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金木犀と母とムチ子。

秋って良いよね。
誰かが言ってた。
「四季が二季になるらしいね」って。

え、春と秋残してよね?ってその時、本気で思った。
きっと気候的に考えると、残るのは夏と冬なんだろうけど。
私は秋が1番好きなの。
だって金木犀が咲くから。
香りが好きで、練り香水やらハンドクリーム、芳香剤…金木犀を選んでしまう。
でもやっぱり自然の中で咲いてる金木犀の香りが好きだ。
私が中学生くらいの時かな。
いつものように学校から帰って来て、部屋に入ると、ふんわり金木犀の香りがした。
テーブルの上を見るとオレンジ色の花が咲いている金木犀が、花瓶にさしてあった。
小さい頃から金木犀の香りが大好きだった私に、母からのプレゼントだった。
実家の裏庭には、大きな金木犀があって、母が枝を少し切り落として、花瓶に入れてくれていたのだ。日頃から怠け者の私が珍しく花瓶の前で宿題を始めたので、母は凄く喜んで、枯れそうになると新しい枝をさしてくれた。
ある日、ふと金木犀の花瓶の下を見ると、緑がかった茶色の1センチ位の丸を見付けた。
その時は、花が枯れて落ちてきてると思ってティッシュでササッとゴミ箱へ。
次の日見ると、1センチ位の粒が少し大きくなっていることに気付く。
私はそれでもまだ不審に思わず、ただの枯れた花だと思っていた。
その夜、金木犀の花瓶の前で何かをしていた時、私の目の前にポトっと何かが落ちてきた。
私はそれを拾い上げる。
虫が好きならすぐ気付くはずだった。
それは紛れもない、なにかの💩
私はそれを摘んだまま(放せ!笑)、金木犀の花を見つめた…
私が見つめた先、15センチ先程に、巨大な茶色のイモムシを見付けた。
「おぉ…」
流石にビックリした。
体長は約12cm。
太さはだいたい1.5cm程の丸々太った芋虫。
もむもむと動いている。
もむもむと葉っぱを食べている。

さぁ、通常の中学生位の女子なら「きゃーーーーーーっ!!!!」と声を上げるだろう。

しかし私は昔から無類の虫好き女子であったため、「きゃーーーー!」の替りに、「おおおおぉ…」。
そしてまじまじと見つめる。
私は何日こいつと一緒に居たんだ。
私が眠りについた頃、きっとこいつは何も変わらない様子で「もむもむもむもむ」と葉を食べて、ここまで立派に大きくなったに違いない。
私は花瓶ごとそっと持ち上げて、母の部屋へ行く。
そしておもむろに母に「ん!」と見せる。
まるでカンタがサツキに傘を渡す時のように。(トトロ観てない方居たらごめんね)
だが母の目には見えていない。
「何?明日新しいのに替える?」と私に尋ねる母。
いや、ホントに素敵な母だよね。
でもそうでは無い。
「ここ見て」と私はもむもむを指さす。
「…………。!!!!!!!!」
見付けた瞬間、声にならないまま母がめちゃくちゃ早い動きで後ずさり。
「とりあえず、この子今日1晩は私と過ごすね。」と言い残し自分の部屋へ。
次の朝、母に「金木犀替えないで!」と言い残し学校へ。
「ムチ子」と名付けた芋虫は、私が学校へ行ってる間、きっともむもむもむもむと葉っぱを食べていただろう。
学校へ行っても、「ムチ子、元気かな。食べる葉っぱ無くなってないかな。」と、私の頭の中はムチ子でいっぱいだった。
合唱部をサボり急いで家へ帰ると、母が金木犀の花瓶の前にいた。
「…お母さん何してるの?」
と尋ねる私に、「見てたら可愛くなってきた。新しい葉っぱ増やしておいたよ!」という母。
なんて良い母なんだろ。
でも私も母も、ムチ子と一緒にずっと居られないのは解っている。
私は母と一緒に、裏庭へ行き、花瓶をそっと金木犀の葉に近づける。
ムチ子は「うわぁ!新しい葉っぱだ!」と思ったかどうか定かでは無いが、丸々むちむちな身体を器用に動かし、花瓶の小さな枝から、大きな大きな気の葉っぱへ移っていった。
お引越し…ではなく、私と母はムチ子を誘拐してしまったんだな。
連れ去ってしまったんだな。
「ムチ子ばいばい!大きくなってね。」と呟く私を見守る母。
秋になると良くこの話を母とする。
「さわが可愛がっていたから言えなかったけど、大きくて気持ち悪かったよ」と。

そんなこと言ってる母だけど、1人で散歩に行って、木の枝とか道端でイモムシを見付けると必ず写真を撮って私に送ってくる。
「さわのイモムシより可愛いね」と。

金木犀の花が咲く季節は、この話を母として、キャッキャと笑い合う。
だから秋が好きだ。
二季になってもいい。
秋を残してくれれば。
ずっとずっとおばあちゃんになっても、母と笑い合いたいから。



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