す特異度は98.5%。"

▼次ぎに、医療関係者でない方のために抗原/遺伝子(PCR)検査について解説
1) 抗原とはウイルスを特徴付ける物質。それに対する抗体(免疫グロブリン)を反応させて、陽性か否かを判定
2) 抗原は確かにウイルスを特徴付ける物質ではあるものの、それに対する抗体がそのウイルス以外のウイルスの物質に反応することがあり得る→この場合は当該ウイルスが存在してないのに間違って陽性となる←偽陽性
3) 鼻とか唾液から採取された検体の中にウイルスが十分量存在してないと、抗原の反応は小さいために、陰性の結果となる。検体の中にウイルスがあるのに陰性との結果を偽陰性と言う
4) RT-PCR検査はウイルスの指紋のごとき遺伝子のある部分を何万倍以上に増幅(copy)するので、検体に"ウイルスの指紋"がないのに、陽性となることは原理的に無いと見なしてよい。つまり、間違って陽性となる偽陽性は実践的には無いとみなしていい
5) RT-PCR検査は検体の中にウイルスがたった五個存在していても検知できるほどに極めて鋭敏(感度が高い)。ウイルスが五個未満なら、その検体の感染力はゼロとみなせるので、ウイルスが存在するのに、PCR検査が誤って陰性と判定する"偽陰性"はないとみなしてよい。
5) RT-PCR検査における Ct(Threshold Cycle) の値について
 専門的解説は→ https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/qpcr-basic37/#Ct_Threshold_Cycle
 雑ぱくに言いますと、Ct の値が高いほど検体のウイルス遺伝子の量が少なく、低いほど多い。例えば Ct 45なら5個、Ct 35では800個、30なら2万個とか。
 論文では Ct < 30 とか Ct < 35 という「ウイルス量が多い」結果となったにおいて、抗原検査の感度と特異度を計算しました。PCR検査で30 とか 35 というCt値未満ならば、ウイルス遺伝子の数は約千以上はあるので、感染性が十分にあると推定できます。Ct 40程度ならば検体に含まれるウイルスの数は10未満なので感染性はほとんどないとみなせるわけです。

 関連して、偽陰性、偽陽性、特異度、感度については私のまとめがあります→ https://www.dropbox.com/s/nchtok7u1544bvq/200912_SARS-Cov-2.pdf

▼結語
 まず、最初に明言せねばならないことは、新型コロナウイルス(SARS-COV-2)を検出するための Abott社のBinaxNOW を厚労省は認可してないこと。そして、我が国の厚労省が認可した抗原検査キットはいくつかあります(富士レビオ株式会社のキットなど)が、PCR検査の Ct 値が検体において"高水準"(大量)に存在する場合において、抗原検査の感度・特異度を算出した論文を今のところ私は見付けることができてません。もしかしたら日本で認可されている抗原検査(速いものでは15分で結果判明)がAbott社と同等の精度かも知れませんが、わかりません。
 以上の制約がありますが、この論文が示唆する大切なことを箇条書きにまとめます。
a)感染力を有する(感染力が比較的に強い)新型コロナ感染者を迅速かつ安価に同定できる抗原検査は、可能な限り大量に検査をして無症状の感染者を見付けるために極めて有用。

b)首都圏・大阪・福岡などにては有病率が高く、新規感染者が多い
→つまり、RT-PCR検査の最優先対象となる"有症者及び陽性確定者の濃厚接触者"の数が極めて多い
→だから、PCR検査は直ちにできないことが多い
→検査が必要と認定されてから2~4日後にPCR検査を受けて、判明するのがその翌日(とか二日後)
→つまり、感染が蔓延している首都圏等においては、PCRの実施と結果判明までに2~5日も要することが多い
→陽性と判明するまでの間に感染を広げることが少なくないことは自明である

c)感染(発症)前二日から発症(感染)後二日ほどの4日間くらいにおいて、体液(唾液、痰、鼻汁など)に大量のウイルスが含まれていて、他者に感染させるリスクが高いことは知られている。その研究で使用された抗原検査は感染力が強い人をかなり漏れなく特定することができると強く示唆している。現実に実施されるまで2日以上もかかることが多いPCR検査ではなく、速やかに抗原検査をすることで、感染力が高い人を特定して隔離できよう。そうすることで、感染者をこれまでよりも早期にしかも安価に発見できるため、感染を効果的に減らすことができよう。
 抗原検査は感染源の早期発見のために、時間と費用を節約することができる重要かつ必須な手段であろう。

d) 有症状感染者、陽性確定者の濃厚接触者、そして無症状の"医療・介護従事者/不特定多数の顧客に接する人々/元気で動き回る20代の若者 等"に対して、速やかに大量に抗原検査をする必要があろう。首都圏等、感染が蔓延している地域においては特に。

e) 日本国の中央政府は抗原検査を積極的に推進するべきだと考えるが、医学論文による有用性の証拠が存在するのが、もしもAbott社のキットしかないならば、速やかに同社の製品を認可することが望まれる。もちろん、日本企業による抗原検査キットとPCR検査の Ct 値との関連を調べる研究を政府の資金で開始することも望まれよう。

f) 日本企業による抗原検査キットはもしかしたら Abott社のそれよりも精度が低いかもしれないが、それでも厚労省は積極的な活用を公費で推進するべきだと考える。もしも精度が低くても、少なくとも陽性の場合は感染している確率は極めて高いことは既に明らかであるからだ。陰性の場合、有症状あるいは濃厚接触者ならばPCR検査をすることをルール化したら良い。

以上。久住英二先生が twitter で紹介して下さった論文を読んでの言説でした。久住先生には深く感謝いたします。

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澤田石 順(秋田高校山嶽部出身、"無い科医") jsawa@nifty.com
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