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お気に入りの評論――村上陽一郎「科学と世界観」②(2014年1月30日)

 先に私はメルマガを発行していたことをお知らせしましたが、廃刊にしたメルマガの中で、もう一度みなさんにも読んでほしいと思う情報をウェブリブログにて再録していました。
 教科書に採用されていた評論の解説もそのひとつでした。しかしながら、それらの閲覧数が他の記事をはるかに上回っていることが大変気になり、いくつか思い当たることがありました。

 noteにもそうした危険のある記事を収録するか、収録するにしても有料にしてしまうかで悩みましたが、結局そのまま掲載することに決めました。学校での宿題のためにこのページにたどりついた方は、どうか上で紹介した記事も合わせてお読みください。よろしくお願い申し上げます。

 本記事に関しましては、これまでメルマガのみで公開しており、旧ブログでも未収録です。

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 発行人は古典が専攻ではありますが、評論についても古典と同じくらい(自分で読むのも、教えるのも)好きです。そこで、これまで扱ってきた評論の中で、気に入った作品を紹介し、考察してみたい――という考えがきっかけで始めたコーナーです。

 前回から、村上陽一郎氏の「科学と世界観」を分析していますが、読解のためにとった実践なども紹介していきます。

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 「科学と世界観」には、内容に沿って六つの小見出しが付けられています。

 「壮大なプログラム」
 「救済史観の変遷」
 「世界観としての位置」
 「南北の食い違い」
 「自然の流れの中に」
 「二つの力の緊張関係」

 評論を扱う時はいつも、初読の際に「一文要約」と称した作業プリントを配布します。それぞれの段落の内容を一文で要約するか、それが困難に感じる者については、一番重要な一文を抜き出させるという作業です。

 「科学と世界観」は、各段落に小見出しがついているため、以下のような問いを六つ立て、プリントにして配布しました。

問一 第一段落の小見出しは「壮大なプログラム」となっているがそれはどういうことか。第一段落中より、それが最もよくわかる一文を抜き出しなさい。

 評論の苦手な生徒に対してダメを出し続ければ、その生徒はますます評論、ひいては国語を嫌いになってしまいます。一文を抜き出す形で解答した生徒の答えは、大きく外れた場合は仕方がないのですが(とはいえ、抜き出しの場合にはそれも少ないです)、ある程度幅を持たせてOKを出すようにしています。抜き出しで解答する生徒は国語があまり得意ではないわけですから、ハードルを落とすことで、少し自信が持たせられるようにもなります(要約で答えてくる生徒は、ある程度自信があるので要約で解答するわけで、大きく外れることはあまりありません)。

 さて、第一段落で重要なのは、形式段落の最終段です。

 近代科学が十七世紀にヨーロッパに興ったとき、それは、単に人間の好奇心を満足させるような知的営為として生まれたのではなく、そこで得られた知識を、いかに自然の支配と統御に用いるかという壮大な全体的技術のプログラムを可能性として含んでいた。

 小見出しの「壮大なプログラム」とは、「そこで得られた知識を、いかに自然の支配と統御に用いるかという壮大な全体的技術のプログラム」という部分の読み替えだとわかれば、この一文に注目することはできるでしょう。さらに「そこで得られた」の「そこ」が「近代科学」に置き換えられれば、第一段落の焦点は定まってきます。

 それをきっかけにして、最終段の直前の段落で出現していた「全体的な文脈」=「全体的技術のプログラム」とは、科学と結びついた「進歩」とか「歴史」とかの考え方のことだなと、漠然と見えてきます。それは、「改良」されて展開する「個別的な技術」(全体的←→個別的)としての科学とは全く異なる次元の話だというのも見えてくるのです。

 生徒が初読で作業した、第一段落の内容の要約、重要な一文の抜き出しを手がかりとして、段落全体の構造を板書した後は、復習として以下のような問いを与えて、確認をさせます(次の授業の開始時ということも多かったです。それだとその日の授業の導入にもなります)。

問一 第一段落において、「改良」と「進歩」の用いられる局面は異なっている。それぞれどのような局面で用いられるのか、本文中よりそれぞれ六字で抜き出しなさい。

問二 第一段落において、小見出しの「壮大なプログラム」とはどのようなことを意味しているのかを答えなさい。 ※「壮大」と「プログラム」の辞書的な意味を答えないように!

 村上氏の文章は、科学とおもいきや哲学だし難しそう…と思うと腰が引けてしまいますが、構成は極めて論理的だと私は感じています(一方で、文末表現がややまわりくどいのですが…)。ですから、発問や作業・課題のプリントをどのようにすれば読解を助けられるか、難解でも読めた!という自信を与えられるか、その工夫のしがいはあります。

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 これまでとは少し異なる展開で進めておりますが、第二段落以降も読解に即した発問や課題と知った実践を示していけたらと思います。

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