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夏、鬼狂い

狂わせて、夏。エアコンも扇風機もつけずに締め切った部屋で一人絵を描くからテレビはずっとNHK。ひっきりなしに最新のニュースが鼓膜を揺らして脳を通過しつづける。その間もずっと振り下ろされる絵筆、グリーンや紫の胎動を重ねて、輪郭線の解けた景色、人。その叙情を掘り下げて問い詰めた先は真っ暗な洞穴。暗闇。進んだ先で背中に当たる冷たい感触。突きつけられたナイフはあまりにも黒く、透明な殺意そのものだった。滝のように滴り落ちる汗が気化して、カーテンから漏れた光が辺りを充満して青く、息を続けるほどに武者震い、痙攣。吐き気がないだけまだマシ。定期的に訪れる頭痛腹痛とは悪友。手を繋いで鼻歌口ずさみスキップ。粘り気のある声は、枕の下から低く重く響く。終始何を言っているのかわからないが、罵倒語だということを口調から推測する。レモンケーキの味、口の中に残って、夏は自暴自棄になる。ともすれば自殺願望へと転ずる。人と人との触れ合いはプラスチック、文字列の成すがまま傷つき、傷つけあいながら「雨だ」傘も持たずにどこへ行けばいい。いったいこの狭い無言の島国のどこに逃げ場所なんてある? スカイブルーと赫色、明け方にはいつも同じような夢ばかり見る。幻、ライトホワイト。僕の目に映る景色をきみにも見せてあげたいから。ブラッドオレンジ、サーモンピンク。ささやかなシルバー。筆に付けて叩きつけて、ラメ! 普遍的な言葉を並べて威張る権威がうるさくて閉じこもった家賃4万半の安アパート1階角部屋。陽当たり良好センシティブ情報。コピペで単純、レトルト・コミュニーケーションは退屈。真夏の海に振り落ちる火球とそのスピード、落下地点。想像。「完成したら見せてね」思い出したくもないことばかり思い出してしまう類の自傷行為、欠陥品。竜頭蛇尾的目標や夢を望んで伸ばす手が掴む空虚、青い青い空に走らせる黒! 歪なゴールド! 妄想現像サニーデイ焼増して量産、白飛ンでボヤけた輪郭、ブレた足が踏みつける影、それこそが僕であるために描く呪いのような宿命。ズタズタのプライドは空元気振り乱す髪を掻き毟り歯軋り、飛ばす唾も画布を汚せば金泥と呼ぼう。爪の間、垢が溜まり黒色の粘土。潰れたニキビから溢れる血と膿。量産して白を汚す常夏。蒸し風呂砂漠、ワンルーム流刑地、熱中症予備軍。自分で自分に罰を与えて追い詰めて殺せ! 書き殴る絵に名前はないが、貯まればそれは意味を成す。いつかの自分を振り返った時に笑い話になるような苦渋を口いっぱい溜め込み、飲み込むセルフ・ザー飲。吐き気がするぜ。きみもそうだろう。だけど、僕はいつかきみを超える。きみもそうだろう。もう気づいてるんだろう。もう、きみはいないこと。そう、僕がきみを証明している。振るう腕、殴る手。何度でも泣くまで。狂う目、充血、眠らない。死ぬまで続ける暇つぶし穀潰し煉獄、ここがユートピア。誰が為に鳴らす鐘の音を聴くのは僕だけで良いと言って悪いか。去年のカレンダーは3月で止まって、流しの水垢を夜な夜な舐めにくるゴキブリが友人。黙り込む空気、溜まる遺伝子、羅列する言の葉もはや詩にもならないペインティング! 発狂せずとも作品は描ける。描けば形になる。終わらせるために始め続ける。鬼と呼んで差し支えない夏の墓場が今ここに。生まれつく子等と宴の毎夜今宵も


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