ピアノ練習のために幼なじみの家へ突撃していた話。
私はクラシック音楽のある環境で育ったわけではなく、中学校で吹奏楽部に入ったことをきっかけにフルートを始めたので、家にはピアノがありませんでした。
高校生になり、音楽で進学したいと思うようになると、さぁ、大変!
フルート専攻でもピアノを弾かなければいけない・・。が、家にはピアノがないっ!
実は私、両親から音楽系の大学への進学を猛反対されていて、協力してくれなくても自分でやってやる!と、バイトをしてレッスン代を出していました。専門的なレッスンを受け始めたら、このフルートでは受験はできないと言われ、バイトを増やしてやっと買ったのが中古のムラマツADでした。安全靴を履いて首からタオルをかけ、汗だくになりながら冷房のない町工場で働いた夏休み・・。あっ、でも今日は私の苦労話をしたいわけじゃないんです。
そんな私も、さすがにピアノは買えなくて、ピアノを練習するためにしょっちゅう突撃していたのが、幼なじみのまりちゃんの家。まりちゃんのお母さんである「まりちゃんのおばちゃん」は、アポもなく突然「ピンポーン!」とやってくる私のことを、いつもやさしく迎えてくれました。
今でもピアノは得意ではないけれど、当時の私はひどい騒音を出していたと思います・・。しかも!まりちゃんはピアノが上手でセンスも良くて、当時、とても美しくドビュッシーを弾いていたのを覚えています。
私の訪問は迷惑以外の何物でもないはずなのに、まりちゃんのおばちゃんは、私にお茶とお菓子、軽食などを、素敵なお盆に乗せて運んで来てくれるのでした。
いつもやさしい空気に包まれていたまりちゃんち。たくさんお世話になったのに、私が北海道に来てからは会う機会もなくなってしまっていました。
そして、先日、まりちゃんのおばちゃんがご病気で亡くなられたと聞きました。お礼も言えないままだったので、感謝の気持ちを込めて、この記事を書くことにしました。
クラシック音楽をやる中で、私のような環境で育った人にはあまり会ったことがありません。みんな恵まれていて、親に協力してもらえて、正直、羨ましく思うことも多かったです。
でも私は、親に反対されて、お金も出してもらえず、四苦八苦しながら奮闘していると、本当にたくさんの方が助けてくれました。通っていた高校ではバイト禁止なのに見つかってしまい、音楽のレッスンを受けるためにやっていると言ったら停学処分にならないよう担任の先生が全力でかばってくれたりもしました(この先生にもお礼を言わなきゃなぁ)。
振り返ると、ある面では恵まれていないように見えても、別の面で恵まれていたんだなぁとしみじみ思います。音楽を始めた頃は「環境」に恵まれていなかったけれど、ありがたいことに私はずーっと「人」に恵まれています。そして、音楽をできることが当たり前ではなかったからこそ、今もずっと、興味や好奇心を失わずに続けているんだと思います。
クラシック音楽だけではなく、何かを勉強するというのはお金がかかるもの。努力だけでは越えられない壁を目の当たりにして、悔し涙を流すこともあります。そんな思いも知っているからこそ私は「努力すればどんな困難もクリアできる!」とはとても言えません。でも、心を開いて一歩ずつ歩んでいたら、誰かが力を貸してくれたりして、いつか氷が溶けたり、道が拓けたりしていくものだと信じています。
応援してくれる人に心からの感謝を。
そして、困難な環境でがんばっている人にエールを。
私もそろそろ、まりちゃんのおばちゃんのような、あたたかいおばちゃんになれるといいなぁ。
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