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BtoB SaaSのオンボーディングがハイタッチになってしまう6つの理由

「ハイタッチのオンボーディングはもう限界なのでテックタッチが必要!」という話題は、多くのカスタマーサクセスチームにおいて共通の課題で、「◯◯社では✕✕をテックタッチ化した!」といった事例もCS Hackにおいて多く共有されてきたところかと思います。

しかし、すべてのハイタッチ・オンボーディングは等しくテックタッチ化への道を歩めるのかというとそうでもないのが現実だと思います。実際には、ハイタッチが求められている根本的な理由自体が非常に多様であり、その理由に応じて「何をテックタッチ化できるのか」も変わってくるのかと思います。

今回は、私が様々なカスタマーサクセスチームの方にインタビューをさせていただいた中で分かった「BtoB SaaSのオンボーディングにハイタッチが必要になる理由」について、いくつかのパターンに分類して整理してみたいと思います。

1.SMB向けSaaSの場合

大企業は新たな製品の導入を組織的な意思決定に基づいて行うのに対して、SMBの場合は「社長が他社の経営者から紹介されて…」「部長がCMを見て…」といった属人的な意思決定から導入が進むケースも多く、顧客内の決裁者と現場担当者の間で認識が一致していないケースが頻繁にあります。

その結果、契約が済んでいるにも関わらず「社長の導入意図と現場の状況が擦り合っていない」「決裁した部長はやる気だが、現場担当者は全く前向きでない」といったオンボーディングを不安定化させる状況に陥りがちです。

ハイタッチの理由:現場担当者を動機づけ、進捗を促す

こうした不安定な状況に対処するため、カスタマーサクセスは、顧客側の担当者を動機づけ、進捗を促し続け、必要ならば顧客社内に推進力となる別のキーマンを見つける、といった泥臭い動きが求められます。ハイタッチの活動がなければオンボーディングの完了が難しい状況に直面しやすいのが顧客側の体制が不安定なSMBの特徴です。

テックタッチの事例:対応すべき顧客の優先順位付けと自動リマインド

SMB向けのSaaSの場合、同時に多数の顧客のオンボーディングを支援することになる場合が多いため、常に多数の顧客との接点をアップデートし続ける必要が生じます。これを効率化する方法として、例えば、オンボーディングをいくつかのフェーズに分けて管理し、各フェーズにおいて一定日数が経過した場合に顧客に対して状況確認のメールを自動発信する仕組みを構築することによって、取りこぼしが減り、多数の顧客にアテンションを貼り続ける工数を減らすことができます。

2.超エンタープライズ向けSaaSの場合

規模の大きなエンタープライズ企業における課題を解決しようとしているプロダクトの場合、オンボーディングにおいても複数部署に影響がある業務プロセスを調整し、情報システム部門が要求するセキュリティを満たし、経営層の複雑な決裁を行うなど顧客社内の多数の利害関係者とのコミュニケーションが必要になります。

ハイタッチの理由:顧客社内の多数のステークホルダーを巻き込み、推進力に変える

顧客の担当者を中心として、顧客社内の様々なステークホルダーに対して適切な情報提供や動機づけを行いオンボーディングをスムーズに進捗させるためには、顧客内の要件やルール、要望に応じた対応をきめ細かく行うハイタッチの活動が必要になります。

テックタッチの事例:オンボーディング・タスクの進捗を共有するチェックリスト

エンタープライズ企業におけるオンボーディングにおいては「社内のいろいろな人が様々なタスクを完了させる」ことが求められる場合が多くなります。こうした状況において現状を可視化し、カスタマーサクセスが顧客の滞っているタスクの進捗を支援するためにプロダクト内にチェックリストを設けることで、常に「誰が何をしなければならないのか?」を認識することが容易になり、複雑なオンボーディング完了までの長い道のりに迷いがなくなります。

3.ノン・デスクワーカー向けSaaSの場合

病院、不動産、教育、建設の業務をDX化するようなノン・デスクワーカー向けのSaaSプロダクトが増えてきたことで、「顧客がPCでの作業に慣れていない」といった状況も珍しくなくなってきています。

こうしたノン・デスクワーカー向けSaaSのオンボーディングにおいてはカスタマーサクセスは「顧客が慣れ親しんだ既存の業務プロセスにSaaSを取り入れてもらう必要がある」だけでなく、「そもそも不慣れなPCやタブレットでの作業を多数行ってもらう必要がある」という大きなハードルに直面します。

ハイタッチの理由:不慣れなPC作業に寄り添い、成長を支援する

ノン・デスクワーカー向けSaaSのオンボーディングは顧客の導入担当者にとって「難しい」「慣れない」「後回しにしたい」といった状況になりがちです。そのためカスタマーサクセスは顧客の気持ちに寄り添い、時としてパソコン教室的な手引きさえ惜しまないような関わり方をすることがオンボーディング完了のために必要となる場合もあります。

テックタッチの事例:操作説明の繰り返しを軽減する動画マニュアルやプロダクトツアー

ノン・デスクワーカー向けSaaSのオンボーディングにおいては、PC作業やSaaSに不慣れな顧客に対して繰り返し操作手順や設定手順を説明することに多くの時間が必要となります。この繰り返しを効率化するために、説明を動作マニュアルとして録画したり、操作手順を画面内でステップ順にガイドする機能を提供することで、カスタマーサクセスによる繰り返し作業を効率化します。

4.既存のシステムや業務との深い統合が必要なSaaSの場合

SlackやZoomといったシンプルなユーザ体験を提供しているSaaS製品は顧客側に特別な要求がなければ開発不要で利用開始できますが、「自社のサービスに決済機能を追加するSaaS」や「数万人規模が利用する社内の基幹システムと連携するSaaS」といった既存のシステムや業務との深い統合が必要なSaaSの場合は、オンボーディングにおいてかなりの規模の開発が必要になる場合が多くなります。

ハイタッチの理由:深く業務を理解し、適切な開発をリードする

こうした既存のシステムや業務との深い統合を実現するための開発を成功させるためには、既存の業務と導入するSaaSの仕様を深く理解した上で要件を定義し、数ヶ月以上に及ぶ開発をマネジメントしていく必要があります。そのため、オンボーディングは受託開発のプロジェクトチームにも似た体制が必要となり、必然的にハイタッチによる支援が必要になります。

テックタッチの事例:顧客ごとにカスタマイズしたドキュメントの自動生成

既存のシステムや業務との深い統合を実現するための開発を行うためには、APIの仕様などを含めた膨大なドキュメントを提供する必要が生じます。顧客が膨大なドキュメントの中から必要な箇所を把握しやすくするために、ユースケースに応じて提供するドキュメントを自動的にカスタマイズし、クラウドで提供することで顧客は迷いなく、開発に集中することができます。

5.従量課金型SaaSの場合

ユーザ数などに基づいて課金する通常のSaaSがチャーン率をKPIとする場合は多いですが、チャーン率は遅効指標なため、カスタマーサクセス活動が効果的だったかが分かるのはある程度時間が経ってからになります。

一方で、顧客の毎月の利用量に応じて課金するSaaSプロダクトの場合、カスタマーサクセス活動は直近の売上を左右する活動として行われるようになります。オンボーディングにおいても一定の利用量を一定期間維持するといった状態の実現が求められます。

ハイタッチが必要になる理由:製品の利用を顧客の成功に直結させるための提案を行う

従量課金型SaaSの場合、「売上=利用量を増加させる」という面においてセールスに近い側面を持ち、「利用量の増加が顧客の成功に寄与するように専門性の高いアドバイスをする」という面においてコンサルティングに近い側面が生じます。オンボーディングにおいてもカスタマーサクセスは顧客の現状を理解した上で「どの程度、どのように、利用すればどういった成果が出るか」といった具体的な提案を行うためにハイタッチとなります。

テックタッチの事例:活用のためのヒントを自動的表示するガイド機能

従量課金型のSaaSにおいて、顧客がプロダクトを効果的でない方法で使ってしまうと「成果が出ないのに、課金される」という状況に陥り、チャーンの原因となります。そのため、必然的にカスタマーサクセスは「如何に顧客に効果的な使い方をしてもらうか」を提案することが必要になります。こうした提案はミーティングを通じて行われるのが一般的だと思いますが、プロダクト内に活用のヒントやノウハウを適切なタイミングで表示する仕組みを導入することで、よりタイムリーに顧客の行動に変化をもたらすことができます。

6.サービス提供型SaaSの場合

SaaS市場が成熟していく過程で、SaaS自体では差別化せずにSaaS以外のサービス(コンサルティング、アウトソースなど)とSaaSを組み合わせて提供することで差別化を行うようなビジネスが人材育成、組織開発、マーケティングなど様々な領域で増えています。

こうしたサービス提供型SaaSの場合、カスタマーサクセスはSaaS利用以外の部分についても顧客からのフィードバックを受けとり、顧客の現状に対して最適な提案を行っていく必要があります。

ハイタッチが必要になる理由:SaaS内では完結しない顧客の成功を実現する

サービス提供型SaaSの場合、SaaS内のユーザの行動やデータだけでは顧客の成功を確認したり、分析することは難しい状況になります。オンボーディングにおいてもSaaSの使われ方に留まらず、顧客企業に対するサービス提供の最適に行うためにもハイタッチの活動が必要になります。

テックタッチの事例:プロダクト内に自動表示されるNPS調査

SaaSとサービスを組み合わせて価値提供が行われている場合、SaaSの利用状況だけでは顧客の成功を把握することは困難です。そこで顧客が価値を感じているかを把握するために一定の条件を満たしたユーザに対してNPS調査を表示し、回答をしてもらうことによってコストをかけずに顧客の成功を定量的に把握することができ、早期にカスタマーサクセスが次のアクションをとりやすくなります。

ハイタッチ・オンボーディングの効果や効率をテックタッチで改善する

ここまで6つのケースを通じて、オンボーディングがハイタッチになる理由とハイタッチの活動を補完するテックタッチの取り組み事例を紹介してきました。

オンボーディングのテックタッチ化を検討する際には、こうした「自社のSaaSにハイタッチが必要な理由」を理解した上で、「重要なハイタッチ活動をさらに強化するためにテックタッチを併用する」、「ハイタッチ活動の中であまり本質的でない活動をテックタッチに置き換える」といった検討を進めることになると思います。

弊社で現在開発中のVitalではテックタッチ事例で取り上げたようなハイタッチ・オンボーディングをテックタッチで補完する方法を提案しようとしています。「かなりハイタッチのオンボーディングをしているがテックタッチの活用を始めたい」と考えている方でいらっしゃいましたら一度、現在のオンボーディング業務の課題についてお話をお伺いできればと思います。



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