見出し画像

中台の新時代(2014)

中台の新時代
Saven Satow
Feb. 14, 2014

「昨日の淵は今日の瀬」。

 2014年2月12日、台湾の王郁琦行政院大陸委員会主任委員は南京で国父孫文の墓である中山陵を訪れる。台湾の対中政策担当閣僚として初の訪中である。彼は、参拝後、「孫中山先生が創建したアジア初の民主共和国、中華民国はすでに103年が過ぎた」とし、孫文の提唱した民族主義・民権主義・民主主義の「三民主義」が台湾で実践されていると述べる。さらに、「今後、最も重要なことは、台湾海峡の双方が両岸の現実を直視することだ」と強調している。これは国民党による台湾統治の実績の表明である。

 また、2月13日付『朝日新聞』によると、王主任委員は、12日、南京大学で講演を行っている。習金平国家主席の「中華民族の偉大な復興」の提唱について、「軍事的な強権を強めるだけでなく、王道の精神で周辺地域の平和を促進すべきだ」と言っている。これは覇道ではなく、王道を指向すべきだという孫文の思想を踏まえている。彼は北京にその共有を促している。

 王主任委員の発言に対し、中国国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は「孫文の功績はすでに歴史となった」との談話を発表している。共産党が近代中国史における国民党の貢献を認めない長い時期があったことを考えれば、これは画期的な出来事である。

 中台はすでに経済面で相互依存を深めている。しかし、北京は政経分離の姿勢を内外に示し続けている。一つの中国論にそぐわない意見には時としてエキセントリックなまでに講義する。

 北京が他国や国際社会に反発するのは、彼らが国家主権を脅かされていると判断した時である。領土や人権、少数民族などがそれに当たる。この点を理解していると、北京の反応は非常にわかりやすい。

 中国は清朝末期から長らく半植民地状態に陥っている。そのため、国家主権の侵害に過敏である。当時はともかく、今の時代でこれだけの大国になって、そうした態度をとるのはいささか大人げない。

 一つの中国は、北京にとって、まさに国家主権の問題である。ところが、今回、台湾に対して柔軟な姿勢を見せている。中台いずれも歴史の共有こそが今日の国際社会における連携の基礎となることを理解している。冷戦ではイデオロギーの共有が協力の基盤となったが、もはや時代は変わっている。

 もちろん、中台関係は当事者だけで決まるわけではない。東アジアの安定を望むアメリカの意向も大きく影響する。北京はその米国に対しても従来と異なった姿勢を見せている。

 ジョー・バイデン米副大統領が訪中するに先立ち、中国外務省の洪磊報道官は13年12月3日に北京で行われた定例記者会見の中で、「中米の新型大国関係の確立に向け新たな進展をもたらして欲しい」と述べている。これは北京の国際関係に関する認識転換を意味している。 

 中国は、従来、大国間の競争が国際秩序を形成すると考えている。この過程の中でどこか一国が生き残るのであり、他は衰弱する。けれども、「新型大国関係」は複数の大国が共存できるという思考である。北京は一元主義から多元主義へと認識を改めたというわけだ。建国以来の国際認識を変更したのだから、これは大きい。中国は国際標準の考えを受け入れたとも言える。

 中国が外交で最も恐れるのは国際的孤立である。天安門事件とソ連の解体は中国をかつてその状況に陥らせている。西側に接近したのに、天安門事件で急速に関係が悪化している。また、中ソ和解したのに、当のソ連がなくなってしまう。あの頃の二の舞にならないことがその後の北京の外交方針である。

 習金平主席の中国は外交に関して転換を図っている。外交でへまばかりしている安倍晋三政権の日本と違い、中国が国際的に孤立することはあり得ないだろう。安倍政権は中国包囲網を敷くことをもくろんでいるらしいが、実際には自ら日本包囲網を構築している。

 新華社通信によると、11日に王主任委員と会談した張志軍国務院台湾事務弁公室主任は、12日、南京大虐殺殉難同胞記念館を訪れる。彼は、日本から虐殺を否定する発言が出ていることに言及し、「両岸には違いもあるが、民族の根本利益をめぐっては共同の立場、態度を表明すべきだ」と台湾に連携を求めている。

 ここから今の日中の違いがよくわかる。日本が国際連携の共通基盤を冷戦さながらの価値観やイデオロギーだと信じているのに対し、中国が歴史にそれを見出している点である。安倍政権とその周辺は歴史を自国だけのものと思いこんでいる。歴史を共有する気がないなら、日本はさらに孤立化を深めていくだろう。
〈了〉

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?