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友達株式会社

友達を買いました。

1時間、2万円で。

とてもいい人で、会った当初から驚くほど気が合いました。よく飲みに行き、週末は映画を観に行ったり、旅行なんかも一緒に行ったりしました。もちろんそれが彼にとっては商売だということはわかっています。おそらく彼は一級の役者、それが仕事だから僕に合わせているのです。それでも僕は友達としての彼を購入し続けました。どんな形にせよ、彼と楽しい時間を過ごせれば、それでよかったのです。そこに金銭が介在していようが、僕は構いませんでした。恥ずかしながら、趣味もなく彼女もいたことがない僕の自慢は唯一貯金だけでした。やっとそれを有意義に使えると、僕は全財産を使っても惜しくないくらいでした。

しかし、ある日、涙ぐんで彼が言うのです。本当に僕との友情が芽生え、もはや商売として会うのが辛いと。仕事ではなく金銭のやり取りなしに会えればどれだけ素晴らしいかと。僕達は、毎日のように会い、週末は必ずどこかに出掛けていました。

その告白が、どれほど嬉しかったか。こんなことはこれまで一度だってありませんでした。僕はみんなから、気持ち悪いと、あっち行けと、嫌われながらこれまで生きてきたのです。だったらそうしよう、是非ともこれからは普通の友達として仲良くしようと僕も涙ながらに彼に訴えました。

でもそれはできないのです。仕事以外で彼と会うことは厳重に禁じられているからです。それが契約だからです。もしそれをすれば彼はその仕事を辞めなければなりません。さすがにそこまでは僕にはできませんでした。僕はお金ならいくらでも出す、貯金はまだまだある、だったら仕事として会おうと食い下がりましたが、彼は断固としてそれを拒否するのです。

このとき僕は気付きました。彼は仕事ではなく本当に僕のことを思っているんだと。僕は黙って頷きました。そうして僕は本当の、ニ度と会えない友達を手に入れたのです。

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