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拝啓、元澤一樹へ

大学時代。つまり22歳くらいまで、明確に。一人でいると、もう一人の自分が話しかけてくることがあった。そいつは、風呂から上がって体を拭いているときによく現れた。話す内容は基本的に「今日のお前のあの言動はよくなかった」「お前はあの時ああ考えたが、よく深掘りしてみろ」みたいな、注意や指摘が多かった。そいつは、僕より頭が良いように感じた。頭が良いというより、思慮深く、客観視できている気がした(そもそも、俺を客観しているからできてて当たり前なのかもしれないが)。なにより、話が常に理にかなっていて、話上手で、魅力的に見えた。そいつとの対話をしている時は、他のものや音が聞こえなくなり、世界が二人だけになる。独り言に近い気がする。声には出さないものの気がついたら無言で、見えないもう一人の自分と対話をしている状態。そして、ふと我に帰ると途端に消えて、いなくなる。俺は裸の脱衣所で一人、乾いた体を拭いている。そんなことが多かった。今思い出せば、イマジナリーフレンドのような存在だったのかもしれない。恋人ができて、就職して、同棲を初めて、多忙な暮らしのその中で、そいつとの対話は少しずつ失くなっていって、今ではもう丸2年くらい話をしていない。そいつは、俺の知らないいろんなことを教えてくれたし、思いがけないヒントをくれた。紛うことなき友人であり、恩師だった。できるなら、また会いたい。令和2年も終わろうとしていると言うのに、LINEもメールも、電話も、手紙すら届かない場所で暮らしてるそいつに、送るはずだった言葉をここに遺す

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