だれからも気づいてもらえないということ

"Historien om Ib Madsen" af Mette Eike Neerlin, Rasmus Bregnhøi 「イブマッセンくんのおはなし」メッテ・アイケ・ネアリン作、ラスムス・ブラインホイ絵 絵本

イブはとっても良い男の子。皆に好かれていて、お行儀も良く、喧嘩もしない。宿題を見せてと言われれば誰にでも見せるし、サッカーで人数が多すぎたら自分から「ベンチを温めておくね!」とすすんで言える子。かくれんぼは得意で、いつまでも一人で隠れているし、クラスで遠足に行くときは、いつも電車の席を独り占めできる。クラスで2人組になるときは、いつも先生と組む子。

ここまできたら、どういう内容かがだんだんわかってくる。イブは家に帰っても「愛情にあふれたパパとママ」がイブの話を聞いて、いつも一言だけ返事してくれる。パパは新聞を見ながら、ママにいたっては顔がどこにあるのかもわからない様子で。

文章とイラストが完全に対照的に描かれ、文章から伝わってくる楽しい空気がイラストの究極のコントラストで全く違うものだとわかってくる。絵本として描くには重いテーマではあるものの、イラストがあるからこそ、もっと、ずっと作者たちの意図が伝わってくる。すごい作品。

深く考えさせられる、色んな意見を引き出す絵本。デンマークの小学校2,3年生の教材として使われることもあるようで、教材もネットで見つけられる。クラスメートや家族から透明人間のように扱われること、だれからも気にかけてもらえないこと、孤独であることの悲惨さを淡々と描いている。この作品はさらに、修学旅行でイブがいなくなり、話がまた一段と深刻化してくる。なかなか重い内容。

いじめは北欧でも存在するし、それはどこの国でも同じだろうと思う。この作品は必ずしもいじめがテーマではないけれど、大人(教師や親)からも、その存在を忘れられたかのように生きている少年の様子を描きながら、人に気づいてもらえないことや、ひとりぼっちになった経験は誰にでもあるんじゃないか、それについて話してみようよと提起している作品なのかもしれない。いつもながら、教訓的、道徳的なエンディングを持ってこずに、むしろなんともすっきりしない後味を残す方法で問題提起をするのが、こちらの作品らしいなと思う。


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