おやすみなさい

繰り返し狂う肉の夜。弾ける皮膚の接着面から少しずつ焼け爛れていく夏は、やけに水っぽく、画面に貼り付く。まどろこっしいほどに粘っこい唾液を喉元に押し付け、押し退けて祓っても祓えない悪霊と金は一事が万事、鏡写。苦労を知らない手のひらは炎天に浸しても焼けず、ただ喉だけが渇く。このまま飲まず食わずでどこまでも歩けば、やがて倒れて野垂れ死ぬこともできるだろうが、俺はというと、ガキの小遣い程度のEdy残高をはたいてセブンイレブンでアイスの実を買って齧った。桃の甘味が鼻から抜けて、酷暑のド真ん中、赤道直下の街を平然と行く。疲れたらショッピングモールのフードコートで水を飲み、涼む。飽きたら外へ出て、それを繰り返しながら暇を玩ぶ休日。幸福でも不幸でもない日々を別段退屈にも思わず、それでいて満たされる気持ちもなく。努力もせず、口だけ先に夢を語る。時間は有限。一か八か命を賭けての大一番に出ようか、と喉まで出かかっても一眠りすれば全て水の泡。氷山の一角、大河の一滴。食う、寝る、シコる。暇を潰すように動画を見て、また夜。繰り返し狂うように肉に触れ、あまつさえ、自分自身の顛末を迎える。畏怖と憧憬。連日連夜続く流行病の感染者のニュース。累計感染者数、宿泊療養施設数、クラスター、検査、いつも同じようで、違う日。俺は途端にわからなくなる。77億分の1の俺の命が今ここに、一人でいるのに、誰も気づいていないことに。孤独を感じる、と言えば文学か、芸術か。
「今更俺は何者になれますか? 神様」
なんて
信仰してない神に縋って
忘れたい、逃げたい
どうしようもない
なすすべない
やりきれない
気を、紛らわせるように
垂れ流す平面の女の嬌声
それに反応する俺の陰茎
終わらせたい
何もかも
上下する手、心臓の音
意識する虚空に
放出された俺を
俺は、俺ごと
ティッシュで
拭き取る
おやすみなさい、も言わずに

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