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シリアスなギャグ『翔んで埼玉』の話

写真はいつぞやいった埼玉、川越の町並である。

我が家は埼玉に近いのだが、東京に引っ越して来た時に荷ほどきを手伝ってくれた埼玉の友人は、会うなりこう言った。

「え、ここ、埼玉じゃなかったんすかぁー?」

※23区内

いや、たしかに都内なのに公園で田舎の象徴とされる「ホーホーホッホー」っていう例の鳴き声を聴くけどさ!!(札幌では比較的郊外に住んでても聞かなかったのにな!)

練馬区とか板橋区とか北区とか足立区の端っこの方に住んでいると、埼玉の植民地としてカウントされるのか、それとも日本埼玉化計画ゆえか。

それはともかく、GACKT推しの友人がいたので、一緒に『翔んで埼玉』を観に行った。

千葉県まで。

埼玉じゃねーのかよ!っていうか、都民なんだから都内でいいだろ!という話なのだが、お互いの落ち合う場所の都合で、まさかの千葉県出張である。チーバでサイタマの映画を見るトミン。

ここからはネタバレなのでやや改行するが、正直アレのネタバレをしたところで、原作を知らない場合は「何て?」と聞き返すしかないし、原作を知っているなら「シカタナイネ」となるのでネタバレとかどうでもいいかもしれない。






まず、出オチでいきなり謎のバレエ的なダンスが始まり、作者が(ご本人なのかは知らないが)「ぜんぶ実在の地名とは関係内です!フィクションです!^^」みたいなことを言ってむやみやたらに荘厳に始まる。

正直、この時点でもう、ツッコミどころしかないのであるが、埼玉が翔ぶのはもちろんここからである。

何故か結納を控えた女子とその親の話が始まり、困惑しているとラジオから「埼玉に伝わる都市伝説が……」とか流れ始める。本編の合間に、ちょいちょい現代時系列として(主に埼玉から都民になるのが楽しみで仕方がない娘さんの)ツッコミが入る仕様となっている。というか、ご両親はツッコまないどころか、途中で抗争を起こしている。

この映画オリジナルであろう要素は賛否分かれるとは思うけれども、本編のきらびやかでブレーキのない暴走特急のような内容から、適度に息継ぎをするための場面としては優秀。ちゃんと現代パートは現代パートでオチがつくしな……。

で、都市伝説こと『翔んで埼玉』の本編である。

きらびやかなセットと衣装、現実離れした耽美なメイク、画面からの圧力がすごい中、颯爽と現れるGACKT。


めっちゃ貴族的な服をきた高校生のGACKT(45歳)


高校生(45歳)


正気か?と思うけど、GACKTもインタビューで「正気か?」と思って初めは速攻断った的なことを言っていて、そりゃそうだろな!

というか、割と浮世離れしている人属性のGACKTが、一度は即答でお断りするほどの役をオファーしたの正気の沙汰じゃないよな?

二階堂ふみの男装は、違和感ないというか、元々『翔んで埼玉』って耽美マンガの系譜なわけで(あまりにも埼玉disの台詞が有名になりすぎたのでアレだけど、元々原作者の方はそういう畑の方ですしね)正直GACKTに比べると「通常営業」くらい。原作でもちょっと女の子っぽい見ためのキャラだし。

むしろ、GACKTの麗さまといい、二階堂ふみの百美といい、よくぞあの耽美マンガの絵面を再現したな……。

事前に映画ニュースなどで出てきていたのが、例の「そこらへんの草でも食わせておけ!」の台詞を言ってる二階堂ふみの女優生命に体当たりアタックした変顔だったので、すごい変顔祭なのかと思ったらそうでもなかった。

むしろ、宣材として二階堂ふみがもっとも変顔決めているシーンを選り抜きしたスタッフが(あとそれにOKだした二階堂ふみとその事務所が)優秀すぎるんだと思う。そんなに変顔のシーン長くないんですよ。割と一瞬で通り過ぎるので。

ちなみにそこらへんの草でも食わせておけと思っていたはずの百美さんは、麗様に即堕ち1コマ劇場するので、意外とdisのシーン自体がそんなに長くない。でも東京の空気テイスティングは爆笑した。

(余談だけど、帰る途中、西葛西からインド国籍と思しきターバンの男性が電車にのってきて「ンッ……」ってなった)

詳しい内容は、語っても仕方がないというか、意味不明な部分しかないので語るべきではない。

途中で千葉解放戦線なるものがGACKTの鼻にピーナッツをつめようとするとか洋風のゴージャス世界観にいきなり時代劇を持ち込む京本正樹とか、突然出る謎の風土病サイタマラリヤとか、見どころはたくさんある。

茨城や群馬が巻き添えのようにdisられているが、もうこの作品でdisられていない関東はないので、仕方がない。

流山での千葉と埼玉の合戦は見ものである。その戦い方なのかよ!河川敷に大勢で詰めかける必要あったのかよ!という感じなのであるが、実はこの軍勢を用意しているのは、ラストのオチに関わる最重要な伏線である。

そう、この映画にも伏線があるのだ!

ほぼ99%シュールなギャグを大真面目にやっているこの映画にも、伏線が!

最後のオチは、百美ちゃんそれでええんかい、という気がしないでもないが、まぁ彼(?)は麗様に即堕ちしているし、パパンとのアレもあるから……いいのか。


『翔んで埼玉』がここまで評価がよかったのは、映画のストーリーが素晴らしいとかそういうものではない。

そもそも原作はちゃんと完結していない。

埼玉disも、無駄に華麗で耽美な建物や衣装も、東京に入るための通行手形撤廃を巡った埼玉・千葉の抗争も、その世界観でのリアルであって何一つふざけているわけではない。

『翔んで埼玉』という作品は、登場人物の誰も、何一つふざけていない。

100%シリアスなギャグなのだ。

全力で頭のおかしい茶番をシリアスにやりきった映画だから、面白い。

ちょいちょい現実世界(現代の時系列?)の親子のツッコミで、時折世界観が揺り戻されるが、一たび本編に戻るとそこにはシュールすぎる世界で命をかけている男たちの生き様があるのだった(二階堂ふみさんは男役の女性だけど)

これ、本編の方で途中で誰か一人でも「いや、この設定はないでしょw」みたいな現実に戻すようなことを言ったら、全部台無しになるんですよ。一気に冷めちゃう。

だからツッコミ(息抜き)は冒頭の「これはフィクション!」という宣言と、映画オリジナルの現代パートに振って、本編はシリアスなギャグに振り切っている。

シリアスなギャグにまっすぐ翔んでいったから、この映画は面白くなった。高校生のGACKTと二階堂ふみの変顔で笑っとこうくらいの軽い気持ちで行ったら、思わぬ方向にわけのわからないもの(褒め言葉)を見せられた感じ。

あとはもう、全部見終わった後のはなわが歌う主題歌が、もうこの茶番にぴったりの二段オチをつけているので、スタッフロールも最後まで見て欲しい。あなた……佐賀の人だけど……そうだったんか……。


しかし、果たしてこのシリアスなギャグを、TV画面やネットのブラウザで視聴したら、ここまで笑えるものになっただろうか?

恐らく魅力が半減したと思う。

映画館の巨大スクリーンで、豪華絢爛な茶番を見せられたから面白いのであって、小さな画面で見たらそこまで笑えなかったのではなかろうか。

というわけで、しばらくロングランしそうなことだし、興味があったらぜひ劇場で見て欲しい。関東民じゃなくてもそこそこ笑えると思う。地理がある程度わかっているとより面白いとは思うけど。


ところで、一緒に見ていた友人は笑いの沸点がひくめなので、途中何度か生まれたての小鹿みたいにプルプルしていた。皆が笑ってしまっている時は、ちょっとくらい声にだしてもええと思うで。

でも、連れに原作シーンの解説をしてたおっさん、お前は退場しろ。講釈は見終わった後にその辺の草でも喰いながらやれ。


ちなみにGACKT推しの友人の感想。

「いやー、高校生には見えませんでしたね」

「せやろな」

「あと、ただのGACKTでしたね!いつもPVとかで見てるやつです!」

翔んで埼玉の世界観に素で混ざれるただのGACKTとは????」



な、なるほどな~~~~~~~!!!!



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