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迎え待ち

社員通行口で迎えを待つ
外は雨。

ガラス窓のある金属製の引戸は
せわしなく、開いたり閉まったり
「さよなら」でも「バイバイ」でもない
いつからか、別れの言葉は「お疲れ様です」
角が立たぬよう、傷つけてしまわぬよう
曖昧な言葉で話そうとするたびに
透ける私の手や足の感触が、今は薄い
便利なものは私たちを私から一番遠いものにする
雨の滴がはねて、光が散らばる
綺麗なものほど廃れるのが早いこの星では
生きることさえ簡単すぎてしまう
迎えは、まだ来ない。

タイムラインでは各々が
それぞれの生活を吐露していて
気持ち悪いのに心地よい
文字列を視線でなぞる
凄惨な事件があったらしい
ここから遠く離れた土地で
若い親子が亡くなったという
この国ではよくある話だけど
ずっと前から絡まっている糸は
一向にほどけないまま
仕事用のカバンの中に入れっぱなし
このままではダメだ、と
いつもいつでも思っているはずなのに
迎えは、まだ

雨は強くなるわけでも
かと言って弱まるわけでもなく
夜を冷やして、私を静かに脅かしていく
走光性とは限りなく孤独を麻痺させる働きであり
なによりも孤独を加速させる自傷癖の類だ
社員通行口から漏れるLED電灯の光が
今は嬉しいくらいにあたたかい。

外は雨
迎えは、まだ来ない。


#91日目 #詩 #自由詩 #現代詩 #ポエム #note文芸部 #100日詩チャレンジ

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