気持ちを満たしてくれるさくらんぼのお菓子 〈菓子四季録 vol.13〉
「チェリーのフラン」という名前から受ける印象と、実物の味とのギャップが面白い。気持ちを満たしてくれるお菓子の話。
今月の菓子四季録で紹介する「チェリーのフラン」は、タルト生地にゆるめのカスタードクリームを詰めて焼かれるフランスで定番のお菓子「フラン」に、アメリカンチェリーを焼き込んだメニューだ。
少し話が脱線するが、さくらんぼって、本当に本当に可愛い果物だと思っている(真剣)。日本のさくらんぼも好きだし、アメリカンチェリーも好き。同じ「さくらんぼ」と言ってもキャラクターが全然違うのがまたよい。さくらんぼを見かける季節になると心が踊るし、言葉通り踊り出したくなってしまうくらい嬉しい。
まず、日本のさくらんぼ。つやぷるほっぺの赤ちゃんみたい。うるおい感と透明感が最強としか言えない。紅色の下にうっすら淡い黄色を含んでいるような色合いも愛らしすぎる。無垢の極み。日本のさくらんぼが出回ると、わたしは興奮してシャッターを切りまくるのでカメラロールがさくらんぼで溢れる。
一方のアメリカンチェリーは、もう少しお姉さんで、ちょっとおませなイメージ。そして結構、我が強い(わたしの勝手なイメージですので、解釈違いの方がいたらごめんなさい)。果汁の色の主張が強いし。
果物をざっくり分類すると、個人的には、さくらんぼと苺は同じ「キュート部門」に入る気がしている。でもアメリカンチェリーは、苺よりも尖っているイメージ。苺はどんな時も完璧な笑顔でファンサービスしてくれるアイドルだけど、アメリカンチェリーは気分が乗らない日は「気分が乗りません」感を存分に出してくると思う。
できないことは「できません!」って即答しそうなアメリカンチェリー。ちょっと困る時もあるけど、人間味があってそれもキュートかもしれない。
さて、チェリーのフランに話を戻して、実食の日。菓子四季録では菓子研究家の淳子先生がレシピを作っており、私は撮影当日まで試作品を見たり、食べたりすることがないため、ファーストコンタクトの日だ。
お皿にのせられたフラン。卵黄生地のやさしいクリーム色に、少しついた焦げ目の茶色、アメリカンチェリーのワインレッドのコントラストが美しい。
その直後のことである。
フォークを入れた瞬間、衝撃を受けた。
え?
ザッッッッックザクなのだが?
可愛いデザートだと思っていたら、土台が非常にかたくて、力強い。歯応えがありすぎてびっくり。
「さく」とか「サクサク」ではなく「ザクッッッッッッッッ」。つ、つよい…!
個人的分類でキュート部門に入るといったさくらんぼは、なんともパワーのあるお菓子になっていた。フォークで一口分をカットするときも、口にいれて噛むときも、ザクッザクッと音がする。「チェリーのフラン」という可愛らしい響きをした名前からの、想定外のギャップにきゅん。
この土台生地は、キッシュやパイに使われる生地の一種で「パート・ブリゼ」というらしい。ブリゼとはフランス語で「砕けた」「壊れた」という意味。水分が少なく、まさに名前の通り、砕けやすい生地なのだ。
もうひとつ意外だったのが、お菓子としての重厚感! カスタードと似た配合の中身を焼いているので、少しプリンに近い雰囲気を感じさせるフラン。見た目からは想像できなかったが、ずっしりとした重さがある(よい意味で)。たっぷりの生クリーム、4つも入った卵黄、そしてザックザクの土台によって予想外の体当たりをくらった。
オーブンで火が通ったアメリカンチェリーは程よく水分が抜け、生で食べるよりもさらに濃厚だった。ちょっぴりワインみたい。
美味しくてつい(それに記事を書くという大義名分があるために)食べすぎてしまい、このあとお腹が大変なことになった。見た目に反して、重量級のお菓子。甘いお菓子を食べたいという気持ちに、全力で応えてくれた。
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「甘さ控えめ」だったり「とろけるやわらかさ」だったり、マイルドで強すぎないものが好まれる傾向の現代。チェリーのフランは、忖度しない甘さと重さ、パワーのある食感で、スタンダードな流れの逆を行く。果実の水玉模様でお菓子らしい可愛らしさは忘れないところがまた魅力的。目にも口にもお腹にも、満足感をたっぷりくれた。
お菓子を思いっきり食べたい日にぴったりなチェリーのフラン。「食べたいものは食べたい!」、アメリカンチェリーみたいに自分の気持ちに素直になるのも、たまにはいいかも。スイーツを食べてるな~わたし、いま生きてるな~と思えるようなお菓子です。ぜひ、満たされてみてください。
チェリーのフラン
夏。さくらんぼの季節がやってきました。果物というものは季節感があるけれど、なかでもさくらんぼの季節感は青梅に並んで飛び抜けているような。まずそのままの状態で果実を味わった後は、フランにして楽しむのはいかがでしょう。オーブンで焼かれたアメリカンチェリーは味がさらに濃厚になり、まるでお酒のように凝縮された味わいです。ぜひお試しください。
材料
作り方
作り方(全文)
菓子研究家 福田淳子先生のレシピ解説はこちらです。レシピのこだわりや、作り方や材料のポイントが掲載されています。
まず注目してほしいのは、パートブリゼへの愛。記事の冒頭から勢いある「好き!」が全開です。パートブリゼについては、作り方のコツも1〜5までたっぷり解説されるので、お菓子作りをされる方はそちらもどうぞ。そしてタイトル「パリジェンヌに憧れて」のパリジェンヌ、実は具体的なイメージ人物(と映画)が存在するのです。一体誰なのか、チェックしてみてくださいね。
さくらんぼのお菓子の菓子四季録、おしまい。
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