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結婚するって本当ですか(5)(2012)

第5章 結婚ビジネス
 人口減少や非婚率の上昇といった状況にもかかわらず、結婚ビジネスは活況を呈しています。結婚情報サービスの広告を目にしない日はありません。

 日本初の結婚相談所は、1880年に大阪で開設された「養子女婿嫁妻妾縁組中媒取扱所」だとされています。養子や愛人も紹介していましたから、結婚に限定してはいません。20世紀ほどではありませんが、都市化が始まります。特に、大阪に地縁・血縁の薄くなった人たちが集まり、それを背景に生まれています。庶民層が「高砂屋」として利用したようです。同じ頃、自分の略歴や相手の希望条件を掲載して結婚相手を捜す新聞広告も登場します。その後、1933 年東京で、公立の結婚相談所が設立されます。

 1960年代から仲人不足により自治体が中心となって結婚相談事業を始めます。さらに、都市への人口集中に伴い過疎化が進み、マッチングが難しくなります。周辺地域のみならず、北海道の別海町と大阪の枚方市のように、都市と地方の連携も見られます。

 また、民間の結婚相談所が成長していきます。ただ、結婚できない人のすがるところといったネガティブな印象があります。その他に、メーン・バンクを中心に「ファミリークラブ」と呼ばれる企業が福利厚生・社会貢献を目的に社内向けの結婚紹介センターを設立しています。三菱グループですと、「ダイヤモンドファミリークラブ」です。現在も続いています。これは、社員の福利厚生のためではなく、スパルタ的結婚のようなもので、妻が寿退社した後でも、社内の事情を知っているから、夫の仕事に理解を示すだろうという思惑があります。

 結婚相談所のイメージを変えたのが1973年に開業したアルトマンです。このドイツ資本の企業は、選ばれないから相談所に足を運ぶではなく、選んでいるあなただからこそここにやってきたという宣伝を打ち出します。結婚は感情でなく、理性で行うものとしてコンピュータを活用した情報サービスや心理分析によるマッチングシステムを導入します。

 コンピュータによるデータ管理において、性格や相性をデジタル化できませんから、学歴や身長、収入といった定量化に向く項目がメインになります。結婚相手として理想的な男性を意味する「3高」、すなわち高学歴・高身長・高収入はこうして一般化します。女性の意識の変化の産物ではないのです。

 アルトマン以降、OMMGやサンマーク・ライフクリエーション、キューピッド、ジャスコグループのツヴァイ、ユニチャームグループのアカデミックユニチャームなど次々に結婚情報サービスの企業が誕生します。なお、先駆者のアルトマンは1995年に倒産しています。

 結婚ビジネスの市場規模についてですが、ほぼ5年ごとに実施される特定サービス産業実態調査に詳細がまとめられています。結婚式場業や結婚情報サービス業等が対象です。2005年の結婚式場業の年間売上高は8,911億4,600万円、事業所数は2,826、就業者数は98,668人です。また、特定サービス産業動態調査には両業種の最新の売上高などが月別に掲載されています。2010年1月の結婚式場業の売上高は90億7,200万円です。

 結婚情報サービス業の市場規模等については、2006年5月に経済産業省が発表した「少子化時代の結婚関連産業の在り方に関する調査研究報告書」に簡潔にまとめられています。これによれば、結婚相談業・結婚情報サービス業の市場規模は500〜600億円、事業所数は3,700〜3,900程度であり、約7割が個人事業者です。地域密着や熟年層に特化した結婚相談所もあり、セグメント化しています。

 冠婚葬祭業界の動向・展望については『TDB report』2010年2月特集号である「TDB業界動向 2010(2)」に簡潔にまとめられています。ブライダル業界は結婚適齢人口の減少傾向と婚姻率の低下を背景に市場が伸び悩んでいるものの、多様な挙式スタイルの開発・対応が発展の鍵となっており、ハウスウエディングが人気を集めています。

 なお、冠婚葬祭ビジネスの動向については、『日経MJ』2010年11月10日号が第28回サービス業総合調査の結果を取り上げています。結婚式場・手配の売上高は前回調査から4.6%増です。伸び率は前回を4.1ポイント下回りましたが、一生に一度の晴れ舞台に出費を惜しまない傾向 は続いています。売上高ランキングは、1位がワタベウェディング、2位がテイクアンドギヴ・ニーズ、3位がベストブライダルとなっています。

 結婚ビジネスの背景となる婚姻件数についてです。厚生労働省の「平成21年人口動態統計の年間推計」によると、婚姻件数は71万4000組で、08年の72万6106組より1万2000組減と推計、婚姻率は5.7パーミルとなり、同じく前年の5.8を下回ります。また、離婚件数は25万3000組で、08年の25万1136組より2000組増と推計、離婚率は2.01となり、同じく前年平成20年の1.99を上回ります。この調査の対象は日本における日本人、「人口動態統計速報」の09年1月~10月分及び「人口動態統計月報(概数)」の09年1月~7月分を基礎資料として、09年の1年間を推計しています。婚姻件数は昭和末期から2001年前後まで増加傾向にあったものの、その後は減少しています。なお、この統計には事実婚等はカウントされていません。国際結婚は全結婚件数の5~6%とされています。かつては日本人女性と外国人男性との結婚が多かったのですが、75年から日本人男性と外国人女性に逆転、後者が前者の4~6倍程度です。この外国人女性の出身はアジア地域が主です。

 2000年代、新自由主義の隆盛から結婚を競争のように捉える風潮が一部であります。それは、確かに、結婚ビジネス関連の企業にとってはそうでしょう。自分たちもいつアルトマンのようになるか知れません。生存競争に必死です。しかし、それは結婚自体が競争だということではありません。

 権利としての結婚は社会の動向を反映しやすいものです。そうであればこそ、中には結婚に関する本質的な認識を突きつめながら、結婚相談に携わる人もいるのです。

 結婚を否定するのではない。そこに希望を持つことを非難するのでもない、ただ、結婚への期待の背後にある社会の都合を注意深く意識すべきだと思うからだ。最近は少子化と関連して未婚化を嘆き結婚を絶対化して人を追い詰めていく風の強さを感じる。国家の将来がかかっていることは認識しているが、それが強いほど、私自身が引いていく。結婚の選択はどこまでも本人の裁量だ。国家の思惑が個人の選択権を犯してはならないことは言うまでもないが、「結婚」を幸せ論、人間の義務論で押していくと、それが忘れられがちになる危うさを孕んでいる。
 私が、問いたいのは、未婚率を上昇察させている若年世代をどう見ていくかという問題だ。結婚しない、できない、行動しない。そんな若者が抱える、社会不安、雇用不安、将来不安は想像以上だ。なぜ働くのか、自分には何ができるのか、誰が自分を受け入れてくれるのかと、重たい心をもっている。例え雇用が安定していても、時間的制約のなかで刻々と中年未婚になる焦りもないわけじゃない。そんな声なき声のへの対応をどうするのかということこそ、社会的課題だということだ。経済成長を後押しし、終身雇用、年功序列、社会通念としての結婚・出産・子育てをしてきた親世代に、どんな助言ができるのだろうか。親世代の価値観が通用するのだろうか。子どもの行動にうろたえ、不安を持ち、子どもを突き放せないのは、親世代にも子どもの未来が見えないからだ。子どもの問題、若者の問題を家庭や親の責任で論じることへの限界を相談所のなかでも感じてきた。
 見落としがちな「若者」を見直し、彼等が自己実現を図る喜びを得ることのできる空間を探さなければならない。時代の変化のなかで、いままでの「結婚の形」は間尺に会わなければ、新たな形を探さざるを得ない。求めてきた繁栄が不安を生むなら、さらに違う世界を模索するしかない。夫婦のやり直しができなくても。自分の生き方の再編は自分次第だ。歴史の針を戻すのではなく、歴史に学んで考えなければならず、それは結婚探しとリンクする。未婚率の上昇さえも、新たな結婚探しの過渡現象ととらえれば肩の力を抜いて楽に相談に乗れる。
(板本洋子『追って追われて結婚探し』)


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