新しい家族のかたちを、子どもの本の世界にも

"Hjaltes første dag i børnehave" af Marianne Birkeskov, Illustration af Grith Vemming Oksen. 2017, Denmark. 「ヤルテくん、ようちえんにいく」マリアンネ・ビヤケスコウ作、グリス・ヴェムニン・オクセン絵 デンマーク 

3歳のヤルテは、今日から初めて幼稚園に通い始める。デンマークでは、空きができるとそのつどウェイティングリストの順に入園する仕組みなので、入園式はない。入園しても、最初の数日から数週間(子どもや園によって異なる)はindkøringと呼ばれる慣らし保育の時期。ヤルテはこの日が始めの日。それまで通っていた乳幼児園から同じ日に入園した友人オットーと再会し、園で楽しく第一日目を過ごす。ヤルテの送り迎えにはふたりの母親が付き添う。MorとMamaと呼ばれる二人の母親のことを、本の中では、ストーリーの終わりの方にさりげなく紹介している。そう、この本は、レズビアン夫婦とその子どもたちが登場人物なのだ。

作者のマリアンネ・ビアケスコウは、自身がレズビアンで一男一女の母。子どもたちを出産した妻と4人暮らし。彼女は、多様な家族のかたちをもっと自然に子どもの本の世界でも表現したいと考え、自ら本を書き、クラウドファンディングを実施。一万クローネ(訳17万円)を集めた。さらにデンマークの保育士組合BUPLと、女性の社会的地位向上をサポートするフォンド(Kvindernes Bygnings Fond)からのサポートを受け、この本を出版した。

小さな子どもにとって、幼稚園に入園する日というのはとても大きな日。その日のことを、ドキドキしながら楽しみに待つ子ども、不安に思っている子ども、そしてもう過ぎたその日のことを今でも忘れられない子どもも多い。デンマークの3歳児にとっては、とても大きなイベント。そのリアルな様子を描きながら、あくまでもストーリーの背景として、家族の多様性を映しだしたいと作者は願った。作者自身、自分の息子を主人公の少年ヤルテと重ね合わせ、息子との対話の中から、子どもにとってリアルなストーリーになるよう心掛けたという。そして多くの人々や団体のサポートを経て、この作品は世にでることになった。私がこの本を手にしたのは、コペンハーゲン中央図書館だったが、この本が図書館の絵本だなに入るまで、このような過程をたどっていたのだと知り、多様な家族が普通に受け入れられているように見受けられるデンマークでも、新しいことを実現するには、こうして一歩ずつ、手探りで進めているのだなと改めて驚きを感じた。

Den moderne børnefamilie クラウドファンディング

Kvindernes Bygnings Fond : 男女平等を促進するため、女性に関する政治的な様々なプロジェクトをサポートするフォンド


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