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体育が嫌いだったすべての人に、「あなたは悪くない」と伝えたくて本を書いた。

こんにちは、世界ゆるスポーツ協会の澤田智洋です。

これまで「イモムシラグビー」「ベビーバスケ」「トントンボイス相撲」など、90種類以上のスポーツを仲間たちとつくってきました。

と自分のことを紹介すると、「スポーツが好きなんですか?」「スポーツをやっていたんですか?」と質問されることがあります。

いえ。いいえ。

ぼく、世界で一番苦手なものがスポーツなんです。

なんでかというと、「体育」と全然気が合わなかったから。それはもう絶望的に…。

一糸乱れぬ整列や体操。鬼軍曹のような先生のいうことが絶対で、ミスをすればすぐに怒られる。ぼくのように足が遅くて、肩が弱くて、動きがくにゃりとしている男子からすると、単なる地獄です。一切のエラーが許されない、超無菌教育。ああ、いやだ。日本三大無くなってほしいものは、ハンコ・FAX・体育だ。

それでも、どうして今スポーツの仕事をしているか?実は息子がきっかけです。

彼は先天的に全盲で、軽度の知的障害もあります。で、彼がきっかけで、多くの障害当事者に会ったんです。関係者も含めると200人くらい。すると、福祉の世界に心を奪われました。もう、なんで今まで知らなかったんだろう!と悔しく思うぐらいに。

その理由のひとつが、「医療モデル」「社会モデル」という考えを知ったからです。

たとえば脳性まひで車いすの人がいたときに、「日常生活が大変なのは、あなたに原因がある。だからリハビリして、あなたを健常者化しましょう」というのが医療モデル。

一方で、「日常生活が大変なのは、社会に原因がある。だから段差をなくしたり、エレベーターを設置しましょう」というのが社会モデル。

これを知ったときに、ぼくは「あ!」と思ったんです。

体育が苦手なのは自分のせいだと思ってきたけど、ひょっとして、ひょっとしてだけど、これって体育の方が悪かったんじゃない!?衝撃的な発見でした。

そもそも体育の役割は、

①健康な身体をつくる 

②適度な運動により、前後の勉強に集中できるようにする

の2点だと、今ならわかります。だけど、ぼくが受けてきた体育は、運動が苦手な子の傷口に塩をぬる「スポーツ嫌い量産工場」のような場所でした。もう、益々ぼくが悪いんじゃなくて、体育が悪い気がしてきた。何考えてるんだ体育!

そこで、ものは試しにとスポーツの文献を読み漁って、スポーツ研究をはじめました。ホモ・サピエンスとスポーツ、産業革命とスポーツ、アメリカとスポーツ、政治とスポーツ、メディアとスポーツ…。

すると、スポーツの語源は「デポルターレ」ということがわかりました。これは、「港を離れる」という意味です。つまりスポーツとは、日常という港を一時的に離れる「息抜き」「気晴らし」なんです。では一体どうして、日本の体育はこんなハードコアコンテンツになってるの!?

すぐに原因がわかりました。

まずは明治初期のころ。近代スポーツが明治維新と共に日本に入ってきてから、学校でも「体操」の授業が加わりました。その中には「普通体操」に加えて「兵式体操」があったんですね。教師は軍人で、規律をもとめられ、私語はゆるさず…。

もうひとつは、1928年にはじまった「体育政策」。何かというと、体育を通じて、富国強兵を目指す政策なんです。このときから始まったソフトボール投げは、手榴弾を投げる訓練だったし、懸垂なんかも歩兵銃を撃つための訓練。震えがとまらない。

そう。もうおわかりですね。

「スポーツ+戦争=体育」なんです。

スポーツを輸入したタイミングで、世界規模の戦争が勃発したため、両者が切っては切り離せなくなってしまった。当時の日本にとっては必然かもしれないけど、日本のスポーツにとっては不幸としかいいようがありません。

で、この戦争体育が、ずるずると、なんとなく2020年まで引き継がれてしまっています。そりゃ、体育でスポーツを嫌いになる人多いですよね。

自分が悪いんじゃなくて、戦争で歪められた体育が悪かった。そうはっきりと確信したぼくは、仲間たちと2015年に「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げました。

ゆるスポーツとは、一言で言うと「だれもが笑いながら楽しめるスポーツ」です。運動が苦手でも、障害があっても大丈夫です。全然関係ありません。

ぼくらがしたことは、「ガチガチのスポーツ(体育)をゆるめる」ことです。スポーツは絶対的で不動なものではないとわかったからこそ、あの手この手でスポーツの凝りをとり、ほぐしていきました。スポーツが苦手な人の意見を尊重しながら、でもアスリートの方にとっても面白くなるよう、工夫に工夫を重ねました。

今ではイベントを開催すると、運動が苦手でも得意でも、ほぼ100%「楽しかった」とアンケートでお答えいただけるようになりました。特にスポーツが苦手な方からは「スポーツの印象が変わった」「スポーツを好きになった」と言う声を多くいただきます。

これまでゆるスポーツは10万人以上が体験しているのですが、そのうち半数は「スポーツをやらない人」「スポーツに苦手意識がある人」です。つまり、これまで5万人の「スポーツ嫌い」を、ある意味では「スポーツ好き」にしてきたのです。

そう。だから、綺麗事ではなく、あなたが体育を嫌いなのは、あなたのせいではなく、体育のせいだったのです。

それを証明したくて、ぼくは世界ゆるスポーツ協会の活動をつづけています。そして、「あなたは悪くない」ということを改めて伝えたくて、一冊の本を書きました。

9月30日、今日発売。「ガチガチの世界をゆるめる」という本です。

この本では、具体的にどうやってガチガチのスポーツをゆるめてきたかを、余すことなく話しています。また、体育に限らず、何か苦手なことがある、自分に自信がない、会社との相性が悪い、そもそも社会全体が居心地悪い、そんな思いをしている方に向けても書いています。大丈夫。それは、あなたのせいではない。ガチガチの世界のせいだ。そして、その世界は、絶対にゆるめられる。

体育が嫌いだったみなさま。一緒にスポーツを、世界をゆるめませんか?

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