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第82回 国語教育全国大会を研究要項で自学する➅(2022年1月6日)

 毎年参加している日本国語教育学会の夏の全国大会ですが、昨年は仕事の都合で参加できませんでした。
 残念に思っていたところ、毎年一緒に参加している友人が、研究要項を貸してくれました。公開授業やワークショップはもちろんその場にいないとなりませんが、基調提案とそれを受けてどのような実践報告等がなされているかを分析することはできると思いました。
 そこで、今回からしばらく、大会の研究要項を自分で読んでいきたいと思って始めた連載の第6回目、最終回です。第1回目から第5回目は以下をクリックしてご覧下さい。

 最終回の今回は、大会研究要項より昨年度大会で気になった5つの項目をあげ、特に気になった実践報告やワークショップをそれぞれひとつあげてみたいと思います。

①語彙指導
・豊かな語彙を育てる授業づくり(小・中) NHK放送研修センター日本語センター・加藤昌男先生

 子どもたちの言葉を豊かにするために、教員自身の語彙を増やし、「場面」と「相手」によって使い分けるレッスンをするワークショップ。講師の先生の肩書が小中校の教員でないことにも新鮮な驚きがありました。
 ワークショップの内容は、(1)多様な「言い回し」を身につける、(2)新聞のコラムを読んで新たな語彙を獲得する、の二部構成。
 教師自身が、語彙を確実に増やし、豊かにする日頃のトレーニング法の提案と実践ととらえました。
 子どもたちのことを言う前に、教える立場の側にも不足しているもの、できて当たり前という思い込みといったものがないかということについて考えさせられます。
〔参考図書〕加藤昌男『先生のためのことばセミナー/子どもをとりまく〈最新ことば事情〉』(学事出版)

②対話や伝え合い、語り
・ストーリーマンガを活用した「対話」の授業―パブリック・スピーキングへの拡大を目指して―(高等学校) 金沢星稜大女子短期大・山田範子先生

 これまで「話すこと」の視点のみでとらえられがちであったパブリック・スピーキングの本来の目的である「伝え合い」がなされるために、話し手と聞き手が「対話」を意識し、「聞くこと」の面の能力向上を目指す授業実践報告。
 「対話」「伝え合い」であれば、「聞くこと」が「話すこと」同様に(いや、これまで軽視されてきたという点では、今後は「話すこと」以上にかもしれません……)扱う必要があるという考えには同感です。
 ストーリーマンガをとりあげるのは、対話者同士が話したい話題が持てること、文章による細かな説明がないマンガの「作者のメッセージが読み取れるところ」を想像し、言葉で理解・表現することで、学習者の「言葉により見方・考え方」を働かせることができるからとしています。
 補足になりますが、言語表現ではない教材を用いて学習者から「言語」を引き出すのは時期学習指導要領で推奨されているため、「メディア(写真、広告、動画)を活用した国語の単元づくり」(兵庫教育大・羽田潤先生)といったワークショップも掲載されていました。

③ICTの利用
・~今まで培ってきた国語単元学習を活かす~「ICTを利用した国語科の授業づくり」主体的な学び手が躍動する国語単元学習を作ろう 〔東京〕淑徳高・安居直樹先生

 学習支援ソフト「ロイロノート」を使って、実際にタブレットを動かしながらグループ学習を行うという模擬授業。
 私はロイロノートを積極的に授業で用いていますが(このブログでも実践について記そうと思いそのままになっています……)、かなりWi-Fiの環境が整っている現勤務校でも何クラスもが一斉にロイロノートを使用すると動作が遅くなるといった事態は起きています。ましてや、ICTは導入したばかりという学校で環境も不十分というのであれば、先生方が使用してみたいと思っても難しいかもしれないと思いました(このワークショップの説明の最後にも「コミュニケーションを取りながら楽しく授業にご参加ください」ともあり、まずは学習者としての体験をする目的があったようです。要項を貸してくれた友人もこのワークショップに参加した形跡があるので、初めて使用したのではないか思います)。
 「コンピュータとともに成長しスマートフォンを日常的に使用している子供たちに、情報活用能力、いわゆる情報における力―思考力、判断力、表現力―を国語の授業という限られた空間でどう捕らえ、それらをどう伸ばしていくのか、いけるのかというのは、子供たちや教師個々の情報スキル環境が多様であることも相まって、判然としていないのが実情である」と要項の説明文の前半にあるとおりで、教員の側が変化の中でそれぞれの学校や学習者の状況に応じて授業を形作っていきながら整備するというのが事実なのかもしれません。

④国語科なのか……?
・児童が熱中する「実の場」の設定~地域のパン屋と共創する学び~(小学校) 大阪教育大附属平野小・笠原冬星先生

 単元目標「地域のパン屋で、オリジナルパンを売ろう!」という授業の実践報告。
 学校の近所の人気のパン屋さんでは「物語の題名」がパンの名前がつけられており、その「地域のパン屋」を軸として、新製品の名前にちなんだ物語を創作するのに始まり、パン屋の紹介、パンの作り方の説明文といった言語活動を児童が主体性を持って取り組んだとあります。
 他にも「川との付き合い方を考えよう―様々な情報から整理し、明確な考えをもつ指導―」(〔愛知〕中島小・垣見里紗先生)といった実践報告もありました。
 「国語科なのか……?」という小見出しは皮肉というのではなく、私のような40代の教員からすれば、社会科や理科での取り組みではないかという活動に対しても「言葉」がどうかかわっているのかを、授業づくりで常に念頭においていかねばならない時代であるということを驚きを持って伝えたいと思いました。
 これらの実践報告は「共有から共創へ・協同の学び」「考えを形成・深化する」というテーマで「校種別分科会」に分類されていたことも注目に値します。

 今回感じたのは、現場が長い教員についてはこれまでのやり方に固執しない柔軟さや変化への対応力が求められ、一方、彼ら自身もデジタルネイティブである新任や若手の教員は、デジタル化前の先輩の先生方の授業における工夫や智恵を継承すし、かつ、語彙をはじめとする国語を指導する上での基礎・基本を教員としての立場で貪欲に学び続ける、(これはベテランもそうであるのですが……)姿勢が求められているということではないかと感じました。

 6回にわたって連載してきた「第82回 国語教育全国大会を研究要項で自学する」でしたが、これにて筆を置きたいと思います。先の問いの答えは、これからもこのブログの中で問い続けます。


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