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明日役に立たないホルスタイン様の話

我が実家は元酪農家である。

酪農家っていうのはいわゆる牛乳農家のことである。

同じように思えるかもしれないが、肉牛農家とは全く違う。

まず、飼っている牛が違う。日本で飼育される肉牛のほとんどは和牛である。和の牛だからな。ホルスタインは食卓には並びません。

ホルスタインは牛乳を生産するための種ですので、基本的には人間の食卓には上りません。オスは子牛のうちに売りに出す。育成農家(いわゆる種牛などを育てたりするところに行く)に行くケースが多いかな。全部が全部種牛になるわけではないけど、お肉になるにしても人間の食卓にはいきませんね。

ヴィーガンの方々はたまに勘違いをされているが、農家は商売道具であるホルスタイン様をいじめたりはしない。

そりゃあ多少のしつけはするが、それは人間の子供に「ベッドはここだって言ってるでしょ!リビングで寝ないで!」と言ったり、「好き嫌いせずに残さず食べて!栄養があるの!」とか、「そこはトイレじゃねえ!」とか言うのと同じである。

ちなみに、ホルスタイン様は犬や猫のようにはしつけられないので、とりあえず自分の寝床を覚えてもらうくらいしか望んではいけません。餌の時間はね、勝手に覚えますね。呼んだら普通に戻ってきます。だって美味しいご飯食べたいもんな。

夏の草が美味しい季節だと、呼んでもなかなか戻ってこない。しらばっくれやがる。私が走っておうちに戻ってどうぞ~~~って追いかける。ホルスタイン様は自由に生きているので、人間のいうことなど聞かぬ。たまにエキセントリックに脱走する。



たまに農協から迷い牛のFAXが届く。



知ってるか?

ホルスタインの「黒白」と「白黒」は違うんやで?


※柄の割合で決まる。ヘッダーに使わせていただいた見出し画像の牛さんなら黒白である。

※ほぼ半々の場合は、顔の黒白の割合で判定

※迷い牛FAXには白黒か黒白か、耳カン(番号札)番号とかが書かれる

※ちなみに茶色い毛のやつはジャージー様だからホルスタイン様ではない


そもそも、ホルスタイン様は人間より力も強いし、あいつら意外と足も速いし、めちゃくちゃパワーがあるので人間など軽く蹴飛ばせるのである。

私は3回くらい牛にふっとばされているし、なんならヘッドバッドもされている。

牛は習性として、目の前にうろちょろするものがあるとイラッとくるのである。間違っても頭を撫でようと思ってはいけない。秒でドツかれる。

たまに勘違いしている方がおられるが、牛は赤い色を見ても興奮しない。闘牛でヒラヒラさせてるあの布が赤いのは、観客が見やすいからである。牛には赤を識別する色覚がない。

だから、闘牛の牛さんはあのヒラヒラ動く布にイラついているのであって、別に布の色はどうでもいいのである。

ちなみに、牛は体の構造的に、馬ほど小回りがきかない。足があがらないし、関節の向きがそこまで柔軟にできていない。

ので、急カーブができない。闘牛士が直前で避けられるのは、その習性を利用しているのである。

つまり、もし貴方が暴走牛に襲われることがあれば、ギリギリまで真っ直ぐに逃げてひきつけ、ぶつかる直前に反復横跳びで避けると良いわけである。

※その機会があるかどうかはしらない

ちなみに、牛は馬のように後ろ側に蹴り上げすることができない。牛の蹴りは回し蹴りローキックであり、前から後ろへと回す。

ので、牛に蹴られそうになったら牛の横側に逃げると良い。

※その機会があるかどうかはしらない


ヴィーガンの方々の批判漫画みたいなので、ホルスタイン様が人間様のエゴによって搾取されているかのように描かれているが、実際のところ人間はホルスタイン様にご奉仕して牛乳を頂戴しているのである。

ホルスタイン様は草がまずければ食わないし、飼料に栄養剤混ぜたら食わないし、牛舎を衛生的にするために消毒したら薬臭さにキレ散らかすし、しっぽでぶったたいてくるしヘッドバッドするしローキックするし鼻水を飛ばしてくる。

搾乳の時間が遅れたらキレるし、エサの時間が遅れてもキレる。

人間はホルスタイン様のご機嫌をとりながら、牛乳を頂戴しているのである。

牧草地はただ草が生えているわけではなく、水分量のバランスまで考えて牧草のタネを撒いて作っている。そもそも、あいつら雑草は食わない。不味いから。牧草地に紛れ込んだ雑草も綺麗に避けて食べるし、牧草地にいく途中の小道の雑草なんて絶対に食べない。不味いから。

ホルスタイン様はグルメである。不味い草許さない絶対。

なんなら、たまに人間様よりもいい食事しているのではないかこいつら?と思う時がある。あまりにもご飯が遅くなって、茶漬けに漬物で晩御飯を済まされた時などその真骨頂である。

ホルスタイン様は人間よりも食にうるさいのだ。

質の悪い草を出そうものなら、マジ切れの咆哮をあげてくる。草の出来は天候に左右されるので、我々の努力でもどうにもならない時はどうにもなりませんホルスタイン様。お許しくだされ。お許し下され。

牛飼い農家は滅私奉公なのである。

そんな苦労して牛乳生産しているのに「牛乳は実は健康に悪い!」とか根拠がやや怪しい話をTVで垂れ流して牛乳が売れ残ったりする。

それでも牛乳は毎日絞らなければホルスタイン様の健康にさしさわりがあるので、毎日絞っては廃棄していた。

それなのに、喉元すぎた頃に牛乳が足りなくなって、乳製品が値上がりして消費者が文句を言う。ホルスタイン様は貴方たちが不買運動している時も毎日ジャブジャブ牛乳を生産していたけど生鮮品なので廃棄するしかなくて、乳製品の生産量も減ったので値上がりしました!自業自得だこんちくしょう!


今となっては、酪農家も離農ばかりで先行きが怪しい。

農業は個人でやる時代ではなくなった。

法人化して大規模農業をやるか、離農するか。

我が家も離農して、今は両親は大規模農家のヘルパーなどをしている。ヘルパーも離農農家の高齢者がやったりしているわけで、日本の農業の未来は暗雲である。

だってホルスタイン様へのご奉仕大変だもんな。

でもまぁ、地元は今でも牛乳生産が盛んだし、企業化した農家は生き残っていないこともないし、牛乳は美味しいよ。

ホルスタイン様を讃えよ。


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