よつばの。読書会20に参加したよ:さわだ 持込リスト兼長文グダグダ紹介文
今年も「よつばの。読書会」に参加してきました。
よつばの。読書会というのは
という趣旨で同人誌好きが集まり、お互いの机の上に「ぼくがかんがえたここさいきんのおもしろいどうじんしデッキ」を組み、相手の出方を伺いながら持ってる同人誌を勧めて、読んだ人がメロンブックや駿河屋で検索して購入まで進んだら勝ち点ゲット、というマウント合戦を行ってるわけではなく、面白い同人誌を持ち寄って楽しもうぜという楽しい読書会です。
僕はこの一年「コミティア魂」で証言させてもらったりして、コミティアについて色々なことを考えたり考えないでいつものように楽しんでいたので、そんな風に何度も読み直した本を紹介させていただきました。
紹介したい本をリスト形式で紹介文を置いておくのが形式なのですが、どの本をとても良かったし、持ち込んだ本は何度も読み返したりした個人的にすごく印象に残った大好きな本で、ちゃんと紹介しなくちゃなあと考えながら文章を書いてたら何故か自分語りになってしまって、こりゃいかんと思ったのですが、まあ今更取り繕っても同人誌って凄くパーソナルなもので、読んで面白い同人詩って結局なにか自分の経験が作中の表現に結びついて凄く印象に残る事になるのかなあと。
買った時の気持ち、読んだ時の気持ち、を本を使って自分語り始めちゃったなあと思ったので冊子のタイトルを「我田引水のコミティア」として、まとめて発表しました(1万時ぐらい・・・)。
一応せっかく1万字書いたので下記において置きます。
また面白い同人誌がいっぱいコミティアで読めるといいなあー
我田引水のコミティア
5月の恋の祭典
2023年はなんだか一年間コミティアのことばかり考えていた。
いや自分がコミティアに行くようになってから二十年経って、毎回コミティア出てるんだからかれこれ人生の半分とは言わないが、普通の人よりはコミティアについては色々と言いたくなるコミティアめんどくさいおじさんであるのは自分も周囲も認めるところではある。
去年、幸運なことに「コミティア魂」というコミティアの歴史を振り返るオフィシャルな書籍にインタビューという形で証言させてもらうという機会を得た。
もちろんインタビューを受けるなんて初めてなので緊張して、インタビュー受ける時間まで我慢できずに二時間も早くコミティア事務所に着いてしまい、コミティア事務局のインタビュー中に中村代表がコロナ禍は大変だったという話を横で聞きながら俺がここにいて良いのかなあ?という疑問がますます大きくなっていった。
インタビューが終わった後も、なんだかフワフワとした地に足が着かない感じ、そうなんでコミティアに出てるんだろう?という疑問に答えなんか出てこなかった。
楽しい、辛い、そんな事は当たり前で、感情の前になぜか自分はコミティアに参加するのが当たり前で、毎回なんでここに居るんだろう?という疑問を持っている。
インタビューで一区切り決着するのかなあと思ったが、そんな事もなくずっと悶々としている。
そんな事を考えながら気がついたら九月のコミティア144でとても気になったのはこの四冊。
① 一周回って、恋 夏と架橋 / こおる
② 神の右手 Canape. / 亜森
③ 卒業式 うぱらや / あらやかわい
④ 栄え滅ぶ話 灼 / 日々屋 蓮
夏と架橋さんの「一周回って、恋」は自己肯定感の低い女の子が品行方正で真面目な彼氏にはメイド喫茶かわいい格好をして働いてることを黙っていたのだが、バレてしまうことから話は始まる。
道で倒れてる人を助けようとする真面目な彼氏の前で「自分を偽る」事でお金を稼いでいる後ろめたさを感じながら付き合ってる姿がなんとも可愛らしいのだが、ヒロインはどこか苦悩とは違う、違和感みたいなものを感じて、メイド喫茶のバックヤードで、公園のベンチで悩んでいる。
そういう自己肯定ではなく何か後ろめたさみたいな物を丁寧に、そう述懐するヒロインの優しさ見たいな物が自分的に凄くツボに入って何度も読み返した。好きなのか嫌いなのか?自分の事が?彼氏が?と巡る思考の末にそれらが一周回って恋になっているところが最高だなあと。
Canape.さんの「神の右手」は神の手と呼ばれるハンドでワールドカップを手に入れたディエゴ・マラドーナとはいっさい関係ない、いわゆる絵が上手くて注目される神絵師と呼ばれる人の手を食べると同じ様に神絵師になれるという世界で、神絵師にあこがれる女の子が神絵師である女性の右腕を入に入れ、どうやって美味しくいただくかを悩みながら、料理して神の腕を食べ、血肉として神絵師になるという、話の筋はグロテクスなんだけど、絵の優しさと神絵師に憧れる少し影のある女の子と、腕を食べるという行動力のある女の子と、神絵師のお姉さんのキャラが立っていて読みやすく、なんだかあっけらかんとしながら話が淡々と進んでいくのが読んでいてとても気持ちが良かった。
うぱらやさんの「卒業式」は、紅白のおめでたい垂れ幕の前で、自身の遺影を持ち、神妙な面持ちで卒業式を迎える女子高生達の姿が「これでもか」っというくらい、熱量を持って描かれている力作で、卒業が女子高生という時間の死を意味する。卒業式とは葬式のようなもので、自身の女子高生としての価値が無くなる。高校生として運動したり勉強したり、何もしなかったりという「青春」が終わることへの哀愁をゾンビ映画のように体が維持できなくなって足が折れ、目から血を流し「死体」へと変わっていく姿に読みながら心奪われた。
生命力の塊みたいな女子高生がバラバラになっていく姿。色々な描き方があると思うが、うぱらやさんの描き方は「これでもか!」という感じで好きだった。この本を読んだ後ふとkindleで出版社からこの同人誌を下敷きにした「スーサイドエイジ」という単行本になっていてビックリした。
このスピード感も今っぽいなあと思った。
灼さんの「栄滅ぶ話」はネーム本だが完成度高くてとても面白いSF歴史物語。
圧倒的に美しく、色々な星々で支配者として宇宙を巡り新しい「花」を育てる種族と、戦う事が生きがいの土着の戦闘民族が遭遇するところから話が始まって、未開の星で「花を咲かせる」為に試行錯誤する内に惹かれ会うけど、それは運命づけられた滅びへの道でしかない。命を育てるということに色々な背景を重ねていてとても素敵な物語で何度も読み返した、ネーム本なのでまだまだ書き込まれて無い「余白」のようなものがあるのだけど、それがなんだかとっても想像力を掻き立てられて、何度も読み返してしまった。こういう荒削りなものがポンと置かれて、読めてしまうのもやっぱりコミティアの魅力だよなあと思った。
やっぱりコミティアはいつも新しい才能が何もないスペース(空間という意味か、サークルスペースという意味かは置いておいて)から生まれて来るなあと、何も生み出せない自分を恥じた5月のコミティアだった。
9月の5月病
次に迎えた九月のコミティアは「えっ九月?」という感じで、いつもは八月中にやってるのに九月に入ってからというのが何だか新しかった。
九月のコミティアで気になったのは以下の四冊。
⑤フラッシュ・ポイント 無職の俺ん家に義妹(JK) / 今井新
⑥ニューオーリンズで大農園見学ツアーに参加した時の話
YELLOW LIGHTHOUSE / うちむら
⑦まどめクレテックはっぴーらいふ めだちたがりのTK / まどめクレテック
⑧三崎、カレーを食べに行くよ りおり
無職の俺ん家に義妹(JK)さんの「フラッシュポイント」は、事前にツイッターか何かで気になっていたのですぐに手に入れにいった。232ページの超大作で、分厚さに驚くが、読み始めるとその疾走感にクラクラしながらもあっという間劇場の面白さ、キャラクター造形の独特感も素敵なら、取り扱ってるネタも当時のタイムリーな話題が散りばめられて、ポリティカルな内容になりつつも、それだけじゃなく筋が通ったお話で大変面白かった。なんかトーチとかで賞取りそうだなあと思ったら本当に取っていたので全てにおいて流石だと思った。
YELLOW LIGHTHOUSEさんの「ニューオーリンズで大農園見学ツアーに参加した時の話」もポリティカルな内容で凄く印象に残った。YELLOW LIGHTHOUSEさんはいつも単身海外旅行に行ったり、山口県KDDI維新ホール(凄い名前)で開催されたアルフィーのライブに行った話とか国内外問わず色々な旅行に行ったレポート漫画を描かれている方なのだが、今回の本はアメリカ南部ニューオーリンズに行った際に、奴隷解放宣言がされる前のプランテーション(大農園)で強制的に働かされた人達の記憶を後世に残すためにオリエンテーションで説明がある生々しい黒人奴隷制度とはどういうものだったかを知るツアーに参加したお話で、ニュースなどで聞くポリティカルコレクトネスの話題などでアメリカでは奴隷制の歴史を巡る色々な話を聞いていたが、昔の大きな農場の片隅に昔奴隷として働かされて死んでいった人の名前を刻み、それが如何に過酷だったかをツアーで体験してもらう催しがある事に不勉強な自分は驚いて、何度もこの本を読み返してしまった。本の最後に昔の過酷な歴史と連れて来られた黒人奴隷が広めた音楽によって街が踊り唄って豊かな文化を築いているという描写があって、良い悪いを超えた歴史の積み重ねに旅先で触れたことが丁寧に描かれていて何度も読み返した。
こういう差別があってそれが生々しく残る現地の空気と「人種差別だ!偏見だ!」というニュースが溢れてる世界で、実際に会ったことを現地で感じ取ること、それを伝えてもらってることはなんだか大事なことだなあと色々な見方ができてしまう問題に、向き合うことの大切さを「ニューオーリンズで大農園見学ツアーに参加した時の話」では教えてもらったような気がしたが、気負いすぎてるかもしれませんね。
めだちたがりのTKさんの「まどめクレテックはっぴーらいふ」は、トーチwebで「生活保護特区を出よ。」を連載しているまどめクレテックさんの半生、いや人生を振り返る自伝漫画なのですが、これがめちゃくちゃ面白かった。まどめクレテックさんの自身を振り返る際のすごく客観的な見方、自虐ではなく冷静に自分の至らないところ、周囲の助けを受けて自分が作品を作っていく意味、その難しさ楽しさを丁寧に描写してあってとても楽しかった。メチャクチャな「漫画家、創作者らしい」エキセントリックな行動が描かれてるわけではないのですが、ひとつひとつの語られるエピソードがやっぱり独特で面白かった。いや、公園で野宿する際に植え込みに身体を隠すと寝やすいというエピソードは十分エキセントリックか……な?
後日集大成のまとめ本も出ていてそちらも大変楽しく読ませて頂いたが、いつか手に入れた裏表紙に「まどめ」とだけ書かれたコピー本があって、まとめ本に入ってなかったので違う人だったか?いや、この独特な寂しさと救いの表現がまどめさんぽいなあとTweetしたらご本人から「原稿が損傷していて本に入れられませんでした」と返信頂き、「とても面白かったです」と感想を数年越しで言えたし「やった未収録コピー本持ってる俺の勝ちだ!」っと小躍りしたことについては凄く反省した。
「三崎、カレー食べに行くよ」は最初読んだ時は自分はボンクラなのであまりピンと来てなかったのだが、一回読み終わって「ああ緑の表紙って観葉植物だらけの部屋の意匠なのか」と気が付いて、もう一度読み直すとメチャクチャ面白かった。
大学に入って人見知りの主人公に出来た数少ない友達、その友達は母親と問題を抱えていたが、母親は大量の観葉植物を残して亡くなってしまう。
主人公は友達の観葉植物の手入れをしながらも、その歪な親子関係には口は挟まなかった。
やがて友達が大学に来なくなり、心配になって部屋を訪れると部屋一杯にあった観葉植物が鉢植えごと引っ繰り返されて部屋中が土に塗れていた。
あんなに大事に育てていたのに、大事に育てていたからこそその重みに耐えきれなくなって瓦解してしまった部屋を見て、主人公は疲れ切った友達をカレー屋に誘う。
多くを言わずに、カレーなんか、食べ物なんかを食べたくない友達の前で主人公は大きく口を開けてカレーを食べる。
それを見て友達もカレーを食べ始める。
目の前で食欲そそる美味しいカレーを大きな口を開けて食べている友達がいる。
主人公が大きく口を開けるコマの屈託のない姿、そこには全てオープンで着飾っていない無防備な姿を友達に晒している。友達だから目の前で大きな口を開けてカレーを手掴みのナンで食べている。
その二人の関係の素晴らしさに気が付くまでに何度も読み返さないと気が付かない自分のボンクラさに恥ずかしくなりながら何度も読み返した。
「三崎、カレー食べに行くよ」良いタイトルだなあと思った。
やっぱりコミティアはいつも新しい発見を自分に与えてくれるなあと、それでも何も成長しない自分を恥じた九月のコミティアだった。
12月の牡牛座ラプソディー
そこから2023年最後のコミティア、十二月のコミティアはちょっとソワソワしていた。
インタビューからずいぶんとたっていて、殆ど何を喋ったのか覚えておらず、ああ、何してたっけ?っとほぼ頭が空っぽになっていた。
そこに十二月開催という珍しいタイミングの(2023年のコミティアはヘンなスケジュールが多かった気がする)コミティアが開催され、ちょっとテンションがおかしくなっていた。
この十二月のコミティアではこの四冊がとても印象に残った。
⑨スターチスの花言葉 石洗い / 石
⑩花が要るひと 石洗い / 石
⑪鉄風 百分率 / tatamipi
⑫CAFE (de)KITA 6 CAFE DE KITA 出張店 / きたむらしゅう
石洗いさんの「スターチスの花言葉」「花が要るひと 」はどちらもとても印象に残って、何度も読み返した。それは手に入れるときにスペース前を通りかかった時に「あっ、良い本だな」と思って手に取ろうとすると、まだ来たばっかりで準備が整ってないので10分ぐらいしたら来てくださいと声を掛けて頂いたのでその場で分かりましたとと答えたけど、なんか良い本そうだから絶対手に入れたいなあと体感5分、実質3分ぐらいですぐにまたスペースに戻って来て手に入れたという自分らしい迷惑ムーブを思い出すのもあるが、やはり感みたいなものは当たるときは当たる物で凄く良い本だった。
「スターチスの花言葉」は田舎の女子校に転校してきた王子様の様な容姿の美少女に主人公が惹かれるのだが、どこか影のある王子様には亡くなった弟との秘密があって、それが完璧に見える彼女の影になっているが、主人公はそんな彼女に憧れつつ友達として接しているウチに卒業の別れを迎える青春劇なのだけど、その後何年も合ってないけど同窓会に来なかった王子様を帰りの電車のホームで見つけて、過去と大人に、母親になった自分たちが高校生だったときに感じた事を振り返る関係がとても印象的で良かった。
自分的にはこの時のコミティアで新刊だった「花が要るひと」の方が大好きかも知れない。こちらは仕事の出来る大人の女性とタイパ、コスパと何事にも余裕のない新入社員の男子のコンビが、仕事中にいつも余裕があって、誰からも好かれるヒロインが、唯一電車のホームに上がるときに大きな階段の前では立ち尽くし、駆け上がって早くホームに行かなければ行けない階段を避け、エレベーターで運ばれたいと弱みを見せる。
当然タイパ重視の男の子にはそんな事は意味が不明で、さっさと階段を駆け上って、発車ベルが鳴り止む前に電車に駆け込めば良いのにと思う。
ヒロインが仕事を止めて田舎に帰った後も、引き継ぎの仕事をこなしつつ忙しく仕事をこなす男の子にふと「引き継ぎの仕事が終わったら会いにおいでよ」と連絡が来ると、男の子はふと階段の前で弱みを見せたヒロインの面影を見て、急いで電車に乗り彼女に会いに行く。なぜ急ぐのか?なぜ会いに行くのか?そんな事は意味なんかなかったと、エンディングの優しい絵と共に読み終わった後でああ良い本だなあと余韻に浸れるところが最高だった。
あとこのときのコミティアでは百分率さんの「鉄風」CAFE DE KITA 出張店さんの「CAFE (de)KITA 6 」の二つのイラスト本がとても良かった。
百分率さんは知り合いの絵が上手いトッテナム・ホットスパーズサポの人がTwitterでリツイートしてたので気になってスペースに行った。「絵が上手い人が進める絵が上手い人は絵が上手い」という格言が自分の中であって自分のフォローしてる中でも頭抜けて絵が上手い秋空さわやか先生がリツイートしていたので気になっていたのが百分率さんで、素人目にはシンプルに見えるが、白い面に惹かれた黒い線が見事なシルエットを描きだして、可愛らしく素敵な女の子のキャラクターを描きだしていて、度肝を抜かれる。面の構成なのか、少ない線でこんなに素敵な絵を描けるなんて凄いなあと本を手にしながら魔法の様に感じる。
タイトルも物凄くシンプルで「鉄風」と硬派な名前が付いていて、鉄風といえば鋭くなってナンバーガールになるモノだと思っていたが、作者さんは若い方だったのでナンバーガールじゃないかもなあとスペースで聞くのも悪いなあとその場では黙っていたけど、後日Twitterで「鉄風といえばナンバーガールにきまっとるじゃろがい!」という感じの事をTweetされてたので危ない合ってたとか良く分からない安心感を得た。
CAFE DE KITA 出張店さんの「CAFE (de)KITA 6 」は百分率さんとは対極なんてのは素人意見で恥ずかしいのかも知れないけど、緻密なペン画でこれでもかという描き込みで、可愛らしいメイド服を着た女の子が沢山のアンティークな小物に囲まれた喫茶店でこちらを見て微笑んでいたり、澄まして座っていたりして、見る度にドキッとしてしまう。切り取られた表情が宗教画のイコンのように、後光を帯びていたりする神々しさがあって、とっても素敵な世界観にやられてしまい、後日おしゃれタウン(所沢比)高円寺で開かれてた個展もお邪魔して飾られた原画をマジマジと見てきて、その技巧の緻密さにすっかり魅了されて額縁の横にあった原画のお値段を見て「出せない金額」ではないのでうーんと悩んで結局買わず、帰り道「豊田徹也友の会」を読みながら「ゴーグル聖地巡礼」の地図を見ながら歩きながら「買っておけば良かったかなあ」と悩みつつ、同人誌とかちゃんと保管できずにコーヒーの染みとか平気で付けてる自分にちゃんとした源画を部屋に飾れないもんなあと言い訳しながら帰った。
言葉を並べたり連続するカットで動きを付ける漫画と一枚画で完成されたイラストの違いについて自分なんかにはよく分かってないとは思うが、どちらも面に線を引き意味を持たせる行為には変わらず、それが人に寄ってこんなにも違って個性が出てくるものかと改めてオドロキながら、やっぱりコミティアはいつも画の表現の豊かさを教えてくれる、それに比べていつもド下手な画しか表紙に描けない自分を恥じた12月のコミティアだった。
2月の雨をみくびるな
年が明けて二月のコミティアはいよいよ「コミティア魂」が会場で発売されて、たいしたことをやってないのに、妙に安心したような、逆に自分の発言が世の中に出るのだから大丈夫かしらと緊張もした。
当日会場で多くの人が「コミティア魂」を手に取って要るのを見て「僕もコメントしているんですよ!」って後ろから声掛けたら不審者だなあと思いながらも、いつものコミティアだなあと二月のコミティアを楽しみながら、三冊の本が印象に残った。
⑬岬と葵 緑の国 / kntk
⑭ 爆ぜろ!!ロボトム あのあとにひとつ / のと
⑮ 青年海外協力隊派遣前70日訓練って何するの?
SATORIP
緑の国さんの「岬と葵」は凄く優しくて面白い話だなあと何度も読み直した。不勉強ながら異性に恋愛感情を抱かない「クワロマンティック(quoiromantic)」という言葉があるのも初めて知った。そんな言葉を知らなくても、表紙の二人が恋愛とか強烈な感情をパートナーに持つことなく、大事な人だから手を繋ぐ、相手の事を大事にしたいから距離を取りたくなる。そんな繊細な感情描写がとても素敵で、そこにほんの少し、ちょっとだけSF風味で主人公が人の心が覗けるようになってから、雪が降りしきる静かな街で、聞こえて来る人の心の声に押しつぶされそうになりながら、それでとお互いを思いやる二人の関係が素敵だなあと。僕みたいに昭和に生まれて平成を過ぎて令和に引っ掛かってるだけの古い人間にはまだ性差であったり、多分意識しなくて女の子にはこうあってほしい、男の子にはこうあってほしいという「願望」があると思うのだが、この本を読んでいると何か新しい男女の関係というか、性差を超えたところにある友情、愛情、人のコミュニケーションの温かさが新しい視座で改めて提示されてるような気がして何度も読み直しました。
少し気負い過ぎてしまったかも知れないけど読みながら可愛らしい絵で綴られる二人の身長差のあるカップルの物語は素敵だなあと。
「爆ぜろ!ロボトム!」はかわいい女の子と少しだけ思考ロジックが飛んでる昭和風ロボットの二人がイチャイチャギスギスするギャグ漫画ですがそれが良い。好戦的なロボトムに注がれる女の子の冷ややかな視線が楽しい。この昭和の残滓みたいなロボトムと以下にも厄介事には関わりたくない、透明になりたい現代っ子の女の子の対比が秀逸で、何かと暑苦しいロボトムとそれを作った博士たち、彼らが思い込み激しく暴走する度に関わりたくないと冷ややかな目線を送る女の子がとても可愛い。
話も現代社会の複雑な世相を反映して、子供たちが面倒臭い水掛け論で揉めているのを非力に作られたロボトムが「暴力で解決するしかない」と子供達に襲いかかり、敵が生まれることによって揉めていた子供達が団結し、襲われてボロボロになるロボトムが「人が団結するには絶対悪が必要なんですよ・・・・・・」っと知ったような事を口にするのを見て、女の子が呆れるところとか最高に面白い。
本自体がピンク色の紙でやたら目立つし、最後力なき正義は抑止力を生まないなど現代国際社会の論点まで語れていてやたらめったら重いテーマを楽しいギャグに落としていて凄いなあと感心しました。
SATORIPさんの「青年海外協力隊派遣前70日訓練って何するの? 」は青年海外協力隊の事を全く知らない自分に、青年海外協力隊派とは?派遣前に70日訓練があるんだと教えてくれた素敵な本。SATORIPさんの前の本でインドネシアの旅行本があって、それが色々な冊子などが織り込まれた封筒に入っていて凝った装丁で素敵だなあと思ってたのだけど、この本はカレンダーみたいに捲りながら読む形で作られている。
70日間と決められた期間、青年海外協力隊として働くために合宿所に集まって訓練する様を振り返るように本がカレンダーみたいになってると、本の最後に書いてありそれまで全然気が付かなかった。
青年海外協力隊って名前は聞くけど何をやっているのか?そもそも協力隊として働くのに合宿して訓練してから海外に派遣されるなんて仕組み自体知らなかったので読みながらとても楽しかった。
こいう貴重な経験を漫画にして、20年間海外なんか行ったこと無くて、コミティアだけに通ってる自分が、まるで海外に行ったようにあの国がどうこうとか、海外旅行の知識を増やしてるなんて滑稽だなあと思いながら、コミティアで旅行本を読む度に小学校の教科書に書いてあった「三人の旅人たち」の話を思い出す。
東と西を繋ぐ線路の間の砂漠にある小さな駅に勤める三人の駅員が居て、一人目は東へ行き、大きな街の様子とても自慢げに話す、二人目は西へ行き、自分が見た山や海のそのとても美しい風景を大いに自慢する。三人目が二人の話を聞いて、東にも西にも行かず、砂漠の真ん中を旅する事にした。
この話の三人目みたいに、世界の色々な所へ行った人の話を砂漠の真ん中じゃないけど、似たようなコミティア会場で僕は色々な人の話を聞いて、どこかへ行ったような気になって満足している。
そんな事を20年繰り返していたらコミティアしか行けなくなってしまってるのではとふと思った。
コミティアに囚われてるのは自分だけなのかもなあと、コミティア魂のページを会場で読みながらふとそんな事を考えた二月のコミティアだった。
5月の悪い習慣
五月、また一年経って五月のコミティアを迎えた。
2月にコミティア魂が出て、特に誰からも「コミティア魂読みました!」って何か反応があったわけでもなかったので、もうこんな機会あんまりないのだから自分のスペースで「私が証言しました!」というポップを作って必死にアピールするなど、すごく痛い行動をしたりして、平常運転だった。
こうやって一年を振り返っても、自分がコミティアに参加を続けている理由は沢山の面白い本に出会えるからなのだろうなあと、自分にはそれこそ才能も無いけど、いや何か自分の作品で誰かの心に訴えるような何かメッセージを込める事が出来ないのだなあと、コミティアという場所で他人の見様見真似で本を作ってみて誰かに読んでもらえたら嬉しいというより、何かやってる感が好きなだけなのかもなあと。
いつの頃からか、作った本の感想とかもらうのが怖くなった。
いや本を作ってコミティアのスペースに置いて誰かに見てもらうのは最初から怖い。
ありがたいことに本を感想を貰う事は今まで何度もあって、その度に嬉しくてまた書こう、何か作ろうという気持ちになるけど、結局発表することの怖さみたいなものはずっと付き纏っている。
そんなもの、成功体験が無いだけかも知れないけど、十分自分は色々な人に感想や誤字脱字が多いとかキャラの名前を考えるときに一回検索した方が良いなど色々な指摘を貰ったりしながら、何か残そうとしているが、同じことを繰り返しているだけで進歩がない。
友達のあらゐさんなんかはコミティアでも商業出版でも作品を発表する事に関しては「右手を出して駄目なら左手を出せ、それで駄目なら両方出したり、足を出したり、土下座したり、とにかく違うことをするしかない!(意訳)」という感じで、絶えず人から見れば努力だけど、あらゐさん本人は「面白い」事をしているだけなので、ああいうふうに「作る」こと自体を楽しむというか煮詰められる姿にいつも感心する(そして煮込みすぎて原型を止めていないスープになっていたりするのが隠し味)。自分にはそういう「あがき」みたいなものが足りないのかなあとふとそんな、いつものように答えの出ない、濡れたままの靴下履いて彷徨っているような、後ろめたさを感じている時に5月のコミティアで素敵な本を手にした。
⑯アーリー・アフタヌーン veranda / louis
作者さんの自伝的な内容なのだが、仕事を抱えながらも「何か」のこそうと創作活動をする自分と、日々の仕事、家事や子供のこととかめまぐるしい日常の波に呑まれながらも、それでもなにかを残そうとペンを取り形にする姿が丁寧に描かれていた。
創作するとは、という自己言及的な追い込まれた気負いや、ただ好きだからやるという高揚感を通り越して、何か忘れてないかな、残しておいても良いかな?と自分の感じたことを大事にしながら、形に残そうとする姿に勝手ながら自分を重ねたりしながら読んで、ああ、そうかもなあ、そうありたいなあと感じさせてくれた。
作中で作者さんが「何か自分から伝えたいことは 今は特に無いです」というところから、創作を始めてたところも、ああ自分も特に書きたいことなんて無いなあ、次のコミティアどうしよう?って
悩むところからいつも始まってる気がするので、すごく共感した。
特に書きたい事なんてないのに、コミティアが迫ると何か形に残そうと手を動かして本を作る。
この行為に何の意味があるのかなんて、自分だけじゃ無くて色々な人も疑問に感じてることなのかも知れない。
けど動き続けていると、生きていると自分の心に「何か」が溜まって、それを本という形にする事が好きな人がコミティアに出て机を並べてる人なのかも知れない。
出来た結果が全てかもしれないけど、出来るまでの行為は全て自分が体験したことで、それが全てだから、こんなにもコミティアには、この世界には本が溢れている。。
納得がいかなくても、まだ出来る事があっても、本にすること、本にしなくても紙に画面に何かを残すというのは決して無駄なことではない。まあ決して効率的な行為ではないかもしれないけれど、大事なこと、大事にしたいことだよなあと感じさせてくれました。。
コミティア魂を書かれたばるぼらさんも本書の感想で
と書かれていて、なるほどなあと思った。
「アーリー・アフタヌーン」を読んで一年間自分が鬱々と考えてたことなんてみんな抱えてる問題だし、これからも抱え続けて、いつか諦める事かと思うと少し気持ちが楽になった気がしました。
後日、本の感想を書こうとコミティアWEBカタログからリンクを辿って作者のTweetを見たら「KIRINJIのポストカード配布しております・・・」っとお品書きに書いてあり、あっと思って識者に相談したところ。「やっぱり、あの伝説のKIRINJI同人誌作ってた人か〜」って急に昔の一〇年以上前の同人誌を引っ張り出してきてもう一度読み直してまた感動しました。
はは、やっぱりコミティアは楽しいなあ。
END
紹介しきれなかった面白同人誌は下の動画で紹介してます。
良かったら見てね。
(5月 コミティア144は うしさんの本手に入れ損なって拗ねてやらなかった)
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