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Q-U式で見る集団類型(2015)

Q-U式で見る集団類型
Saven Satow
Apr, 09. 2015

“One for all, all for one!””

 学級はしばしば曖昧な語で評される。「明るい学級」や「さわやか3組」、「荒れる3年B組」などがそうした例だが、漠然とした雰囲気を示すにとどまっている。観察者による直観的表現では、それが何を具体的に指しているのか不明瞭であり、また実態もその外観と一致しているのか判定することも難しい。

 学級経営の実践を考える際に、定量化して客観的に現状を捉えることが必要である。そうした把握は共通理解となり得る。担当教員も自らの認識を相対化できるし、他者のアドバイスも説得力を持つ。

 河村茂雄早稲田大学教授は学級集団を把握する定量的方法論「Q-U式」を提唱している。これを用いて現状を見える化し、よりよい学級づくりの手掛かりとする。Q-Uは“Questionnaire-Utilities”の略である。和訳は「楽しい学校生活を送るためのアンケート」とされている。”Utility”は「効用」や「功利」とも訳され、学術ではお馴染みの概念である。

 児童・生徒にアンケート調査を実施、それを集計して統計処理、カルテジアン座標に可視化する。学級集団の状態や子ども一人一人の意欲・満足感などを測定できる。教授のホームページならびに著作で示されているので、調査票の内容や図は省く。

 教授の研究室のホームページは「Q-Uは学級集団をアセスメントし、より適切な支援をするための補助ツールです。 学級満足度尺度、学校生活意欲尺度、ソーシャルスキル尺度(hyper-QUのみ)より構成されます」と言っている。ここではクラス全体の状態を把握する「学級満足度尺度」を例に説明しよう。

 クラスの状態は4象限のカルテジアン座標で表される。横軸は「被侵害得点」である。それは「不適応感を覚えたり、いじめや冷やかし等を受けたりしていないか」であり、「ルールの確立」の尺度である。一方、 縦軸は「承認得点」である。それは「子ども達の存在や行動が教師や友人等から認められているか」であり、「リレーションの確立」の尺度である。

 学級の状態は4象限のうち右上の「学級生活満足群」分布が多いほどよく、左下の「学級生活不満足群」が多いほど悪いと判定される。特に左下隅に位置するのを「要支援群」と呼び、送球の対応が必要である。右下の「非承認群」の子は学級内で認められることが少なく、意欲も低い。左上の「侵害行為認知群」は自己中心的だったり、被害者意識が強かったりする。

 教授はHP上でその5群について次のように述べている。

学級生活満足群(右上)
 児童・生徒間の人間関係が良好であり、また教師との関係も良く、集団活動や学校生活に意欲的に取り組んでいく最も望ましい状態であるといえ、全体指導を通じた指導が可能です。
非承認群(右下)
 友人から嫌な事をされている場合は少ないものの、周りから認められるという経験が少なく、全体指導の中での個別的な支援が必要であると想定されます。
侵害行為認知群(左上)
 友人から認められてはいるものの、嫌な事をされている場合があり、全体指導の中での対人関係面での個別的な支援が必要であると想定されます。
学級生活不満足群(左下)
 クラスの友人から嫌なことをされたり、また友人から認められる経験が少ないという事が想定され、不登校のリスクが高く個別的な支援が必要な状態といえます。
要支援群(左下隅)
 不満足群の中でも、いじめ被害や不登校になる可能性がとても高く、早急に個別対応が必要な状態と想定されます。

 この5群の分布傾向から学級集団全体の状態が明らかになる。教授は集団を次の6タイプに大別している。

満足型(親和的なまとまりのある学級集団)
 右上に分布。学級にルールが内在化し、親和的な関係が成立していると想定されます。子どもたちが自主的に活動し、学級全体に活気が見られる状態といえます。
管理型(かたさの見られる学級集団)
 右上と右下に分布。学級は一見落ち着いて見える反面、子どもたちの意欲には大きく差が見られ、人間関係が希薄となる事と想定されます。
なれあい型(ゆるみの見られる学級集団)
 右上と左上に分布。学級は一見のびのびしている様に見える反面、学級のルールが低下している事が想定されます。
荒れ始め型(荒れ始めの学級集団)
 右上と左下に分布。管理・なれあい型の状態で具体的な対応がなされないと出現する事が想定されます。学級にあったプラス面が徐々に喪失していき、教師はリーダーシップを発揮する事が徐々に難しくなり、子どもたちの間に攻撃性が目立ち始める状態といえます。
崩壊型(崩壊した学級集団)
 左下に分布。学級生活不満足群に7割以上の子どもたちが属する状態で、学級が教育的環境とは言い難い状態と想定されます。
拡散型(ばらばらな学級集団)
 4象限に分散して分布。教師からルールを確立するための一貫した指導がなされていないと想定されます。子どもたちの学級に対する帰属意識が低く、教師はリーダーシップを発揮する事が徐々に難しくなり、時間の経過によって荒れ始めの学級集団に移行する可能性が高い状態といえます。

 分布傾向からこのような6つの集団類型が見出せる。ルールとリレーションの共有が満足度の高い集団を形成する。最も望ましいのは満足型である。管理型やなれあい型、拡散型から荒れ始め型、さらに崩壊型へと向かう。荒れ始めると、対応が困難になるので、その前で対処するのが適切である。

 長年に亘る日本の教育問題は格差である。メディアや政治を含めて一般的にそう認知されていないが、最も根深いのはこの問題だ。意欲・学力の二極化の改善が専門家の間で共有されている。

 Q-U式に従うと、学級が管理型になると、格差が生じやすい。学校内外の問題に対処する際に、管理強化がしばしば指向されている。この学級経営の方針が格差の大きな一因であるなら、改善しないのは。むしろ、当然である。

 しかも、子どもの自主性を損なうというのが通常の管理教育への批判であるが、Q-U式は人間関係を希薄にすることが問題だと指摘する。集団でなければ学習できないことを扱うのが教室である。コミュニケーションや社交性などは一人学習で向上することは難しい。ところが、管理教育は人間関係を希薄にするため、この集団学習の効果を殺いでしまう。管理教育でクラスの連帯を説くのは矛盾でしかない。

 タイプによっていじめも異なることが知られている。教授は先の3タイプに関して調査している。満足型にいじめが少ないのは予想がつくだろう。管理型と馴れ合い型でいじめの特徴に違いが認められる。前者ではグループが二極化し、格差が生まれる。できる子によるできない子へのいじめが主である。後者は小グループに分かれ、その間で摩擦が生じる。他のグループの目立つ子が狙われる。

 いじめが発生すれば、教員は個別対応に迫られる。けれども、全体の歪みからもたらされているので、他でも起き始め、教員の手に負えなくなり、荒れ始めてしまう。この状態からの脱却は一人ではとても困難で、教師のチームワークが必須である。

 学級という特殊な集団を対象にした調査研究の成果であるが、この類型は非常に興味深い。同様の厳密さを確保できるわけではないので、安易な拡張は慎まなければならない。しかし、理念型として集団の見立てとして利用することができよう。団体や組織、共同体、社会、国家に対しても認知の参考になる。

 権威主義の国家体制を考えてみよう。これは管理型である。社会秩序は一見したところでは安定していると見える反面、人々の意欲には大きく差が見られ、人間関係が希薄となってしまう。政府の強権的手法は社会に二極化を招き、人間の絆を弱め、格差間の対立をもたらす。

 これは安倍晋三政権の統治そのものだ。この内閣発足以来、あらゆる方面で格差が顕在化したが、それは彼ら自身が招いたものだ。独裁手法を続ける限り、解決どころか、悪化させるだけとなる。支持派は盲信、反対派は嫌悪する。この二極化の下で政府が沖縄いじめを行っている。あまりにも見立て通りだ。

 自民党の集団構造も今は管理型だろう。それに対し、三角大福中の時代はなれあい型と見なせる。同じ名前だが両者は別物だ。

 管理型は、先に述べた通り、人間関係の希薄をもたらす。3・11は絆の重要性を日本社会に認知させたのであり、安倍政権は今日の統治担当に最もふさわしくない。そんな彼らが教育の管理強化をするなど傲岸無知も甚だしい。

 見立ては国際政治にも適用できるだろう。内戦状態は崩壊型である。これに至る段階で、権威主義であれば管理型、政権のたらい回しであればなれあい型と見なせる。前者はリレーションが希薄であるため、格差間の対立が激化して荒れ始める。他方、後者はルールの共有が乏しいので、中小勢力が乱立、その衝突が混乱に至る。

 Q-U式は学級経営の実践への示唆に富む。禁欲的な研究であるため、クラスを諸世界の縮図として捉えるなら、この成果を他の集団の把握に応用できよう。この見立てが厳密に妥当するかは重要ではない。理念型として利用すれば、複雑な状況の理解の助けになる。
〈了〉
参照文献
河村茂雄、『学級づくりのためのQ-U入門─「楽しい学校生活を送るためのアンケート」』、 図書文化社、2006年
早稲田大学教育学部河村茂雄研究室
http://www.waseda.jp/sem-kawamura/

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